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2008-08-13

赤江瀑の「平成」歌舞伎入門 : 赤江瀑

 伝統芸能の世界を舞台とした妖艶・絢爛たる作品を数々世に出しておられる赤江瀑氏が「平成」の歌舞伎を語る。

 群雄割拠で盛況を呈する「平成」歌舞伎の現状について、当代の人気・実力派俳優の持つ花について、それぞれの芸に触れながらの解説。そしてその中から、歌舞伎の世界の側、観客の側にひそむ問題・・・懸念の種を示唆する内容になっているが、全体的に歯切れの悪い印象が残る。歌舞伎というものがそもそも歯切れよく語れるものではないのかもしれないが・・・。

 赤江氏の情念的な文章が、新書の文字サイズ、ページレイアウトで配置されると、どこか色気と言葉のパワーを削がれてしまうように感じるのは気のせいだろうか? また、「入門書」という形で歌舞伎への入り口を読者に提示することへの疑問・抵抗を感じておれれるようにもお見受けする。「鑑賞教室」や「入門書」で入り口を示すことは、それぞれの体験・感性に従って無限にも拓かれるべき歌舞伎の楽しみ方、その世界へ踏み込んでいく道を狭めることになるとの思いが、赤江氏の筆を止めているのではないか?

 やはり、赤江氏が歌舞伎について何かを書くなら小説で、その複雑怪奇で、なかなか正体を現さないその芸能が持つ魔力、美しさ、怖ろしさを存分に描いていただくのが最上ではないか。入門書で示す道よりはるかに険しくも誘惑に満ちた妖しの道を示してくれるのに・・・。

 歌舞伎を語り始める導入部分で「野郎歌舞伎」と呼ばれた時代の歌舞伎に思いを馳せる赤江氏の言葉が感動的。歌舞伎の世界を見渡して解説する後の章の文章よりも、赤江氏の思い入れが一点濃く現れるこの件が、私を含め読者にとっては一番刺激的なのではないだろうか。

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2007-09-15

上空の城 : 赤江瀑

 記憶の中にまざまざと浮かび上がる大天守。絵に描けるほど細部まで見える、窓の無い黒々としたその姿はしかし、実在するどの天守閣とも異なっていた。黒い大天守は狂気の産物か、それとも歴史の謎を封じた鍵か。

 謎を追う中で目にした「黒い姫路城」の絵図。天空高くそびえる天守閣は人ならぬ魔の領域のもの。天守に巣食う魔性や怪を封じ込めた「影の城」。

 夏の日のめくるめく光の中に、過去と現在が、現と魔の刻が交叉する。

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2007-08-18

ポセイドン変幻 : 赤江瀑

「恋牛賦」
 京都のとある寺院の杉戸に描かれた1頭の牡牛の絵。荒々しく踊り出さんとするようなその牛の躯を墨一色で杉戸に焼き付けた男は、鋭い牛の角で自らの腹を突き、その場で息絶えた。

「春猿」
 初役の弁天小僧に臨む若手花形の歌舞伎役者・七之助。その側で床山・ヒカルはかつて七之助と見た、旅回りの役者・芳沢春猿の演じる弁天小僧を思い出していた。崩れかかった鬘に粗末な衣装、場末の小さな小屋で演じられる田舎芝居・・・その中に一瞬、身震いするような本物の弁天小僧の姿があった。

「ポセイドン変幻」
 サメに恋人を奪われた女、サメに家族を殺された男。片頭のシュモクザメ=海魔に憑かれた男女の地獄。

「ホタル闇歌」
 生まれて間もなく川に捨てられていた僕の身体にはホタルの幼虫がびっしりと群がりよせ、ぼうっと光を放っていた。
 ホタルが飛ぶ季節になると妖しい衝動に身体が包まれる。肉を喰うホタルにとりつかれた青年の闇。 

「行灯爛死行」
 瀬戸内のある島でひとりの青年の焼け爛れた遺体が見つかった。遺体は私の同居人で従兄弟である憲春のものであった。父に疎まれて生まれた自分の出生の因縁から逃れることができなかった憲春。憲春とその父の死の謎を追い求める先には、火を抱いて生きているように動く織部の燈篭が・・・。

「八月は魑魅と戯れ」
 奇妙な遺書を残してのひとりの人形作家の死。彼の作る人形は霊の世界とも通じると言われた。過去のある事情から人形に宿る霊の力を必要とし、四年半を人形作家と共に過ごした稔。その稔にも人形作家の死は謎だった。なぜ彼は死ななければならなかったのか。
 

 この作品集に収められているものは、赤江作品の中ではちょっと間の悪いものが集まってしまったようです。

 まず、赤江作品を読んだときに感じるあのうねるような独特の作品の流れ・律動のようなものが見えない。冒頭なら冒頭のリズム、中盤へ向かう追い込み、終盤へなだれ落ち、突然幕を切ってみせる潔さ・・・いつもならその流れに急き立てられるようにページを捲り、あっという間に読み終えているのに・・・今回の作品はずっと同じ調子で物語が進むようで、こんなに赤江作品を長いと感じたのは初めてでした。

 また、赤江氏の作品といえば、芸能や芸術の美、または鳥獣などの生きものの美しさに魅入られ、余人の窺い知ることのできない恍惚と闇の世界に踏み込んでしまった人たちがよく描かれます。そしてその美の恍惚とともに肉体的官能が煌くように描きこまれ、読者はその耽美な世界にのみこまれていくのが常なんだけれど・・・。

 本書の収録作では、登場人物たちの心に食い込んでいる美への執着、心を狂わすほどの妄執と分かちがたく結びついているはずの彼らの肉体的な官能が、どうもちぐはぐな感じがするのです。また、作中の男を女を虜にし、心を狂わせたもの達・・・「恋牛賦」の牛、「ポセイドン変幻」のサメ、「ホタル闇歌」のホタル・・・いずれも、それほどまでに彼らの心に食い込んだというには説得力が薄い・・・シチュエーションに無理があるような気がしてなりません。

 濃密に絡み合って一つの妖しい世界を作り出すはずの糸が、こういうふうにどこか一つでも綻びていたら、赤江氏の作品は急にあの濃い香りも、どろどろとした肌触りも失って、伝奇小説とも官能小説ともつかない奇妙なものになってしまいます。

 赤江氏の作品は非常に危険なギリギリのバランスの上に成り立っている・・・それを強く感じた作品集でした。

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2006-08-20

遠臣たちの翼 : 赤江瀑

 私に「赤江瀑」という名前を強烈に印象づけた作品。能の巨人・世阿弥に魅入られた人たちの美しくも悲劇的な、そして皮肉な行く末を描く連作。ある者は余人の窺い知ることのできぬ境地に至り、ある者は深い迷いの道に堕ち・・・。

「元清五衰」
 活躍を期待された中央演劇界を捨て、世阿弥と同じ「元清」という名を負って自らの芸の道を進む泉村元清。能の「砧」に材を取った彼の一人芝居「打てや打てこの砧」は日に日に研ぎ澄まされ、芸の高みを極めていくが・・・。

「踊れわが夜」
 文壇の古参・高任大汐に「世阿弥」を見た若き前衛舞踊家・泰朝。交流を深める高任の一家と泰朝だが、高任家に渦巻く悪意が語られた時、不可解な悲劇が。

「春眠る城」
 幼くして両親を失い、故郷を離れた邦秋は、生家の記憶を元に「平家蟹の棲む家」の童話を書く。童話作家になる気などなかった邦秋だが、平家蟹の童話発表後にふとしたきっかけで出会った「花伝書」。世阿弥の花を夢想する彼は、夢に迷う。

「しぐれ紅雪」
 人気の若手歌舞伎俳優、仲村七之助と芳沢君太郎には何人にももらさぬ秘密があった。君太郎・七之助が演じる「累」の怪しい魅力と、それによって運命を狂わせる一人の女性。

「日輪の濁り」
 ひたすらに世阿弥をあがめて生きる旧家の女性三代。いつしか萌す小さな悲劇の種。

 
 独特の香気と粘度を持つ赤江氏の言葉は、登場人物たちの狂おしい心理を濃密に描くかに見えて、実は深く踏み込みことはせず、表に表れた事象をなぞるに止まる。しかし、文字では書かれない、そのことによってこそ深い深い心の闇の幻想的な物語が眼前に浮かび上がってくる。姿を現すかと思うとするりと逃げ、色々な様相を見せるその書き記されない幻想譚こそがこの作品の本当の世界・恐ろしさであり、それを追うことが本作を読む真の楽しみであると思う。

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2006-08-16

赤江瀑

 「遠臣たちの翼」に出会って以来、赤江瀑のファンだ。後から考えてみると氏の作品自体はそれまでにも読んだことがあったのだが、「赤江瀑」という名前を意識するようになったのは、「遠臣たちの翼」を読んでからのこと。

 赤江瀑の短編は濃密だ。読んでいると、ねっとりと粘度の高い汗をかいているような気分になる。

 頁を開くといきなり尋常ならざる場面と対峙させられる。“っ”っと息を呑んだ瞬間に場面は転換し、時間を過去にもどして、そのただならぬ場面に至るまでの物語が語られ始める。語り手の後についてうねうねとした藪の中の細道を歩いて行くうちに、うっすらとほの暗い予感めいたものが現れ・・・歩みが速まり視界の先に冒頭の場面が見えるかという時、突然夢が絶たれるように物語は終わる。瞬間我に帰ると、そこは断崖絶壁の突端。踏み出そうとしていた足の下は底も見えないような崖・・・。

 非常に言葉足らずではあるが、これが赤江氏の短編を読む毎に感じる感覚。

 赤江氏の短編は日本の伝統芸能や土着の風習を題材にとられたものが多く、常軌を逸した情念や執着に囚われた人を繰り返し描いている。過剰な思いをあからさまに現す人物には胸が苦しくなるが、それよりも、さらりと普通の生活をしているかに見える善人が、ふと逢魔が時に鬼に会うように、ちらりとのぞかせる狂おしさが非常に怖い。

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