2011-06-25

写楽 閉じた国の幻 : 島田荘司

『写楽 閉じた国の幻』 島田荘司

 浮世絵の世界に突然現れ、わずか10ヶ月間の活動の後、忽然と姿を消した謎の浮世絵師・東洲斎写楽。作品の他には彼の存在の痕跡を記すものは何一つと言って良いほど残されていない。多くの人たちによって様々な説が展開されながらも、未だ決定的な答のでない写楽の正体を小説の形で追った大作。

 学会を追われ、家庭に多くの問題を抱え、さらに息子の事故死という悲劇に見舞われ、死すら考える最悪の状態にあった浮世絵研究家・佐藤が、手元にあった1枚の肉筆画を頼りに、息子の事故を通じて知り合った大学教授・片桐の助力を得て、写楽の正体に挑む。

 私は写楽の正体について、これといった持論や思い入れを持っていなかったので、作者が導き出した写楽の正体に、目からウロコが落ちたような衝撃を受けた!というわけではなく、割と淡々とその正体を受け入れたのだが、作者が立てた推論には、既存の権威に惑わされず自分に見えるものを見続ける爽快さがあり、その証明の過程にはゾワゾワと興奮する。何より私にとって魅力的なのは、写楽の正体をそのように考えることで、みるみる輝き出すドラマ ~写楽を世に出した蔦屋重三郎の出版人としての天才的眼力、洒落と反骨精神、写楽の絵や蔦重の振る舞いを許し難かった歌麿の誇り高い美意識~ があることだ。 

 写楽の正体を追う佐藤たちの足取りに添うように挿入される江戸編は、写楽の近くにいたはずの人々~蔦重、歌麿、京伝、北斎ら~を生き生きと描いて、推論を彩る物語として十分に魅力的なのだが、現代編で佐藤のプライベートな部分として描かれるドラマが、写楽の正体を追うストーリーにうまくからまず、作品の足を引っ張っている気がする。

 序盤のかなりの分量を費やして書かれる、主人公・佐藤の家庭の問題とか、佐藤の息子を死に至らしめた回転ドアの事故の事、佐藤が手に入れた肉筆画の事は宙ぶらりんなままであるし、片桐教授が時折見せる思わせぶりな表情についても、その後ストーリーの中で何か意味があったようには思えない。佐藤と片桐教授の出会いも何か唐突な感じが拭えないし、片桐教授が専門外である写楽研究に何故ああまで関わろうとしたのかもすんなりと納得し難い。

 いっそのこと現代編のドラマは大幅に削って、論文に近い形で書いた方がスリリングだったのではないだろうか?

 あとがきによると、作者もそのあたりの不完全さは承知のようで、裏のストーリーとして用意していたものを、諸々の事情で本作には盛り込めなかったことを語っている。そのあたりを補完する続編の執筆も計画されているようなのだが・・・、続編が出たとして、今と同じテンションで読めるかどうか・・・。




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