2014-06-07

世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密 : 山田航・穂村弘

『世界中が夕焼け―穂村弘の短歌の秘密』  山田航・穂村弘

バービーかリカちゃんだろう鍵穴にあたまから突き刺さってるのは
               『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』


 鍵穴に頭から突き刺さった人形。山田航氏はこの一首から、鍵穴に人形を突き刺すことによってその扉を開けようとした人物の狂気とも言えるほどの強い意思と、その狂気への作中主体(まみ)の共感を読みとっている。

 通常の方法では開かない『未知の空間』への扉が、リカちゃん人形の首でなら開くかもしれないと思うその切迫感にはゾクリとする。だけどやっぱり、鍵穴にリカちゃん人形を突き刺す人のヒリヒリ感よりも、鍵穴に人形を突き刺しかねない人が、それでもちゃんと鍵穴には鍵を差し込んでいる痛々しさの方が私は好きなのだ。

 ・・・などと思いながら読んでいたが、穂村弘氏がこの歌に込めた情景はもっと壮絶なものであった。バービーもしくはリカちゃん人形は誰かの手で鍵穴に差し込まれたのではなく、その扉を開けるべく自ら命懸けで鍵穴に飛び込んだのだ。歌われたのはそのミッションに殉じた彼女たちの姿。

 何と言うか・・・穂村氏の抱えている欲求は、私が思っているのよりもはるかに強いと、いつものことながら思い知らされる。私の欲求なんて精々“世界の中にいる自分を肯定したい”というとこであるが、穂村氏は世界に呑み込まれない個を希求する。

 穂村氏は、神のような絶対的なものや、世界という無限の広がりを持つものに対して、「夢に出てきたガールフレンドの髪型が中途半端」であったり、「一億年後の誕生日が曇り」であったりする今一歩残念な感じだとか、ドラマ性の無さこそが『個としての人間の尊厳』であるという。
 
 「ちっともドラマチックじゃないこと」や、「世界よりも圧倒的に小さくて有限であること」を武器にしてまで世界に抗いたいという穂村氏の欲求の強さにただ絶句する。

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