2013-06-22

完璧な涙 : 神林長平

『完璧な涙』 神林長平

 喜び、悲しみ、怒り・・・一切の感情を知らない少年・本海宥現(もとみひろみ)。長い彷徨の果てに流れる一筋の「完璧な涙」。


 かつての文明がすべて砂の海に没した後・・・地球を覆った広大な砂漠に点在する街は、「銀妖子」と呼ばれる正体不明の存在(街の住人達はそれを街を守る妖精と認識している)によって維持・管理されていた。「銀妖子」に守られた街で生きていることへの違和感を感じつづけ、また「感情」を理解しないが故に家族の中で孤立していた宥現は、街を出てひとり砂漠へと旅立つ。
 
 砂漠に埋まった遺跡から掘り出された黒く巨大な戦車の形をしたマシン。自分の脅威となるものを徹底的に攻撃し、破壊するようプログラムされたそのマシンは、宥現を脅威となる目標と定め、襲い掛かる。突然現れた圧倒的な破壊の力にさらされながら、宥現は砂漠で出会った女・魔姫と共に終わりの見えない逃走・闘争へとまきこまれる。


 「現実」とは無数の「過去」と無数の「未来」の接点に現れる無数の「現在」のひとつでしかない。「過去」と「未来」が浸食しあい「時間」と「現実」がゆれ動く世界で、どこまでも自分を追ってくる黒い戦車の気配を感じながら、次々と現れる奇妙な街(そのありさまは少年の不安定な内面世界のようでもある)~いくつもの「ここではない何処か」を彷徨う宥現。 

 以前読んだ『猶予(いざよい)の月』にも感じたのだが、これはSF的世界に場をかりた「自分探し」もしくは「通過儀礼」の物語か。

 全てが幻のように感じられる世界の中で、自分の命を狙い追ってくる黒い戦車だけが、唯一自分に感じられる現実だと思う宥現と、自らの探索能力の限りを尽くして、時間も空間も混沌とした世界の中から宥現の存在を探し当て、その標的が何者であるのかを知ろうとするマシン。何よりも恐ろしいものでありながら、何よりも強く求めあう・・・生き残るために互いを滅しようとしながら、分裂した半身のように強烈に引き合う二者。

 「自分に脅威をもたらすものに報復し破壊する」マシン・・・その不気味なまでに完璧な能力。圧倒的な恐怖そのものであるような黒い戦車が、その完璧さゆえに、敵が何者であるのか、そしてその敵に狙われる自分は何者であるのかという疑問に行き着く様は何か切ない。

 宥現の眼前に迫る黒い戦車。宥現は自分を脅かしつづけたものの名を呼ぶ。そこには「愛」が介在する。

 『猶予(いざよい)の月』にもたしか『時間も空間も消滅した世界に残るものが愛かもしれない』という登場人物の台詞があったが、作者は「愛」というものにとても大きな信頼と希望を寄せているのだなぁ・・・と思う。
 
 なぜ宥現があれほどに魔姫に惹かれ必要とするのか、ストーリーを追う中ではどうしてもピンとこなかったのだが(そもそも魔姫に関しては100年以上生きている女であるという以外、細かな人物描写がない。彼女はとても曖昧な女である。)、つまりは彼女が「愛」そのものであったからという・・・そういうことなのか。・・・で「愛」って一体何だろう?


 『猶予(いざよい)の月』感想…http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-563.html




FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ