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2007-07-18

ブラフマンの埋葬 : 小川洋子

 「僕」が小さな獣「ブラフマン」に出会い、彼と過ごし、そして彼を葬るまでの短いお話。

 舞台は何処とも知れない村。読むなり、この村は以前読んだ同じく小川氏の小説「沈黙博物館」の舞台となった村に似ていると思った。

 森の木々、丘の草、泉の水、海や空はすべて鮮やかで清々しい色彩をたたえ、確かにそこにはいくらかの人の生活感もあるのだが、村は斜面一面に古代墓地が広がる丘を背負い、その死者の存在感に比べて不思議と「生」のエネルギーに乏しい・・・「生きている」ものの影が薄く感じられる。村には鉄道の駅も、外からの来訪者もあるのだが、この村が本当にこの地上のどこかに繋がっているのかどうか疑わしい気すらしてくる。

 村にある<創作者の家>の管理人である「僕」が親しく付き合うのは墓碑銘を刻むことを仕事にする「碑文彫刻師」。そして「僕」の部屋に飾られ、「僕」を安らかな気持ちにさせるのは、とうの昔に一人残らず死んでしまっているだろう見ず知らずの一家の古い家族写真。「僕」は何だか随分と「死」と近しいものを身の回りに置いている。

 生気の薄い村の中での「生」を感じさせる出来事(村の娘と隣の町から来る恋人との逢引。「僕」の娘に対する恋愛めいたもの)は、まったく何の感情の起伏も熱も感じさせず、ただ記録として書き留められる。

 この小説の中で唯一純粋に生命を感じさせるのは「ブラフマン」だけであり、「僕」と「ブラフマン」の交流は暖かく、微笑ましい。ただ、意地悪くみると「僕」は輝くばかりの「ブラフマン」の生命を貴重な標本を見るように観察していたようでもあり、「僕」がひとしきり「生命」の観察を終えると「ブラフマン」はあっけなく命を失ったようにも見える。

 この小説も「沈黙博物館」のように静かに「死」に包まれていこうとする世界でのお話のような気がする。その中で一瞬生き生きとした姿を見せた「ブラフマン」・・・彼のことをどう受け止めたらいいんだろう? 

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genre : 本・雑誌

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