2007-06-27

覘き小平次 : 京極夏彦

 死んだ者のように生きる、ただただ自分の存在を薄いものにし、押入棚の一寸五分の隙間から世界を見つめるだけの小平次。

 “何もしない”小平次を鏡にして、周囲の者の心が浮かび上がる。
 
 小平次の周囲に呼び寄せられるように集まってくるのは・・・親の苦境を救う為に我が身を男娼家に売った玉川座の女形・玉川歌仙、歌仙を陥れ、歌仙の一家を惨殺した仇・運平、歌仙の絵姿に懸想して道を踏み外した娘・宝児、小平次の女房お塚に惚れているごろつき上がりの鼓打ち・多九郎・・・。



 “親の身を思うのではない。親によって守られた自分の世界を大切に思うだけだ。”

 “何をしても面白くない、何も感じない。怒っているわけではないが、だた訳もなく機嫌が悪い。”

 “絵姿の男が恋しい。現実など知ったことではない。”

 “人としての存在を持つことに意味を見つけられない。存在の重さに耐えられない。”

 ・・・深い因縁で繋がった登場人物、芝居がかった台詞まわしはいかにも時代物の怪談仕立てではあるけれど、登場人物たちが抱える闇は現代の事件に垣間見える人の闇。

 「無理をして楽になるのと、無理をせずに苦しむのでは、どちらが良いのだろう。」 ・・・小平次がお塚にもらす言葉。

 「無理をせずに苦しむ」・・・一個の人である面倒くささから逃げる代わりに、常に輪郭のぼんやりとした不安を選んだ小平次。周囲の者が、何もせずただ在るだけの小平次を嫌い、蔑み、憎むのは、彼らが「無理をして楽に」なった者たちだからだろう。本来近しいものであるはずなのに、自分達が嘗めている「無理をする」ことのストレスを放棄しようとする小平次は許せない、腹立たしい存在に違いない。私とて、身近に小平次がいたとしたら・・・多分・・・嫌いだ。

 この小説、「巷説百物語」の登場人物たちも、物語の筋書きに一枚かんでます。

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