2006-07-09

月魚 : 三浦しをん

 古本屋の佇まいが好きです。間口の狭い店内、稀少本を飾ったガラスケース、天井まで届く棚にぎっしりと並んだ本。お客はそれぞれ黙々と自分のお目当ての本を探していて、古本屋の中では時間を忘れてとっても落ち着くことができます。

 現実の古本屋がどんなものであるかは置いておいて、時間的にも空間的にも現実を超越しているかのような古本屋の佇まいに別世界とかファンタジーとかいったものを感じる人は多いのではないかと思います。古書業界に身をおく二人の青年を主人公にした3編の小品が収められた三浦しをんさんの「月魚」はそんな別世界の香りに満ちています。

 ~「水底の魚」「水に沈んだ私の村」「名前のないもの」~

 老舗の古書店を営む父子三代。古書業界で確固とした評価を得ている祖父と、その祖父に素質を認められ愛される少年に対し、自分の才能に引け目を感じる父の屈折。危うかった家族はある事件をきっかけに完全に壊れてしまい、登場人物皆の心それぞれにぬぐえない傷と、密かな罪の意識を残している。

 確執・断裂・罪の意識・執着といった主人公やその周囲の人たちの抱える一見ネガティブな感情をスパイスとして効かせながら、この小説が中心に描くのは主人公の青年二人・・・本田真志喜と瀬名垣太一の間のほのかな同性愛的な思慕。結局はただそばに居たい、居てほしい・・・穢れることのないこの願い。この穢れなき一点に読者の女性たちは現実逃避的な快感を得るのです。

 月、池の中をよぎる黒々とした魚の影、月光の中で鮮やかに跳ねる魚・・・こんなイメージが物語全体を覆う。うっすらと紗がかかったようにあくまでも静かなトーンで語られる物語は、主人公の青年二人の造形の美しさもあいまってガラスケースの中に入れておきたいくらい繊細で綺麗。ファンタジーだよなぁ・・・とは思うけれど、時には日常の垢をこんな小説で浄化してみるのも心地よい。
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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

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古本屋が好き ~ 月魚

 古本屋を見かけるとつい入ってしまいます。間口の狭い店内、稀少本を飾ったガラスケース、天井まで届く棚にぎっしりと並んだ本。お客はそれぞれ黙々と自分のお目当ての本を探していて、古本屋の中では時間を忘れてとっても落ち着くことができます。三浦しおん著「月魚」に

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