2009-08-12

カブキの日 : 小林恭二

 大阪の蓮華座、京都の祇園座、東京の江戸座、その上にさらなる隆盛を誇る、琵琶湖湖畔に立つ大劇場・世界座。今日は一年に一日きりの世界座での「顔見世」の日。

 両親に連れられ、世界座の顔見世にやってきたカブキ好きの少女~かつて立作者として人気を博した河井世之介の孫娘・蕪は芝居茶屋の若衆・月彦から「準備はいいか?」と記した紙片を受け取る。

 世界座では、カブキ改革派の旗手・坂東京右衛門と、守旧派の首領・水木あやめの暗闘が繰り広げられている。

 顔見世の切狂言を任された京右衛門と同志たちは、あやめの思惑をいぶかしみながらも、乾坤一擲の覚悟を決め、あやめ一派は晴れの舞台で京右衛門を完全に破滅させるための策を進める。

 さあ、舞台の幕が開く。

 
 世界座の楽屋三階は迂闊に踏み込めば二度と抜け出すことのできない迷宮。大きな力に導かれ、蕪と月彦は三階の迷宮を行く。

 京右衛門のもとに届く、世之介からの謎の手紙。カブキの至宝・名古屋丸の消失。京右衛門たちが必死に演じる世之介の狂言「山三郎浮世別離(なごやどのこのよのわかれ)」。あやめが放つ数々の罠。

 ファンタジーとサスペンス~からまりあって進む物語の合間に挿入される、「船舞台」の伝説や、阿国と名古屋山三の逸話。

 物語は走りながら、くるくるとその様相を変えていく。

 迷宮に棲む老人の台詞

 「物事にはなんだって表と裏がある」
 「表ってのは着たきり雀の着物みたいなもので、はぐってしまえばそれっきりだが、裏ってのにはどこまでいっても裏がある。それでもって、その裏のどん詰まりはいつだって表のどん詰まりにつながっているのさ、ひーひひひ」

 

「芸とは実と虚の皮膜にある」

 表と裏、実と虚 ~ 何が実で何が虚かなんて予め決まってるわけではない。つねにくるくると入れ替わりつづける物事のその皮膜に立ち上がってくる何かを見せる、それがカブキの魂。

 蕪と月彦、京右衛門とあやめ、舞台の上で進む芝居、三階の迷宮に棲むという世之介 ~ どこに向かっているか分からない事態の中で、それぞれがそれぞれに疾走する。この物語の進行自体が、くるくると自在に姿を変える怪物的なカブキという芸の世界に重なってくる。


 作中、カブキを語る言葉が色々な場面で何気なく折り込まれる。


 「その動きがまるで自由で、インスピレーションに満ちているんです。しかもそのインスピレーションがおしつけがましくないんです」
 「彼が踊れば、たとえ手にしているものが二本の細い棒でも、人はそこにまるく灯った光の輪を見ることでしょう」

 

 心中の道行を踊る蕪と月彦 

 曲がクライマックスに近づいても蕪と月彦は、そんなことは知らぬげに楽々と踊り続けている。
 だがどうしたことだろう。
 いつのまにかその場にひたひたと死の影が差し始めているではないか。



 名優・坂田山左衛門の懐述

 ひたすら大団円に向けて形式を積み上げてゆく、予定調和の物語があるのみだ。ここにはどこにも生まれでようとする美意識の輝きは見られない。-だとしたらわしはカブキに見放されたことになる。



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