2009-01-07

一月物語 : 平野啓一郎

 わけのわからぬ「情熱」とでもいうようなものを抱えて、神経衰弱気味に自分探し(というか「自分なくし」というか・・・)の旅にある、美貌の青年詩人・井原真拆(いはらまさき)。

 山中で迷い、怪我を負い倒れた真拆は、僧・円祐に助けられる。数日を、円祐が暮らす山中の小屋で過ごす真拆に、夜毎訪れる不思議な夢。夢に現れる、顔の見えぬ女の美しい裸体。現実と交錯する幻。円祐が匿う謎の女。

 夢の女に激しく魅かれていく真拆。その情熱が極限に達したとき・・・。


 殊更に古風な漢字を使い、魔的に美しい夢幻のような舞台が整えられたこの作品・・・幻想的な小説かとも見えるが、実際には一人の青年の“自分探しの果て”とでも言えそうな、何だかえらく現実的な問題が描かれている。精神的・観念的な問題なだけに、すぐに幻の世界へと同化して行ってしまい、つい幻想的なめくるめく感覚にとらわれてしまいがちなのだけど・・・。

 描こうとしていること、そのための道具立てには、「日蝕」と共通するものがあるように思われる。

 真拆は、 ~略~ 自分を織り成す社会と自然と云う二色の糸を解いてしまった後に、猶南京玉のように残る個と云うものの存在を発見して驚喜した。それが純粋に一つの価値を有する世界を想った。己の情熱が、己のものとして成就する明日を想った。


 夢の女との愛が成就する一瞬に、「自分探し」の果てを見た真拆。


 中島らも氏がエッセイ(「恋は底ぢから」)で引用されていた、稲垣足穂が語ったという「詩というのはね、歴史性に対して垂直に立っているのです。」という言葉。真拆がたどりつこうとしたのは、ここではなかったのか。

 詩人として、恋する男としての、歴史性(日常)に対する垂直方向への果てしない飛躍。女との愛の成就が、そのただ一度の飛躍だったのではないかと。

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