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2020-06-20

きのね : 宮尾登美子

『きのね』 宮尾登美子

 昭和の劇界で人々の目にその美しい姿を焼き付けた歌舞伎役者と、その傍らでひっそりと、しかし烈しく生きた女の生涯。


 下巻にとりかかったあたりから、主人公・光乃の姿に道成寺の清姫が重なって見えるようになってきた。

 ・・・と、言うと、瞋恚の炎を燃やし、恋した男を追いつめる清姫の負のイメージを思い起こさせてしまうかもしれないのだけど、う~ん・・・なんというか、そういう意味ではなくて・・・。

 これと思い定めた相手に一生かけて尽くそう、なにがあっても、どこまでも傍に居ようと思う一途さ、健気さ。人の言葉や世間の道理では決して鎮まることのない炎を身の内に燃やしている強さ、激しさ。そういうものが清姫を思わせた。

 主とする人の気持ちや言葉一つで運命が変わってしまうような頼りない境遇にありながら、世界の中心に雪雄という類い稀な歌舞伎役者の姿を大写しに映した光乃の「私」は揺るがない。その一途な思いと、身の内に燃える炎をたよりに、身に降りかかる苦難も、自分の力が及ばない世の出来事も、「私」という茫漠とした入れ物に取り込み、やわらかく呑込んで生きていく。

 正直、私には光乃の、まさに「思い込んだら命がけ」な献身、愚直さ、一途さが恐ろしい。それは、清姫のように激しく燃え上がるのではなくても、やはり周囲の者を、そして何より自分の身を絶えず焼き続ける炎を宿しているようなものではないか。

 最初は多少のやっかみや反発も感じながら読んでいた光乃という女の生きざま。読み進めるうち、怖いなぁ・・・と思いながらも、その静かに燃えるような女の生の迫力に見込まれたように目が離せなくなっていた。


 

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genre : 本・雑誌

2020-06-06

虚実妖怪百物語 序/破/急 : 京極夏彦

『虚実妖怪百物語 序/破/急』 京極夏彦

 Stay Home

 もともと、自分の部屋に籠って過ごす時間が一番幸せだと思ってる質で、Stay Home自体は苦にならないし、日本は街が封鎖された訳ではなかったし、私の勤務先は出勤人数を減らしつつも営業はしていたので収入が絶たれるということもなく、食材の買い物に行く頻度が減った他は、緊急事態宣言下でも、割といつも通りの生活をしておりました(もちろんこの状況で色々思うことはありますが)。ただ、まあ仕事帰りにぶらぶらと本屋に立ち寄るなんてことはしばらくできなくなるだろうと。ならば、なるたけ読みでのある分厚い本を買っておこうと、緊急事態宣言が出された直後ではあったけど、勤務先近くの本屋であわてて買った一冊。文庫版で厚さ約5センチ。


 妖怪雑誌編集者を前に叫ぶ水木しげる御大。
「目に見えないモノがニッポンから消えてるンですよあんた!」

「このままではあんた、ニッポンはおかしくなりますよ。人間ってのはあんた、お化けがいなくちゃ」
 
生きてはいけんのですよ。


 世の中から「心霊現象」と呼ばれていたことどもが消え、同時に日本各地では妖怪たちが姿を現しトラブルを巻き起こす。頻発する不可解な現象に社会機能は混乱を来たし、余裕をなくした人々の心は荒廃、街は無法地帯と化す。

 この禍の元凶として妖怪(と妖怪関係者)が槍玉にあげられ激烈な迫害を受ける中、日本を覆った未曾有の危機に、妖怪にどっぷり浸かった妖怪馬鹿たちがなんとなく立ち向かう。

 宣伝文句には「京極版『妖怪大戦争』」とあるけれど、私は『妖怪大戦争』を知らないので、イメージとしては「京極版『帝都物語』」である。

 ああ、『帝都物語』(映画版)、何と愛しく、懐かしく、忘れ難い映画であることよ。「加藤が来るぞ~」の異様な高揚感だとか、魔人・加藤をこの世に存在せしめた嶋田久作の異相とか、佐野史郎の脇役とは思えない存在感だとか、西村真琴博士の懐古的未来感とか、幸田露伴の粛然とした魔術師ぶりとか、寺田寅彦の意気揚々たる科学者ぶりとか、ギーガーデザインの禍々しい護法童子とか、大きすぎる月とか・・・

 ・・・話が逸れた。が、つまり、この妖怪、幽霊、太古の邪神、虚構の魔人に小説家や漫画家、研究者が実名で登場し、虚実入り乱れて繰り広げられる物語を、↑のような高揚感、ワクワク感をもって読んだということ。否が応にも緊迫感、悲壮感が増すべき最終決戦に向けて、戦いの様相がおかしなテンションで弛緩していく脱力ぶりは、妖怪馬鹿の面目躍如ということだろうか?

 Stay Home期間を潤してくれた一冊だったのだけれど、今の状況下ではどうしても、経済社会の中では無駄の塊、何ら「実用」を為さない妖怪=「不要不急」と読み替えられて、微妙に切ない。

 虚実綯交ぜの物語の構成~「フィクション」が「現実」に侵入してもたらす脅威も、「デマ」が「現実」になりかわる様を目にした今では、ただ趣向として楽しむ感覚ではいられない。

 虚実はまさに表裏一体ということが露わになってしまった。



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