2011-05-14

かくれさと苦界行 : 隆慶一郎

『かくれさと苦界行』 隆慶一郎

 神君家康公より吉原創設にあたって惣名主庄司甚右衛門に与えられた「神君御免状」をめぐる、吉原者と裏柳生の壮絶な闘いを描いた『吉原御免状』の後に続く物語。

 「御免状」に記された家康の秘密、中世の漂白の民~“無縁の徒”傀儡子族の“最後の砦”としての吉原という驚くべき道具立てを揃え、数奇な運命の下、吉原の未来を託されることとなった松永誠一郎の養父・宮本武蔵を継ぐ二天一流と、柳生義仙率いる裏柳生の暗殺剣の対決を描いた前作の一種の爽快さに比べ、本作にはかなり暗く陰惨な雰囲気が漂う。

 誠一郎との闘いに敗れ右腕を失い、復讐の鬼となった柳生義仙、「神君御免状」を奪わんと義仙を操り執拗に吉原を狙う老中酒井忠清と、吉原の惣名主となった誠一郎はじめ幻斎ら吉原者の果てしない暗闘に、柳生を守る怪物のごとき巨人・荒木又右衛門まで加わって、繰り返される闘いは、その意味さえ覚束ない、ただ無惨に多くの人が死ぬ泥沼の如きものとなる。

 そんな男たちの闘いを描く作者の言葉は、一つ一つがヘヴィメタルな肌触り。例えば、ズバンとストレートに使われる『身震いの出るような恐ろしさ』という言葉。その一撃が重い。その一言を叩きつけられると、本当に本の中から迫ってくる恐怖の感触に身震いがする。言葉の底に刻まれる、重機械が唸るような重く、強く、激しいリズムに、残酷な運命を美しく哀しく生きる女たちのドラマが絡む。

 私は、『花の慶次』を読んでいないのだが、隆慶一郎氏の小説が持つ感触に、原哲夫氏の絵はとてもよく合うのかもしれないと思った。


 前作を読んだ時、いくら人を斬っても曇らない野生の獣のような清々しさを保つ誠一郎を、未だ“人”にならない童子のようだと思ったのだが、本作では、“人”になっていく誠一郎の苦しみが胸を抉る。繰り返される戦闘の中で、一度は死んでしまう誠一郎の無垢な心。それでも、周囲の思いに守られながら、稀有な魂を持つ男として再生する誠一郎の姿に熱いものがこみ上げる。

 しかし、前作『吉原御免状』から、主人公・誠一郎以上に私の気にかかるのは裏柳生の総帥・義仙だったのだ。誠一郎の敵・仇として登場してしまったために、すべての悪を背負い、ことごとく貧乏くじを引かされた義仙が何か気の毒で、どうしても悪役として嫌うことができなかっただけに、誠一郎との長い闘いを経て義仙が到った境地に、そっと手を合わせたい気持ちになった。

『吉原御免状』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-467.html


 

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ