2012-03-24

出星前夜 : 飯嶋和一

『出星前夜』 飯嶋和一

 “「島原の乱」なら、天草四郎でしょ”と少しばかりロマンティックに考えて読み始めた自分が恥ずかしい。藩主の悪政に対し、島原半島およびその対岸天草で勃発した大規模な反乱を、地の鳴る音が聞こえるような不穏なうねりの中に描いた大作だった。

 
 かつてキリスト教の布教や異国との貿易が行われ、それぞれに個の気概を持つ人々が暮らし、前藩主有馬氏に従って関ケ原や朝鮮での戦を経験した軍役衆の残る土地柄。その地に加えられた宗教的弾圧。領民に表高の二倍もの年貢を課し、その生活の現実を見ることもない藩主松倉家による愚劣な政治と過酷な支配。ひたすら耐え、生き延びようとする人々を襲う天災、それに続く飢餓、病。理不尽に命を奪われる子供たちの純粋すぎる怒りと虚無。生活の軛を離れ、教会堂の森にたてこもる子供たち・・・蜂起前夜の気配。

 人々がそれぞれの心に従い起こしはじめた行動は、意図しない結果をも招き、止めようのない流れにのまれ・・・一人ひとりの異なる想いで撚られていたであろう糸は、「反乱」という激しくうねりのたうつ一本の太縄へと糾われていく。

 重要なのは、崇高な理想や理念を唱えることではない。それはむしろ大勢を破滅へと導く。馬鹿馬鹿しい武力衝突や騒乱を回避するためには、泥臭い駆け引きこそが重要だ。


 そう説いた有家村鬼塚の庄屋甚右衛門さえもが、結局は蜂起勢の一人となり、軍を率いて、先には全滅しかない戦を戦う。

 人々の信仰心も、矜持や誇りも、生への思いも、大量に流された血の中で踏みつぶされ葬られる。もはや止まることのないこの絶望的で救いのない反乱の中に、作者は小さな星を書き入れた。矢矩鍬之介~教会堂の森に立て籠もった少年たちの頭。反乱に加わるもそれがもたらす結果のあまりの愚かさ、悲惨さを厭い、島原の地を抜けて長崎にたどりつき、その後は贖罪と無私の心で人々を生かす医者として生きた青年。蜂起勢が死に絶えた後にただ一つ残った蜂起衆の心。




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