2012-11-17

悲歌-エレジー : 中山可穂

『悲歌- エレジー』 中山可穂

 「隅田川」「定家」「蝉丸」~能の演目をモチーフにした三篇。

 愛する娘を喪い、隅田川のほとりを彷徨う父。白いワイシャツに黒ズボン、ナイキのスニーカーを履いたその男が纏う真紅の薔薇の刺繍のついた黒いマント。“きわめて真面目らしいこのおじさんに、作者は何故こんなふざけた格好をさせたのだろう?”と奇異に思ったが、この異装は、「日常を去ったもの」~生死にかかわらず、すでにこの世のものではない者~のしるしだったのかもしれない。 

 深い嘆きに沈んだ男は、境界の向こう側から、川に身を投げた少女の姿を求めて隅田川の写真を撮り続ける「わたし」の前に姿を現わし、晴らされることのない妄執を語ったのだ。

 
 本作は、同じく能の演目をモチーフにした『弱法師』よりはっきりと能のドラマツルギーに依って書かれているのかもしれない。(能についてはあまり知らないのだけど。)

 奇妙な死を遂げた幻想の小説家の評伝を執筆する「わたし」が、嵐の夜、突然現れた男~亡くなった小説家の遺作を秘匿する出版社会長~の告白を聞く「定家」も、奇跡の声を持つ蝉丸と激情的なギタリスト・逆髪の姉弟を愛し、育てた博雅が、遂には蝉丸のために日常を捨てた旅を彷徨う「蝉丸」も、魂がこの世のものでなくなってもまだ残る、深く、激しく、悲しい愛、一つになろうとする強い強い思いを、能の世界を借り、此岸と彼岸の境界を越えて描いているのだ。


  

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