2010-01-13

逃げ水半次無用帖 : 久世光彦

 憂いを帯びて艶っぽく匂うように美しい半次。近づいたと思うと姿は無く、いつの間にか遠くでゆらゆら揺れている逃げ水のような半次。気の狂った半次の母は、幼い半次をおいて、吹雪のように花びらを散らす桜の枝にぶら下がって死んだ。


 半次が世話になっている、居ながらの佐助・娘御用聞きお小夜父娘のもとには界隈で起こる不思議な事件が持ち込まれる。

 首を括った女とそれを見上げて哂う子供。暮六つの鐘が鳴ると気が違って走り出す振袖娘。墓場から消える老女の死体。少女の千里眼。身分違いの恋。正気を無くした男の一人二役。

 どれほど生きて欲しいと周りの者が願っても、ふぃっと死んでしまう者があり、どんなに深い地獄を抱えていても死ねない者がいる。人の心には、外の者には手の出しようのない、それぞれの平安と闇がある。人の心の解らなさ、届かなさ、頼りなさ。そしてあまりにも近い「死」というもの。

 人の心の中には、明るい日の下に曝したら可哀相なことが、誰にもある。そんな悲しい心が忍び歩くために、暗い、寂しい夜はある。



 虚無・佯狂・浮生・告解・因果・不定・・・。それぞれに哀しい事件の謎解きは、やがて半次の中の虚無を解く事件へと繋がって行く。


 半次に関る女たち・・・キャンキャンと子犬のように可愛いお小夜も、気のいい夜鷹のお駒も、実相寺の年とった庵主花幻尼も、事件の中の女たちも、半次と寝た沢山の女達も、狂って死んだ半次の母も、息苦しいほどに「女」である。悲しくて、怖くて、優しくて、可愛くて、寂しい女。

 この「女」たちは本当の女だろうか? 男の夢の「女」ではないか・・・。

 心が死んでも身体が男を求める女。哀しくても、怨んでいても、優しく男を抱きしめる女。後ろめたさを感じながらも、そんな哀しく優しい女に包まれていたい男。恥じらいを含んだように少し被虐的に甘く匂う男の願望。

 女たちの生暖かい心が、体温が、悲しい、怖い思い出に浸された半次に絡みつき包み込む。

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