2015-02-28

五郎治殿御始末 : 浅田次郎

『五郎治殿御始末』 浅田次郎

 幕末から明治維新への激動期、否応なく変わっていく時代の流れのなかに呆然と立ち尽くす武士たちの心中とその生き様を描く~映画化された「柘榴坂の仇討」を含む短篇6篇。

 政治的、軍事的、文化的なものだけでなく、時刻や暦といった生活感覚の部分まで古いものを捨て、新しいものにあわせることを皆が突然強いられた時代。自分の信じてきた価値観がもはや通用しないこと、自分が世の中で無用のものとなっていくことを見つめざるをえない不安と無力感は、グローバリズムの波にあらわれて、生活の中の小さな違和感を日々解消していかなくてはいけない現代の私たちにも、ごくうっすらとゆるやかにではあるが感じられる感覚なのではないか。

 武士としての在り方、拠りどころをあまりに突然に否定されてしまった、その苦難の中でも人としての芯の部分の健やかさは失うまいと踏ん張ったのであろう侍たちの心が、五郎治が形見に残した“笑いぐさ”の付け髷に凝縮されているようだ。


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2015-02-21

梅の花咲く―決断の人・高杉晋作 : 田中秀征

『梅の花咲く―決断の人・高杉晋作』 田中秀征

 梅の咲く季節になりました。まだ厳しい寒さの中、他に先駆けて芳しく凛と咲き、暖かな春を待たずに散る~高杉晋作が好んだという梅の花は、彼自身のイメージにぴったりとはまる。タイトル買いしたこの小説、タイトル通りの芳しい梅の香りを期待したのだが・・・。

 とにかく読みやすい。滑るようにすらすらと読める。読んでいて爽快でもある。作者は本職の小説家ではないとのことだけど、とても文章の上手い方なんだと思う。ただ、小説としては「無臭」だった。読んでいて気持ちが波立つような「匂い」がない。味気ないともいう。

 長州の藩論を一転させた「功山寺決起」から討幕へと向かう藩体制づくり、そして第二次征長軍を迎え撃っての「四境戦争」~高杉晋作が為した大きな歴史的事業を通して、時代を読み、的確に舵をきる「指導者」としての高杉晋作が描かれる。確かにこの時期、指導者として晋作が為したこと、下した決断は後の歴史に大きな意義を持ったのだけども・・・。

 高杉晋作の人物像が「指導者」「政治家」という側面からしかとらえられていなくて、「鼻輪のない離れ牛」という評判さえ「独立の気概」といった指導者の資質としてのみ解釈されてしまっては、あまりに色気がない。「無頼」「暴狂」「狂暴頑愚」そんな無茶苦茶、やぶれかぶれの中に鮮やかに遺した新しい時代への事跡、妻や愛人に時折見せるデリカシーが、晋作の何ともたまらんところであるのに・・・。

 作中、野村望東尼の平尾山荘に匿われて過ごした数日が後の晋作にとって意義の多いものとして書かれている。平尾といば、ちょいと行ける場所でもあるので、一度行ってみなくてはと思っているのだけど、晋作の辞世を台無しにしてしまった(と思う)野村望東のことが好きになれなくて、なかなか足が向かない。



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2015-02-14

芳一 : 堀川アサコ

『芳一』 堀川アサコ

 歴史ファンタジーっていうのかな? 時代が室町初期っていうのがめずらしくて面白いなと思った。

 足利将軍尊氏の嫡子・義詮と冷遇されてきたその異母兄・直冬。二人の確執に、この世に災禍をもたらす祟りの書『北条文書』をめぐる怨念が絡まって、亡霊や怪しのものまで暗躍して繰り広げられる血なまぐさい騒動。そんな命懸けの騒動に巻き込まれては、心ならずも事態収拾のために一はたらきしてしまう無頼の琵琶法師・芳一。

 主役も脇役も、登場人物たちが皆あっけらかんと暴力的で、けっこう無惨な流血沙汰も何か楽しげにじゃれあっているように見える。そういう明るくて素朴なワイルドさとかバイタリティって何か中世的かな・・・と思う。

 琵琶を弾いて語れば亡霊を呼ぶ芳一は小柄で猿顔、身が軽く、口の悪いがさつ者。茫洋として腹の底が読めないけれどかなりしたたかであるらしい義詮は「お願い」と「脅し」で芳一を猿まわしの猿のごとくに追い立てる。義詮や芳一を陥れいたぶる直冬や、『北条文書』にまつわる怨念のかたまりである永久男に清斗も邪悪なんだか、そうでもないのか・・・ひどいことをしても独特の愛嬌があって憎めない。

 面白いキャラクターたちだと思うのだけど、エンターテインメント小説としてはいまひとつ輪郭がはっきりしない。どんな目で、どんな眉で、鼻筋はどんなで、どんな口で、何を着て、どんな表情をして、どんな癖があって、どういう行動原理を持っているのか・・・そういうことが、もっとありありと目に見えるようだと、さらに話にのめりこめるのに。 

 キャラクターの輪郭が何だかはっきりしないと感じてしまう訳の一つは、キャラクターに名前がしっくり添っていないからかもしれない。「芳一」という名前からは主人公の芳一とはまったくキャラクターの違う「耳なし芳一」を強くイメージしてしまうし、怪しい傀儡師として名無しのまま印象深く登場していた男に、物語中盤でおもむろに「清斗(=清めねばならぬ悪しき器)」だと名乗られてもなぁ・・・。



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2015-02-07

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? : フィリップ・K・ディック

『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 フィリップ・K・ディック

 死の灰が降り積もる荒廃した地球。多くの生物が死滅し人口の激減した世界。人間社会に開いた虚しい空白を埋めるのは精巧な電気動物やアンドロイドといった疑似生命。

 地球を捨てた人類の移住先である火星から逃亡した反乱アンドロイドを狩るバウンティー・ハンターのリック。人間として社会に潜むアンドロイド。人間とアンドロイドを見分ける唯一の方法が「感情移入度」を測定するテストだけって・・・。

 やたらと「共感」や「感情移入」ということに拘泥する人間たちが何だか滑稽で、むしろアンドロイドたちのあり方の方が良い意味でクールに思える・・・というのは、この作品が描かれた時代に危惧された(のかもしれない)近未来の人が直面する人間性の危機ってやつなんだろうか?

 ふと、私にとってとても衝撃的だった新渡戸稲造『武士道』の中の言葉が思い出される。

もし愛情が徳の行動に結びつかない場合は、頼りになるものは人の理性である。その理性は、直ちに人に正しく行動することを訴えるからである。


 機能不全に陥ってしまった「愛情」~「共感」や「感情移入」を、機械を使った疑似体験や動物を愛玩することで補おうとする人間も、正しく行動するための「知性」や「理性」に優れていても、その大元にあるべき「愛情」を欠いているアンドロイドも・・・どちらも哀しい・・・のかなぁ。



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