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2018-03-31

我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選 : 桐野夏生編

『我等、同じ船に乗り 心に残る物語―日本文学秀作選』 桐野夏生編

 アンソロジーを読む場合は、自分の好みに合うテーマに沿って編まれたものや、好きな作家が編んだものを選ぶことがほとんどなのだけど、作品を読んだことのない桐野夏生氏の編んだものを今回手に取ったのは、どこか共犯関係を感じさせるタイトル~『我等、同じ船に乗り』~が気になったから。

 アンソロジーを読む楽しみは、これまで触れる機会のなかった、そしてこれからもなかなか手に取ることはないかも知れない作品や作家に出会うことだったり、自分とは異なる編者の視点を知ることだったりしたのだが、本アンソロジーの収穫は、他の収録作品を交えて読むことで、これまで何度も読んできた作品の今まで感じたことのない味わいを知ったことであった。

 乱歩の「芋虫」・・・これまで何回も読んだ作品ではあるが、須永中尉が柱に刻んだ「ユルス」という文字がこれまでになく哀しく、美しく見えたのは、前後に配された作品~島尾敏雄の「孤島夢」、島尾ミホの「その夜」、林芙美子の「骨」、坂口安吾の「戦争と一人の女」など戦争の中の人の生を描いた小説~があったからであろう。

 その他・・・ 

 編者が「忠直卿行状記」の本歌取りのような作品と紹介した太宰治の「水仙」。滑稽味を漂わせながらもグルグルと渦巻く感情を描きつくす太宰治の凄まじさったらない。どうしても血まみれの(もしくは紫色に腫れ上がった)笑顔を連想してしまう。

 それぞれの思惑と計略を秘めて認められる夫婦の日記~谷崎潤一郎「鍵」。私にとってはさして興味も関心もなく、むしろ退屈に感じられる家族の粘っこい駆け引きが執拗につづられていて・・・辟易した。

【収録作品】
島尾敏雄「孤島夢」
島尾ミホ「その夜」
松本清張「菊枕」
林芙美子「骨」
江戸川乱歩「芋虫」
菊地寛「忠直卿行状記」
太宰治「水仙」
澁澤龍彦「ねむり姫」
坂口安吾「戦争と一人の女」「続戦争と一人の女」
谷崎潤一郎「鍵」 



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genre : 本・雑誌

2018-03-17

人形たちの夜 : 中井英夫

『人形たちの夜』 中井英夫

 ひとくちに情念といっても近頃のものはどこか作り物っぽくプラスチックな肌触りがするのだが、いまでは様々な事情で目や耳にすることのなくなった言葉をふんだんに用いて語られる昭和の情念はまるで土か泥でも胃の中に詰め込んだかのようにズ~ンと重くこたえる。

 ・・・というような感想を書きかけていたのだけど・・・。最後まで読み通してみるとこれはただ情念のみで語られた物語ではなく、冴えた眼と感性で世の有様を見通し、その上で自分が一人の人間として世の中に在る為に生み出された物語であった。


 とある寺に所蔵された職人尽絵の屏風。その屏風を前にした主人公の中で醸されていた想いを源に物語は生まれ出る。
 ひどく不気味なことがいまにも起るのではないか。~略~ こうして職業がとめどもなく分化してゆくにつれ、人間は少しずつ互いに疎遠になり、ついには他人のしていることがまったく理解出来なくなって、とうとう人形のように言葉も交わさず、表情も動かさなくなるのではないか~

 職人尽しの古い屏風絵から、あまりに細分化された現代の職業を思い、さらにそこに時代が孕む不気味なものの気配を感じ取る感性はあまりにナイーブで鋭い。

 そのようなナイーブで鋭い心をもつ主人公が必要とした物語~もう一つの現実。やがて目にする結末は、読者である私たちにとっても、強靭な意志で独り孤独に物語を語ってきた主人公自身にとっても意外な、そして尊いものであった。

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2018-03-03

バンドネオンの豹 : 高橋克彦

『バンドネオンの豹』 高橋克彦

 1980年代・・・当時は月に何冊かの音楽雑誌を読んでいて、あがた森魚氏の名前も『バンドネオンの豹』というアルバムタイトルもそれらの雑誌で目にしたのだった。

 そのロマン溢れる世界への憧れとノスタルジーを掻きたてるタイトルに誘われてライブを聴きに出かけた。情けないことに、その時聴いた音楽のことは殆ど忘れてしまったのだけど、何度か足を運んだライブ会場の居心地の良さは今でもほんのりと覚えている。

 物語はあがた森魚の音楽とも微かに連動する、私たちにとってはあらかじめ失われた場所~見たこともないのに懐かしい心の奥の感傷を掻き立ててやまぬ魂の故郷ともいうべき世界をめぐる冒険譚。

 選ばれし少年たちはあたりまえの日常を抜けだし物語の世界の住人となって、謎のヒーローや怪人たちと丁々発止の冒険を繰り広げるのだけれど、「ひょっとすれば・・・」と作者が記しているとおり、この物語自体が登場人物である藤村少年の生み出した妄想であるのかもしれない。しかし、もしもこの物語が少年の妄想だとしても、いや少年の妄想であればこそ私たちの胸は切なさに絞られるのだ。

 

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