2013-04-06

エムブリヲ奇譚 : 山白朝子

『エムブリヲ奇譚』 山白朝子

 庶民が旅を楽しむようになった世の中。土地の名物、温泉の効能、道中のあれこれを記した旅本の作者であり、人に知られていない景勝地や温泉地を訪ねては旅をする和泉蝋庵にはとんでもない迷い癖がある。一本道を進んでいるはずが気づくと元いた場所に戻っており、十日はかかるはずの町には半日で辿りつき、山道を登っていたら広々とした海に出くわす。付き人として和泉蝋庵と旅を共にする「私」は、いつも蝋庵の迷い癖に巻き込まれ・・・

 一日中霧が立ち込める物の形も人の姿も曖昧な町、青い石と共に生まれ変わる少女、人の顔をした魚の獲れる村、あるはずのない橋が架かる崖、人を食う山賊の家・・・。道に迷った果てに、和泉蝋庵と「私」が辿りつく「ここではない何処か」。

 その奇妙な場所で、「私」は、生きている胎児を拾い、霧の中の温泉で死者と逢い、無垢な生き物を手にかけて殺し、死んだはずの男と取り違えられ、極限の惨劇を体験する。

 ただ部屋で酒を飲んでごろごろしていたいと思うような男である「私」。何か仕事をしようとしても長くは続かず、世間からはろくでなしと思われ、やめられない博打の借金はかさむ一方。わけがわからず、時に命の危険にさえさらされるような蝋庵との旅は、「私」にとって怖ろしく、厭わしく、呪わしいものであるのだが・・・

 現世で上手く生きられない「私」は「ここではない何処か」に魅入られる。「私」にとって、そして「私」の後を追うようにこの物語のページを捲る者にとって、和泉蝋庵との旅の先にある「ここではない何処か」は、寂しく哀しい陶酔の内に在る。



 山本タカト氏の表紙絵がまた・・・“連れていかれたい”気持ちにさせるのですよ。

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