2012-09-29

密やかな教育―“やおい・ボーイズラブ”前史 : 石田美紀

『密やかな教育―“やおい・ボーイズラブ”前史』 石田美紀

 現在、書店の中でも大きなコーナーを与えられている「BL」ジャンル。本書はタイトルの通り「やおい」「BL」という言葉の発生以前~その源流にある「少年愛の物語」が、少女マンガや小説の世界で、女性たちの手によっていかに生み出され、育まれていったかを、探り、語るものである。少女マンガにおいては竹宮惠子氏の、小説においては栗本薫氏の創作活動を主に追いながら考察が進められている。

 『車輪の下』『知と愛』『デミアン』など、ヘルマン・ヘッセの小説から抽出された「繊細で美しい少年身体」と「性愛化」。視覚イメージに溢れたヘッセの内面描写と少女マンガの表現との相性の良さ。稲垣足穂による少年愛の美の体系において用いられた視点(主体)を我がものとすること。「60年代アングラ文化」の中で男性によって描かれた男性身体と、70年代に女性が描き始めた男性身体との接点と、両者の間の差異。・・・等々、少女マンガで「少年愛の物語」を描く手法がどのように構築されていったのかについて、ヘッセ、足穂の作品をどう読むかという文学者の言葉も交えつつ、じっくりと述べられている。

 一方で、竹宮惠子、萩尾望都ら、人間の内面を描き、文学に並ぶ深みを求めた少女マンガの描き手たちが題材として選んだのがなぜ「少年愛」だったのかということについては、彼女たちを、足穂や、ヘッセ、ヴィスコンティの「美」にひきあわせた人物・増山法恵氏(竹宮惠子『変奏曲』の原作者であり、長らく竹宮氏のプロデューサーでもあった)の存在くらいしかその理由が見つけられなくて、なんともモヤモヤする。

 そのあたりを補うように、社会学者・上野千鶴子による『少年同志の恋愛物語は、少女読者に「ジェンダーの障壁の手前で、絶対安全圏に身を置いていられる」快楽を与えるのだ』という指摘や、男の人をかく方が「思考的にすごく遊べる」という萩尾氏の言葉が挙げられているが、それでは全然このモヤモヤは解消されな~い!

 少女マンガと「少年愛」の出会いは必然ではなく、増山法恵氏の存在によってもたらされた偶然とも考えられるのか・・・? 少女マンガの描く「少年愛の物語」がその後、様々に幅広く受容されたことを思えば、そこには偶然以上の意味があったのだとは思うけれど・・・。


 さて、70年代に「女性たちが紡いだ男性同士の性愛物語」には「耽美」という名が与えられ、雑誌『JUNE』が登場する。

 『JUNE』! 校内でマンガや雑誌を読むことが禁止され、「マンガの類を学校に持ってくる場合は中身の見えない不透明な袋に入れきっちり封をすること(校内での開封禁止)」という奇妙な校則のあった我が校の教室にも『JUNE』はこっそり持ち込まれた。竹宮惠子や栗本薫を読み、語るクラスメイトたちもいたけれど、私は当時その世界にハマることなく、むしろ純粋に少年マンガとしての『ジャンプ』に夢中であった(後に多少事情が変わってくるのだけど)。

 私がそっちの世界にハマるのはもうちょっと後・・・「翼」「星矢」の二次創作同人誌やアンソロジー次々と作られ、「耽美」よりも随分日常的になった「男性同士の恋愛・性愛物語」を出版する専門レーベルがボツボツと立ち上がり始めた頃のことだ。二次創作が原作の「受容」の一形態であるように、’80年代以降に色々なヴァリエーションでもって描かれ・書かれた「やおい」「BL」作品というのも「表現」であると同時に、’70年代に生まれた「少年愛の物語」の「受容」の姿という一面を持っていたのかもしれないなぁ。私が読み耽ったのは主にそういう作品だったんじゃないか・・・。

 だとしたら・・・“なぜ私はBLを読み耽ったのか”という私の問題は、「少年愛の物語」が「いかにして生まれたか」ではなく、「どのように読まれたか」ということの中にあるんだ、きっと。(だから私は、竹宮惠子氏や萩尾望都氏が少年や少年愛を通して何を描こうとしたかよりむしろ、自分の読みたいマンガを描いて欲しくて彼女らにヘッセを紹介したという増山法恵氏が『デミアン』に感じていた「モヤモヤ」が何だったのかということに興味がある。)

 でも、「女性がつくり楽しむ男性同士の性愛物語」の誕生と成長を語ったこの論考は、私の問題を解決はしてくれないで、何かを表現したいと欲し、何ができるだろうかと模索した女性たちの、それ自体が美しい物語として閉じるのである。




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