2007-08-25

花闇 : 皆川博子

 人の気配も絶えた雪原の中、雪にたわめられてぽつんと澤村田之助丈の名前を染め抜いた幟・・・一息で物語の世界に読者を連れ去る、一つ一つの言葉が重い情念の装飾をまとっているような、幻想的で予感に満ちた冒頭の場面。


 類まれな美貌と才能に恵まれ、江戸の末期の歌舞伎の舞台で華々しく活躍した女形・三世澤村田之助。その華も盛りの頃に壊疽に体を蝕まれ、両足、右の手首から先、左手指を次々と失いながらも舞台に立ち続けた。見せる(魅せる)と同時に「見られる」ことに徹した役者の凄まじさがある。

 江戸末期の退廃的な気分の中にあって、悪しきもの、汚いもの、通俗なもの、悲惨なものすべて飲み込んでそれを魅力的なエンターテイメントとして舞台にのせて魅せた江戸の歌舞伎と、その華であった田之助。明治へと開化していく社会の中で芝居の中から卑俗なものを排除して芸術へと高めようとした河原崎権十郎(九代目市川団十郎)。この二人の対比もくっきりと描かれている。

 田之助が演じることになった「大安寺堤」の春藤の衣装をめぐって田之助と権十郎が対立する場面・・・敵討ちの為に浪人し、身を落とし病を得て衰え果てた若武者をあくまでも美しい衣装とこしらえで演じようとする田之助と、役のリアリティを考え襤褸を纏い無精ひげも伸びた姿であるべきだと主張する権十郎・・・ふたりにとっての芝居の違いがわかりやすく描かれる場面だ。

 「世間そのままの実をうつすばかりが芝居じゃあねえや」と啖呵を切る田之助。

 「あまりにもそらぞらしい嘘っ八は、通用しなくなる」と言い張る権十郎。

 私は少なくとも歌舞伎は田之助の言うようなものであってほしいと思うが、権十郎が歌舞伎の改革を断行するに到るドラマもこの小説の中には描かれている。

 権十郎に限らず、脇役も印象的だったこの小説。語り手である市川三すじの他、大道具に大きな工夫を見せた長谷川勘兵衛、浮世絵師・月岡芳年らも生き生きとというか・・・生々しくというか・・・魅力的に描かれている。

 特に月岡芳年は鬼気迫る描かれ方。“血まみれ芳年”とも呼ばれる彼の絵を昔、本屋の店頭に置いてあった画集で見たことがあるが、それらの絵をまざまざと思い出した。

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