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2007-08-04

嗤う伊右衛門  : 京極夏彦

 「四谷雑談集」「東海道四谷怪談」といった古典のテクストをほどき、京極氏の手によって新たに織り上げられた岩と伊右衛門の物語。

 「闇」「境界」「隙間」。「闇」と「己」の境界、「境界」を破って何かが侵入してくる、又は流れ出していく「隙間」・・・そういうものが息苦しくなるような切迫感をもって繰り返し書かれる。

 黒々とどこまでも広がる世間に対して、薄い境界一枚隔てて、己を保つことの不安・・・閉じて膨れるか、破れて流れ出るか・・・息苦しい闇の中で、男も女も互いに触れようとする手はすれ違いを続ける。


 美しい顔は崩れても心根は正しく、そして己の正しさに頑なな女・岩

 笑わず、主張せず、他への気遣いに磨り減っていく悲しい侍・伊右衛門

 “誠実・実直な侍”という殻を拠り所に生きてきた岩の父・又左衛門

 訳もわからぬ自らの不機嫌に苛まれる悪役・伊東喜兵衛

 妹一途の不器用な男・直助権兵衛

 鈍だが邪気のない按摩・宅悦

 自分では全て承知、自分のことも相手のことも皆解っているつもりで振舞いながら、闇の中で自らの境界が溶けていくこと恐れる心に、互いの想いは分厚いガラスを通したように屈折して触れ合うことが無い。

 それぞれに正しく生きているはずの男女の、悲しく美しい純愛物語のような、または愚かしい一人相撲の挙句の悲劇のような・・・。

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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2007-06-27

覘き小平次 : 京極夏彦

 死んだ者のように生きる、ただただ自分の存在を薄いものにし、押入棚の一寸五分の隙間から世界を見つめるだけの小平次。

 “何もしない”小平次を鏡にして、周囲の者の心が浮かび上がる。
 
 小平次の周囲に呼び寄せられるように集まってくるのは・・・親の苦境を救う為に我が身を男娼家に売った玉川座の女形・玉川歌仙、歌仙を陥れ、歌仙の一家を惨殺した仇・運平、歌仙の絵姿に懸想して道を踏み外した娘・宝児、小平次の女房お塚に惚れているごろつき上がりの鼓打ち・多九郎・・・。



 “親の身を思うのではない。親によって守られた自分の世界を大切に思うだけだ。”

 “何をしても面白くない、何も感じない。怒っているわけではないが、だた訳もなく機嫌が悪い。”

 “絵姿の男が恋しい。現実など知ったことではない。”

 “人としての存在を持つことに意味を見つけられない。存在の重さに耐えられない。”

 ・・・深い因縁で繋がった登場人物、芝居がかった台詞まわしはいかにも時代物の怪談仕立てではあるけれど、登場人物たちが抱える闇は現代の事件に垣間見える人の闇。

 「無理をして楽になるのと、無理をせずに苦しむのでは、どちらが良いのだろう。」 ・・・小平次がお塚にもらす言葉。

 「無理をせずに苦しむ」・・・一個の人である面倒くささから逃げる代わりに、常に輪郭のぼんやりとした不安を選んだ小平次。周囲の者が、何もせずただ在るだけの小平次を嫌い、蔑み、憎むのは、彼らが「無理をして楽に」なった者たちだからだろう。本来近しいものであるはずなのに、自分達が嘗めている「無理をする」ことのストレスを放棄しようとする小平次は許せない、腹立たしい存在に違いない。私とて、身近に小平次がいたとしたら・・・多分・・・嫌いだ。

 この小説、「巷説百物語」の登場人物たちも、物語の筋書きに一枚かんでます。

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