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2020-07-04

国宝 : 吉田修一

『国宝』 吉田修一

 極道の家に生まれながら数奇な縁で歌舞伎の家に迎えられ、芸の道をひたすら進む美貌の女形花井東一郎こと立花喜久雄~後の三代目花井半二郎。華やかな光をあびるとともに、数々の悲運、苦難に見舞われ辛酸をなめながら、ただ芸道と己が求める美に身を捧げ、やがて美の極みに殉じていった孤高の女形。

 物語をぐいぐい引っ張っていくのは、喜久雄と彼をとりまく人々の姿を、時にカメラをぐっと引いて大きく俯瞰で映し出し、また時に息づかいを感じるほどに近寄ったクローズアップで切り取ってみせる軽妙で小気味よい語り。時と場所を移しながら、嬉しいことはもちろん、つらいこと、哀しいことも、しんみりとはするけれど、じめじめとはしない、どこかあっさり、さらりとした口調で可笑しみに紛らせて語っていく。

 実はこの「語り」が曲者で、物語が終盤にさしかかる頃、この「語り」こそが、喜久雄が身を置く美しくも残酷な美の彼岸と、私たちがその美を安全に享受するこちら側とを画する「一線」であったことに気づく。

 その「語り」が意図的にこの「一線」を曖昧にし始めた頃から、大きくうねりながらもどこかゆったりとしていた物語の流れは、にわかに急をつげ、喜久雄が見ているもの ~ その恐ろしいほどの美しさ、激しさ、残酷さ、尊さが、わずかに「こちら側」に漏れ出してくる。

 そして、喜久雄の姿を見つめ、語っていたものが何者であったのか・・・それを思うとゾクリとするのだ。


 

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