2006-11-11

サラサーテの盤 : 内田百けん

 外は暮れかかる夕刻、亡くなった友人、中砂の細君おふさが玄関先に立つ。やってくるのはいつも夕暮れの決まった時刻。陰気な様子で、夫の貸した品々を一つずつ取り立てるように、私の家の玄関先に立っている。
 
 久世光彦氏が、その訳の解らない恐ろしさを言葉を尽くして書かれていた内田百けんの「サラサーテの盤」。(久世光彦「美の死―ぼくの感傷的読書」に、「サラサーテの盤」について書かれたエッセイが収録されています。)

 その友人は貸したものを書き留めておくような几帳面さは無かったはずだが・・・。おふさは何処で調べたものか、ある時は字引を、本を、レコード盤をひとつずる取りに来る。

「夫が生前、こちらに預けているはずです。」

 いつも夕暮れの同じ時刻にぼんやりと玄関先に立つおふさに、「私」は何かしらぞっとしたものを感じる。おふさが言うには、その友人が貸したサラサーテ自らの演奏による「ツィゴイネルワイゼン」のレコード盤が私の家にあるらしい。そのレコード盤は録音時の事故でサラサーテの肉声が録音されているめずらしい品だという。

 夕暮れ時、玄関先にぼうっと立つのは生身の女・おふさだけど・・・どうして決まったように同じ時間に・・・、何を思って亡き夫の貸した品物を取り立てるように持っていくのか。

 サラサーテの盤に録音されているのは生きたサラサーテ自身の声だけど、録音されるはずの無い、録音されてはいけない声・・・そして今はもうこの世にいない人の声。

 逢魔が時に、見えないはずのもの・見てはいけないものにうっかり出会ってしまうんじゃないかというびくびくする感覚、そんな怖さを湛えた作品。

 手元に返ってきたサラサーテの盤を聴くおふさ、サラサーテの声に反応するかのような彼女の姿が読後感をざわざわとさせます。

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