2008-04-12

ぼっけえ、きょうてえ : 岩井志麻子

 明治時代、岡山の貧しく小さな集落を舞台に、独特の泥臭さを持つ土地の言葉で語られる怖ろしい話。

 “ぎゃ~っ”と絶叫するという類のものとも、背筋がすぅ~っと寒くなる類のものとも違う、嫌~な感じの怖ろしさ。

 恐怖の種はあちこちに周到に撒いてある。貧しい村での悲惨な暮らし、閉じられた集落での妬み、嫉み、そこから起こる陰惨な事件、禍々しいものの影。しかし、それらの恐怖の種は他の物語などでもしばしば見聞きするもので、それだけではこの4つの話が放つ嫌~な感じは出てこない。

 このお話を嫌~な感じに怖ろしくしているものは何かって、怖ろしい思いをしている当事者たちが“逃げ出す”ということをしないことだ。ちょっと現代的な感覚で考えれば、“嫌だ”と思ったことから彼らが逃げ出してさえいれば回避された恐怖もあるのだ。

 怖ろしさに身を強張らせ、慄いた青黒い顔をしながら、それでも怖ろしいものを振り払って逃げるなんてことを思いつきもしないで、怖ろしいものをじ~っと背に、肩にのせたまま生きている。“逃げる”ことを思いつかずに生き続ける人間と、“逃げる”ということを思いつかせないほどに彼らを縛っている、彼らの住む集落という世界が怖ろしい。

 そういう“逃げない”(“逃げられない”)ことで恐怖が増幅しているという意味では、私は『密告函』が一番怖かった。


 表紙の日本画は甲斐庄楠音の『横櫛』。久世光彦氏の「怖い絵」に、この画家について書かれた一節がある。こちらも怖ろしいといえば怖ろしいお話。未読の方には強くお奨めします。

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『ぼっけえ、きょうてえ』

岩井志麻子 『ぼっけえ、きょうてえ』(角川ホラー文庫)、読了。 あんまり怖い話は好まないのですが、方言モノと知り、挑戦してみました。...

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