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2019-09-28

歌右衛門伝説 : 渡辺保

『歌右衛門伝説』 渡辺保

 六代目歌右衛門の名は、いつからといくことはなく昭和の名女形の名前として頭にあったが、私はその舞台での姿を観たことはなく、私の中にある六代目歌右衛門イメージといえば、橋本治の描いた役者絵の姿なのである(『橋本治歌舞伎画文集―かぶきのよう分からん』)。描かれた歌右衛門は物語の住人そのままの、どこか現実離れした異様さを漂わせて見えた。

 そんなイメージが頭の中にあったから、著者の本書に先立つ歌右衛門論『女形の運命』を読んだ時には、著者の言う「歌右衛門の近代性」ということを半ば無視していたような気がする。

 本書は改めて、「歌右衛門が近代的な役者である」ということからスタートする。歌右衛門の「近代性」をもって演じられてきた役が、歌右衛門の老いていく身体と共にどのように変化を遂げていったか。精神性を深め、不自由になっていく身体と向き合って生み出された役が、合理性も物理的な存在も超えた「幻想」へと昇華されていく様を、著者は自らの見てきた歌右衛門の中にかみしめる。


 観劇経験の浅い私でさえも、歌舞伎を観ていると、理屈や言葉を超えて、まるで雷に撃たれるように、あるいは肌から染み入るように何かが「わかる」瞬間や、物理的には見えないはずのものが、舞台の上に幻のように、またはありありと「見える」瞬間がある。

私は、その陶酔感のなかで、不思議なものを見た。

 本書は、長く舞台をみてきた著者の、言葉を超えて「わかる」、見えないものが「見える」感覚に満ちている。著者が歌右衛門に「見た」ものとの長い時間をかけた真摯な対話である。


  

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2019-09-14

太陽と乙女 : 森見登美彦

『太陽と乙女』 森見登美彦

 酷い暑さと大雨の波状攻撃に削られた体力、鈍く痛んで重たい頭。そんな状態でもゆるゆるとやさしく読めて、読み終わった時には少し良い心持ちになれるような読み物を求めていた。これは、そんな時にうってつけの一冊。

 読み進めることしばし・・・、現れた『使いすぎると、みなカレーになってしまう』というパワーフレーズに、ランチ時のドトール店内であるにもかかわらず堪らず「ブッ」と吹き出す。吹き出すと同時に身体と頭を覆うモヤモヤが少し晴れた。

 そして、これは意外にもというか、ちょっとした驚きだったのだけど・・・。収録されたエッセイの中に、東京都内の廃駅跡をめぐる1日を記したものと、姫路から益田まで単行列車を乗り継ぐ旅の顛末について書いたもの、鉄道にまつわる文章が2つあるのだが、これがあまり面白くない・・・。本書の中にも登美彦氏が内田百閒を愛読する様が書かれており、さぞかし『阿房列車』ばりの面白くかつ不思議な味わいの鉄道エッセイが・・・と思っていたところが・・・。ワクワクも、微笑ましい偏屈さも、煙に巻かれるような詭弁もない。何だか大人しい文章が綴られているのに拍子抜けするのだが、「やはり登美彦氏の本領は、外の世界にではなく四畳半に据えた机上にあるのか・・・?」と思うと、その面白くなさも、少し面白い。

 一方で、登美彦氏の妄想世界と地続きであるような馴染みの町の様子、風景を語る文章には不思議な生命力がある。そういう妄想だか現実だかわからない登美彦氏の描く風景を読んでいると、ときにふわっと、ときにザワザワと風が吹き抜けていくんだよなぁ~。  



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