2016-03-19

あなたのための物語 : 長谷敏司

『あなたのための物語』 長谷敏司

 自分を産んだ慕わしい女のために物語を紡ぎ続けたAIと、物語のようには生きなかった女の話。


 不満足な現実に甘んじることを拒みタフに戦い続け、幾何かの成果を出してきた研究者サマンサ。余命半年を告げられた彼女は、死病にとりつかれた自らの肉体という現実に挑み、抗い、抗いきれずに悶え苦しむ。「納得のいかない現実」をあくまでも抵抗すべきものと考えるサマンサの戦いと苦悶が執拗に描かれ続ける。

 以前観た映画『禅-ZEN』の感想にも書いたのだけど、「ああなりたい」「こうありたい」と願い、現実をより良いものにしようと努力することは人間の美しい心のありようであり、輝かしい姿ではあるけれども、その願いに囚われて「自分の思ったようなものでない現実」を拒絶することしかできないというのは人の心の暗黒面でもある。

 ・・・そのように私には思われるから、自分の満足いかないものには徹底的に抗い、打ち負かそうとするサマンサの姿には反発しか感じなかった。

 ・・・しかし、欲を捨て、抵抗することをあきらめ、現実をありのままに受け入れることは、上手く死ぬための方法であって、「よく生きる」ということではない・・・とは思う(同時に「人間ってよく生きなきゃいけないのか?とも思う)。

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2016-03-05

奇譚を売る店 : 芦辺拓

『奇譚を売る店』 芦辺拓

『――― また買ってしまった。』

 夢見がち・・・というか妄想がとめどなく広がる質の小説家であるらしい「私」が古本屋で一冊の本を買い求めることから始まる6つの物語。

 古本屋を出た途端に魔法が解けたような気分をいつものこととして味わいながら「私」が繰るページの中に現れるのは・・・疑似西洋的な〝美麗”な館に〝最新式”の治療機器を備えた帝都脳病院。戦前戦後に数多く生み出されたミステリーや推理小説の中に、人知れず埋もれつづけた異形の探偵小説。半ズボンの少年探偵が怪人たちと対決する少年漫画。古き良き時代の映画撮影所・・・。

 書物の中から現実に滲み出して、やがて「私」を呑みこんでいく異常な出来事~幻想と怪奇の物語は怖ろしい、まさに悪夢の世界ではあるけれど、そのレトロな道具立てと相俟ってどこか長閑で、懐かしさと憧れを掻きたてる ~「そういう質」の人たちにとっては、その世界に囚われることを夢想せずにはおられないものである。

 だが、最後の一篇によって物語はグロテスクなものへとぐるりと様相を一変させる。一瞬、現実逃避的に本ばかり読んでいる自分の背中に冷水を浴びせられたような気持ちになる。でも・・・
 いつしか、私は自分の書く物語と一体化していた。

 本を読む、読まない、作品を書く、書かないにかかわらず、人って自分の為の物語を書いているようなもんじゃないのか。むしろ、『自分の書く物語』と一体化できるとしたら幸せなことなんじゃないのか? 世の中には『自分の書く物語』と一体化できなくて苦しんでる人が多いんじゃないのか?

 でもやっぱり・・・『自分の書く物語と一体化』なんてグロテスクなことなのかな。




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