2012-05-19

陰獣 : 江戸川乱歩

『陰獣』 江戸川乱歩

 再読。初めて読んだのは中学生の頃か・・・? 記憶の中には、小山田邸のコンクリート塀に植えつけられた泥棒よけのガラス片と、静子夫人の背中に這う蚯蚓腫れしかなかったので、犯人と目される怪奇と幻想の探偵小説家・大江春泥をめぐる「私」=理知を愛する探偵作家・寒川の推理は、まったく初見のように読むことができた。


 上野の帝国博物館で出会った心惹かれる美しい女~実業家・小山田六郎の妻・静子と親しく手紙を交わすうち、恐ろしい秘密をうちあけられる「私」。静子のもとに届けられた、かつての恋人・平田一郎=行方知れずの探偵小説家・大江春泥からの脅迫状。静子の生活のすべてを監視する春泥の目。春泥のおそろしい情念を知る「私」は、静子に春泥探索を約束するが、春泥の行方は杳として知れぬまま、小山田六郎氏の死体が大川に浮かぶ。
 
 天井裏からの覗き見、変装、身代り、一人二役。春泥の行方を追い、事件の真相を探る「私」の推理の途上で露わにされる「陰」~温厚な紳士然とした小山田氏のサディスティックな性癖、青白い肌に秘めた静子の情欲。乱歩の匂いがムシムシと充満する。

 事件の意外な真相を明らかにするかと思われた「私」の理知による推理は破綻する。事件を覆う、姿なき大江春泥の影。そして、最後にそのおぞましさを露わにしたのは「私」の「陰」ではなかったか。

 この一連の陰惨な事件が、あの可哀そうな静子の、自分への恋ゆえに引き起こされたのではないかという疑いに慄き、苦悩すると同時に、どこか暗い愉悦を覚えているかのような「私」の告白。静子の魅力に溺れ、あのような結末の後でさえ、静子を妻とし、小山田氏の遺産を我がものとして暮らしたかもしれない自分の姿を夢想し、さらには事の一部始終を読者の目にさらそうとしている・・・それは、冒頭でことさらに理知的で、道徳的に敏感であることを主張した「私」の「陰」の姿ではないか。




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