2015-07-25

屍者の帝国 : 伊藤計劃・円城塔

『屍者の帝国』 伊藤計劃・円城塔

 死体の脳にネクロウェアをインストールすることにより死者を「屍者」として蘇らせる技術が確立され、「屍者」が兵力や労働力として社会の一部を占めるようになった19世紀末。

 屍者技術を学ぶロンドン大学の医学生ジョン・ワトソンは大英帝国陸軍バーナビー大尉とともに、一部でささやかれるロシア軍事顧問団の一隊が関わるらしい「屍者の王国」の噂について調査するため、英国の諜報員として第二次アフガン戦争最中のアフガニスタンに潜入する。アフガニスタンの奥地で屍者の集団を率いるアレクセイ・カラマーゾフから告げられた「ザ・ワン」~ヴィクター・フランケンシュタインによって創造されたオリジナル・クリーチャーと知られざる屍者技術の記された「ヴィクターの手記」の存在。
 
 19世紀末の世界に実現された悪夢のような技術。死体が蘇る。情報が質量を持ち、言葉が物質化する。ジョン・ワトソン、フレデリック・バーナビー、インド副王リットン、アレクセイ・カラマーゾフ、川路利良、大村益次郎、レット・バトラー、ヴァン・ヘルシング・・・歴史上やフィクションの中の人物たちが入り乱れ、改変された歴史の中を縦横に駆ける。

 物語は多くの謎を抱えたまま緊迫感を増しながら展開するが、そこに描かれていることが度の過ぎた悪ふざけであるようにも思えて、物語の中の緊迫感にそれを読んでいる私の緊迫感が追い付かない。

 ロンドン~ボンベイ~アフガニスタン~東京~サンフランシスコ~プロヴィデンス~再びロンドンへ。「ザ・ワン」と「ヴィクターの手記」をめぐって次々と上書きされ変容する物語を追い、旅をするワトソンたち。そして、そのワトソンを含む物語が次々と変容していくのを追う私。読みながらも物語の速度に追いつけないような気がするのは、世界を一周する旅の速度に魂がついていかないと感じる作中のワトソンの感覚に似たものか・・・。

 屍者と生者を分かつものは何か。魂とは・・・? 意識とは・・・? 物語はクールな思考を求めてくるが、同時にとてもセンチメンタルでもある。




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2015-07-18

金色機械 : 恒川光太郎

『金色機械』 恒川光太郎

 人の吐く嘘と人の発する殺気が目に見える男と、触れるだけで人の命を消すことのできる手を持った女の対面の場面で幕が開く。

 男・熊悟朗と女・遥香の過去へと話は遡りつつ、「鬼御殿」と呼ばれる山中の要塞を根城とする山賊たちやそこに攫われてきた女たち、「鬼御殿」と共存する里の人々、戦国の世に不思議な力を持って自治・独立を守ってきた一族、少年の頃に犯した流民斬りの罪を背負って生きる同心らの数奇に絡みあう運命が語られる。

 物語のベースは主に江戸中期を舞台とした不思議譚、伝奇ものといった風情なんだけど、絡みあう運命の節目節目に、私にはC-3POの姿でしかイメージできない「金色様」と呼ばれるものが現れる。和風の、時代物の物語世界の中に、しれっと書き込まれたC-3PO。何だ?!この異様さ、不条理感。うははははは・・・・ゾクゾクする。

 きれいごとではすまない人の荒々しく力強い生の営みの物語。その中で「金色様」という異様・異質な存在の生み出すゾクゾク感が格別だった。




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2015-07-04

蚊がいる : 穂村弘

『蚊がいる』 穂村弘

 「世界」と「自分」との間のズレに戸惑う。自分の感覚や決断に確信が持てない。結果、なんだか色んなことが曖昧なままふわふわしていてどうすればいいのかわからない。いつもの穂村氏である。

 いや、でも。そもそも、「世界」と「自分」との間のズレや、自分の曖昧な在り方なんかに気づいてしまうのは、穂村氏が「短歌」という武器を手にしてしまったからじゃないのか? 「世界」や「現実」の本当の姿を見る鋭敏な感覚と、その「本当のこと」を言語化する歌人としての能力がなければ、自分が感じている違和感の正体なんか良くわからないままぼんやりと現実に馴染んでいくしかないのだ。

 もしも、歌人であることよりも現実と折り合いをつけることの方をとりたいのならば、さっさと「短歌」という武器を捨てればいい。・・・と思うのは、まぁ私のやっかみであるが・・・。

 それにしても、歌人として現実の中にちゃんとした居場所も得て、さすがにもう現実とのチューニングだって合わせられるようになっているんじゃないの? 「短歌」に加えて「内気キャラ」「現実が怖いキャラ」という武器まで手に入れようなんてズルい、と思う。

 でも・・・ある短歌大会の会場で目にしてしまったのだ。

 会の実行委員より「入選者に賞状を渡してください」と頼まれ司会者の傍に立った穂村氏の動きは、会場中の誰よりも(憧れの穂村氏を前に緊張する入選者や、慣れない物販コーナーでの接客にまごつく普段は深窓の奥様らしき女性たちよりも)ぎこちなく、視線は落ち着きなくさまよっていた。おそらく、『入選者に賞状を渡す』っていう一連の動作の正解がわからなくなっちゃったんだろうなぁ・・・。実行委員のおじいちゃんに救いを求めるように向けられた壮年の穂村氏の目。会場の片隅でこっそり思った「・・・穂村さんて、本当に・・・そうなんだ。」




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