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2008-10-01

謎の母 : 久世光彦

 黒いインバネスを羽織り、だらしなく涎で汚れた口で悪態をつき、卑屈に詫び、酒で濁った目で女にからみつきながら、少女・さくらには大切な「約束」ということを口にした小説家・朽木糺。

 嘘つきで薄汚い小説家が抱く真実に、十五歳の女学生である少女は撃たれる。少女には小説家が、世の中への恥じらいに身をよじる幼子に見え、少女は小説家の「母」になる。

 朽木とこの世での「信義」を分かち合い、朽木がたどり着くしかない死を予感しながら、幼子である朽木を、悲しくも強い目をして胸に抱いた「母」である少女。

 
 まだ十五歳で幼さもある女学生でありながら、自らを、すべてを包みこみ抱きしめる母であると思う少女の心理が恐ろしくも感じられる。そのような少女が男性である久世光彦氏によってが描かれるということが、その時代、男女の心にあった不安、切ない希望、誰かの胸に身をゆだね抱かれることへの欲望・・・そういったものをより濃く、少し倒錯的に感じさせる。

 久世氏の言葉には粘度があり、匂いがある。皮膚感覚・・・特に粘膜系の感覚を刺激される。だらしなくて滅茶苦茶な小説家・朽木糺がその身に漂わせる匂いを思うとき、少女は「下がらない熱の匂いともちょっと違い・・・」と、心でつぶやくのだが、「下がらない熱の匂い」! ああ! 感じられる! これ以外の言葉では伝わらない、病の床の熱っぽさ、湿気、少し酸っぱいような、甘いような匂い。こういう言葉を読むと、しばし恍惚としてしまう。


追記

 以前、「人間失格」を読んだ時に、「恥」と「恥じらい」という感情について、私はこんな感想【http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-110.html】を書いている。そして、太宰とダブる小説家・朽木糺が、無頼を気取りながら、身に纏いつかせているのは「恥」ではなくて「恥じらい」で・・・。十五歳の女学生は朽木の無頼を、恥じらいを、母のように抱きしめ、母のように突き放す。

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