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2010-08-21

蕭々館日録 : 久世光彦

『蕭々館日録』 久世光彦

 小説を書いている父さま・児島蕭々の書斎には、いつもおかしな大人たちが集まってきては、他愛もない遊びや議論に興じている。私~五歳の少女である麗子は、書斎に侍ってそんな大人たちの姿を見つめている。

 美学者の迷々さん、精神病院のお医者様並川さん、金貸しの中馬さん、かけだし編集者の雪平さん、文士の蒲池さん、そして九鬼さん。もしかしたら、「蕭々館」に集まってくる大人たちは、もうどこにも見当たらなくなった「高等遊民」たちの真似をして、過ぎていこうとする時を、間もなく失われてしまうであろうもの(もう失ってしまったかもしれないもの)を惜しみ、愛し、その惜別の情を他愛のない喧嘩や悪ふざけに紛らしているのかもしれない。

 馬鹿騒ぎの最中も、「蕭々館」の大人たちは、時に“悲しいことも無きに泣き”そうな顔をしている。そんな大人たちの中で、麗子を堪らない気持ちにさせるのは九鬼さんである。麗子も、「蕭々館」の大人たちも身体のどこかで、九鬼さんもまた“間もなく自分たちの前を去っていくもの”であることをわかっている。

 長い髪を無造作にかき上げる九鬼さん。インバネスを風に弄らせた鴉のような九鬼さん。肋の浮いた九鬼さんの胸。心から笑ったときにだけ浮かぶ笑窪。迷子のように怯える姿。時に見せるぞっとするほど冷たい目。九鬼さんのことを想うと麗子は下腹のあたりがもぞもぞする。沢山の智恵も才能も持っているのに幸せそうでない九鬼さんがあんまり可哀相で、麗子は声を上げて叫びそうになる。


 九鬼=芥川龍之介、蒲池=菊池寛、児島蕭々=小島政二郎

 一種のかわいた明るさを持ったせつなさ ~ “悲しいことも無きに泣きたい”気持ちを抱えた、愛(かな)しくて哀しい大人たちの世界を、遠くへ行ってしまうものたちの後ろ姿を、久世光彦の目を持った五歳の童女・麗子がじっと見つめ、見送っている。




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