2006-12-20

空のオルゴール : 中島らも

 好きな作家を聞かれると中島らも氏のお名前を挙げさせていただくことが多い私。実は氏のエッセイに比べ、小説の方は読んでいる数が少ないのですが、これまで数作読んだところでは、エッセイよりもフィクションである小説の方により濃く中島らも氏の生々しい存在が見えるように感じています。エッセイはエンターテインメントであり、小説が自己主張の産物であるような。

 大学院生・トキトモは教授の依頼により近代奇術師の父と呼ばれるロベール・ウーダンについて調べるためパリへを向かう。パリで後輩リカと出会ったトキトモはリカの師である奇術師フランソワを紹介されるが、ほどなくアンチ・マジック・アソシエイション(U.M.A.)を名乗る集団によってフランソワ師が惨殺され、それを皮切りにリカ、トキトモと奇術師仲間たちも執拗に命を狙われる。一人ずつ殺されていく恐怖の中で奇術師たちも必死の反撃に出る。

 全編、怨念と復讐の殺人劇なのですが、それが冗談に思えてくるほど表面はのんきでナンセンスな掛け合いと、ボケと突っ込みで満たされていて、ラストには読者がほっと笑うことができるような一幕が用意されています。でもその底部にはずっと、黒くどろどろと重く、悪意すら漂わせる鈍器のような恐怖が溜まりゆっくりうねっている。

 物語の序盤、フランソワ師の葬儀の場で遺言によりマジックで参列者を驚かせるという演出が加えられる。「あんなことしてるから殺されるんだ」というプレスの人間の一言を耳にしたトキトモがその男の腕を極め、「君には死者に対する敬意というものがないのか。」と迫る場面がある。目頭が熱くなった。合気道に多少の心得がある以外は何だかぼんやりしているような学生・トキトモにもゆずれないものがある。何ていうことはない人間だけど、そういうものだけは持っていたいと思う。でも苦境に立たされたとき、矜持を保つことができるか? 私は・・・残念ながら甚だ疑わしい。

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