2007-08-18

ポセイドン変幻 : 赤江瀑

「恋牛賦」
 京都のとある寺院の杉戸に描かれた1頭の牡牛の絵。荒々しく踊り出さんとするようなその牛の躯を墨一色で杉戸に焼き付けた男は、鋭い牛の角で自らの腹を突き、その場で息絶えた。

「春猿」
 初役の弁天小僧に臨む若手花形の歌舞伎役者・七之助。その側で床山・ヒカルはかつて七之助と見た、旅回りの役者・芳沢春猿の演じる弁天小僧を思い出していた。崩れかかった鬘に粗末な衣装、場末の小さな小屋で演じられる田舎芝居・・・その中に一瞬、身震いするような本物の弁天小僧の姿があった。

「ポセイドン変幻」
 サメに恋人を奪われた女、サメに家族を殺された男。片頭のシュモクザメ=海魔に憑かれた男女の地獄。

「ホタル闇歌」
 生まれて間もなく川に捨てられていた僕の身体にはホタルの幼虫がびっしりと群がりよせ、ぼうっと光を放っていた。
 ホタルが飛ぶ季節になると妖しい衝動に身体が包まれる。肉を喰うホタルにとりつかれた青年の闇。 

「行灯爛死行」
 瀬戸内のある島でひとりの青年の焼け爛れた遺体が見つかった。遺体は私の同居人で従兄弟である憲春のものであった。父に疎まれて生まれた自分の出生の因縁から逃れることができなかった憲春。憲春とその父の死の謎を追い求める先には、火を抱いて生きているように動く織部の燈篭が・・・。

「八月は魑魅と戯れ」
 奇妙な遺書を残してのひとりの人形作家の死。彼の作る人形は霊の世界とも通じると言われた。過去のある事情から人形に宿る霊の力を必要とし、四年半を人形作家と共に過ごした稔。その稔にも人形作家の死は謎だった。なぜ彼は死ななければならなかったのか。
 

 この作品集に収められているものは、赤江作品の中ではちょっと間の悪いものが集まってしまったようです。

 まず、赤江作品を読んだときに感じるあのうねるような独特の作品の流れ・律動のようなものが見えない。冒頭なら冒頭のリズム、中盤へ向かう追い込み、終盤へなだれ落ち、突然幕を切ってみせる潔さ・・・いつもならその流れに急き立てられるようにページを捲り、あっという間に読み終えているのに・・・今回の作品はずっと同じ調子で物語が進むようで、こんなに赤江作品を長いと感じたのは初めてでした。

 また、赤江氏の作品といえば、芸能や芸術の美、または鳥獣などの生きものの美しさに魅入られ、余人の窺い知ることのできない恍惚と闇の世界に踏み込んでしまった人たちがよく描かれます。そしてその美の恍惚とともに肉体的官能が煌くように描きこまれ、読者はその耽美な世界にのみこまれていくのが常なんだけれど・・・。

 本書の収録作では、登場人物たちの心に食い込んでいる美への執着、心を狂わすほどの妄執と分かちがたく結びついているはずの彼らの肉体的な官能が、どうもちぐはぐな感じがするのです。また、作中の男を女を虜にし、心を狂わせたもの達・・・「恋牛賦」の牛、「ポセイドン変幻」のサメ、「ホタル闇歌」のホタル・・・いずれも、それほどまでに彼らの心に食い込んだというには説得力が薄い・・・シチュエーションに無理があるような気がしてなりません。

 濃密に絡み合って一つの妖しい世界を作り出すはずの糸が、こういうふうにどこか一つでも綻びていたら、赤江氏の作品は急にあの濃い香りも、どろどろとした肌触りも失って、伝奇小説とも官能小説ともつかない奇妙なものになってしまいます。

 赤江氏の作品は非常に危険なギリギリのバランスの上に成り立っている・・・それを強く感じた作品集でした。

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