2008-03-19

少し変わった子あります : 森博嗣

 名前も無い、決まった場所も無い、毎回違う場所で、看板も出さずひっそりと営業する不思議な店(その店のことを「私」に教えた男は一月程前から行方不明だ)。

 全てに於いて感じが良いが、全てに於いて何の印象も残さないこの店で、「私」は正面に座る一人の女性(名前も素性も不明。料理を食べる仕草が美しいという他は特別な点のない、ただ普通の女性である。「私」の正面に座る女性は、「私」が店を訪れる度に変わり、二度と同じ人に会うことは無い。)と一緒に料理を食べ、ひと時と過ごす。

 何にも邪魔されない、煩わされないこの不思議な店で、「私」は私だけの世界、純粋な思考の中に沈んでいく。

 たった一度、ほんの短い時間だけ共に過ごす女性と交わす言葉は(二人とも何もしゃべらず過ごすこともあるが、その時はその沈黙が)「私」の「孤独」を起動するスイッチになり、「私」の中に次々と現れる記憶、様々な考察、名づけようのない抽象的な思考・・・。

 「私」の頭がそういうとりとめのない活動をする様は、保坂和志の「カンバセイション・ピース」にも似た感じ。

 ところで、この本を読んでいると、「私」に現れたのと似たような作用が、読者であるこちら側にも現れる。目は本の文字を読みながら、頭の中では別の個人的でとりとめのない考えが回り始める。本の中で、「私」の正面に座る女性の役を、この本がしてくれるということか・・・。

 本の中の「私」が心地良い一室で美味しい料理を口にしているのに比べ、読者である私は電車待ちのホームの上とか、ランチ客でざわざわするカフェとか、隣で家族がテレビを見ている騒がしい自宅リビングにいるというのは、あまりに待遇が違いすぎるじゃないか! とは思うけど・・・。

 さて、この不思議な店にしげしげと通った「私」は(そして「私」にこの店を教えた男は)その後どうしているのか? この不思議な店は何なのか? 孤独を愛する人の為に良質な孤独を実現させる空間? はたまた、孤独に浸りたがる人間を、社会から間引いてしまう装置?

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