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2018-03-17

人形たちの夜 : 中井英夫

『人形たちの夜』 中井英夫

 ひとくちに情念といっても近頃のものはどこか作り物っぽくプラスチックな肌触りがするのだが、いまでは様々な事情で目や耳にすることのなくなった言葉をふんだんに用いて語られる昭和の情念はまるで土か泥でも胃の中に詰め込んだかのようにズ~ンと重くこたえる。

 ・・・というような感想を書きかけていたのだけど・・・。最後まで読み通してみるとこれはただ情念のみで語られた物語ではなく、冴えた眼と感性で世の有様を見通し、その上で自分が一人の人間として世の中に在る為に生み出された物語であった。


 とある寺に所蔵された職人尽絵の屏風。その屏風を前にした主人公の中で醸されていた想いを源に物語は生まれ出る。
 ひどく不気味なことがいまにも起るのではないか。~略~ こうして職業がとめどもなく分化してゆくにつれ、人間は少しずつ互いに疎遠になり、ついには他人のしていることがまったく理解出来なくなって、とうとう人形のように言葉も交わさず、表情も動かさなくなるのではないか~

 職人尽しの古い屏風絵から、あまりに細分化された現代の職業を思い、さらにそこに時代が孕む不気味なものの気配を感じ取る感性はあまりにナイーブで鋭い。

 そのようなナイーブで鋭い心をもつ主人公が必要とした物語~もう一つの現実。やがて目にする結末は、読者である私たちにとっても、強靭な意志で独り孤独に物語を語ってきた主人公自身にとっても意外な、そして尊いものであった。

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