2008-11-26

江戸にフランス革命を!(上)-江戸という哲学 : 橋本治

 約二世紀半の間、独特な時間・空間感覚の中で熟して行った過去の化け物『江戸』の正体を明かさんとする、橋本治の江戸論。
 
 『江戸』の論理、精神性、時間・時制 ~ 快刀乱麻を断つ筆運びで、ばっさばっさと『江戸』という大怪物を腑分けしていく。あまりに鮮やかな太刀さばきに、“え? 今のどうやったの?”とページを繰って読み直すことしきり。

 『江戸』に生きた人の感覚を語る上で、やはりこれも『江戸』の怪物・歌舞伎にも当然話は及ぶ。<愛嬌-または幻想する肉体><怪-歌舞伎の論理>の2章は江戸歌舞伎論としてすご~く沢山の示唆を与えてくれているような気がする。橋本氏の言葉からは、頭をガツン!とやられたような衝撃を受ける。そんな言葉に出会う度にページの端を折り曲げていたら、ほとんど全てのページに折り目がついてしまった。

 私が『歌舞伎』というものを思おうとするとき、目の前にど~んと立ちはだかってる気がする見えない壁。その壁にゴンッ ゴンッと穴をあけてくれたような橋本氏の言葉。

 以下は引用ばかりになるが、見るべき方向に向かって私の頭蓋に風穴を開けてくれたような気さえするこの言葉たち・・・読んでいてやたらと脳が興奮するのを感じる。

 『主義とか理想とか政治とか、そういうものとは全然関係がなくて、自分の生活現実でしか生きていない江戸の町人は、だから勿論、幻想とかロマンチシズムとかいうものとも無縁に生きている。でもそのくせ、江戸の町人は平気で現実を無視して生きていたりもする。』
 
 『キンキラ御殿の革命劇が終わって「あれよ、あれよ」と言う間もなく、舞台は雪の隅田川に転換し ~略~ 観客は ~略~ 瞬間の判断放棄に陥る、その瞬間を狙って岩井半四郎は平然と姿を現すのだ。姿を現した挨拶として、ほんの一瞬の流し目を観客に投げつけて。それで一切は終わる。もう“今まで”もへったくれもない。そこから先は、最早公然と許された“無関係”の世界だ。幻想とは、こんなことを可能にする肉体の別名でしかない。』

 『“色気をもった肉体”というものは、平気で現実社会の単一なる原則を逸脱してしまうものなのである。愛嬌とはそういうものなのだ。町人というものが“現実”から疎外されて、しかしそして生活現実から一歩も離れることができないままに存在しているという、そういう現実の上で“リアリズム”を演じられる“役者”というものは、そういう“根本”を持ったものなのだ。』

 (歌舞伎の時制について)『《時代》とは過去である。《世話》とは現在である。この二分法が歌舞伎の時制のもとになっている。勿論この区分に“未来”という時間は含まれない。何故ならば、未来とは“生きよう”とする人間の意志に関わりを持つものであって ~略~ 江戸の封建時代とは、ある意味で変革の意思をもつことを許されなかった時間である。 ~略~ 徳川三百年の平和の間、時間は“平和な現在”というところに固定されていたのだから、ここには意思によって生まれる“未来”などという時間が存在する筈もない』

 『歌舞伎というのは、何をやっても“所詮娯楽”というところへ平気で逃げ込んでしまう』

 『歌舞伎というものは《時代世話》という時間概念を導入することによって、すべての結末を曖昧の中に断ち切ってしまった。終着はあっても結論はない。“娯楽”というものは、実はそういうものなのだけれども、歌舞伎という娯楽は、時代世話という、最も効率よく磨き上げられた“曖昧な時制”を導入することによって、すべての構築された論理を解消してしまうことを可能にした、とんでもない平然なのである。』



 本当に引用ばかりだが、これでも随分削ったのだ。鋭く、しかも圧力のある言葉のパンチの連続に、頭がグラグラしている。脳震盪状態なので、まともな感想が書けていないのもわかっちゃいるのだがやめられない。


 『江戸』という武士が牛耳る封建社会にあって、批判精神を持つことが許されない町人の生きる日常には、何も変化・ドラマは起こり得ない。時間すら流れない。そしてドラマの起こらない日常は自明のこととして“善”である。ドラマが起こること=“悪”であり、“悪”=非日常である。

 江戸町人に向かってドラマを演じる役者には、それだから“日常”がない。ドラマ=“悪”をすべて自分の側に引き受け、観客である江戸町人の日常=“善”に頭を下げる。

 「(観客達が生きている)日常は本当に善なのか?」という問いかけは、始めから歌舞伎には欠けているのだが、いつでも“所詮娯楽”というところへ逃げてしまえる歌舞伎は、それを逆手にとってこっそりと毒を盛る。「お客様方のお姿は、まったく正しく、美しゅうございます。」などと言いながら、その“正しさ”の持つ奇怪さをお客様方に突き付けだしたのだ。“娯楽”という名に隠れて。

 橋本氏の鋭い指摘によって、歌舞伎という怪物は、ちらりとその狡猾で、怖ろしく、強かな姿の一端を見せる。

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ