2014-08-30

本当のことしかいってない : 長嶋有

『本当のことしかいってない』 長嶋有

 書評集・・・なんだけど、何か不思議。読んでいて一番印象に残るのが「長嶋有」なんである。

 長嶋有が気になる作家だからというのはもちろんあるんだけど、それだけじゃない。これまで好きな作家~中島らもとか、久世光彦とか、三浦しをんとか~が書いた書評集を何冊か読んでいるけど、それぞれの視点や読みをおもしろく味わった上で最終的に興味が向かうのは、らも氏や久世さんやしをんさんに沢山の言葉を語らしめた「作品」の方だったのだ、大体において。

 だけど、何でだろう? この書評集を読んでいると、取り上げられている作品よりも、色々な本を読んで色々なことを感じている「長嶋有」の方にばかり関心が向かってしまう。あとがきにも『まとめてみたら、通常の書評集とはありようが異なっていた。』『これはどこか小説のようだ。』とあった。

 取り上げられた作品についてとても繊細な読みがなされている。作品や作中人物が「している」ことでなく「していないこと」を読み、「ある」ことよりも「ない」ことに感じ入る。

 川上弘美の『光ってみえるもの、あれは』の各登場人物の間にあるのが「あなどり」であるという指摘にははっとした。私が単に「嫌な感じ」だと思っていたもの~作中で発せられる言葉の中にあったものの正体は「あなどり」。そう、「あなどり」かぁ・・・。この「あなどり」に気づかなければ、この作品の空気となっている『あなどられる人の余裕』『あなどらせることの優しさ』にも思い至れないわけだなぁ。


『光ってみえるもの、あれは』感想・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-388.html



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2014-08-23

神様が殺してくれる : 森博嗣

『神様が殺してくれる』 森博嗣

 自らが巻き込まれることになった、美しすぎる友人リオン・シャレットに纏わる連続殺人事件について語る「僕」。その語りに悲しみと欠落を漂わせる「僕」という存在そのものに何か秘密があるのだろうということは最初から予感された。

 リオン・シャレットに関わる5人の男女が次々と殺された理由。殺人の現場にいたリオンが「神が殺した」と言い、その神の名として「僕」の名前を告げた理由。残酷な事実のすべてを語る「僕」と、事実として語られた言葉を「そのまま信じることはできない」と言う「僕」と、結局は言葉にできなかったことと・・・。

 千々に分裂する「僕」の姿も、殺人を犯した「僕」の半身の思いも、「僕」を神と言ったリオンの思いも、そのありのままを掴むことは難しくて、ただそのことを思い、考え続けることしかできない。

 事件によって深く傷つきながらも、自分のために、リオンのために、自分の半身のために、何が起きたかを明らかにするべくこの一連の事件を語る「僕」の言葉は自制と思いやりに満ちて切ない。

 深い傷を抱えて「僕」はこれからも生きていく。唐突だけども、「ありのままに生きる」ということはやはり高らかに誇らしげに歌い上げるものじゃなく、あきらめ(諦める+明らめる)を含んで口にするものなんじゃないかなと思った。



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2014-08-16

雨月物語 : 上田秋成

『雨月物語』 上田秋成

 西行の前に現れた崇徳院の亡霊「白峯」、命を賭して守った義兄弟との約束「菊花の約」、磯良の祟りがそりゃもう恐ろしい「吉備津の釜」、柔弱な美青年が蛇女に見込まれて・・・「蛇性の婬」、其の肉の腐り爛るるを吝みて、肉を吸ひ骨を嘗めて、はた喫ひつくしぬ・・・「青頭巾」

 夏には怖い話を読む。今年は『雨月物語』。これまで部分的に見たり聞いたりはしていたけれども、きちんと読んだことはなかったのです。

 この蒸し暑くうっとうしい天気に、もちろん主に〝ゾクリ” 〝ヒヤリ”を期待しての読書だったのだけど、秋成がもの語るお話はどれも短いながらに、単に怖さだけでなく、目の前に絵巻物が広げられていくような興奮と、「ものがたり」に心奪われる快感を存分に味わせてくれるものだった。

 九つの話にたっぷり翻弄された後で「序」を読むと、そこに溢れる秋成の「ものがたる」ことへのこだわりが凄い。「紫式部は『源氏物語』を書いたために地獄に落ちた」なんて話は初めて聞いたが、そう言われると、「架空の物語で人々の心を惑わす」~ものがたることの魔力がひしひしと感じられるし、その魔力を操るプロとしての秋成の自負に圧倒されるような気がするのだ。



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2014-08-09

幻想怪奇譚の世界 : 紀田順一郎

『幻想怪奇譚の世界』 紀田順一郎

 「夏だし、何か怖いもの読もう」と思い立ったのだけど、「怖いもの」といっても一体どのあたりに手を付けようか? という思いもあって(数年前の夏にはイギリスのゴシック短編集を読んでみたものの、ちっとも怖さを理解できず大失敗!ということもあったので)、まずはガイド的なものを。

 文庫や全集の解説として書かれたものが多く、第一章は日本の作家、作品について ~ 小泉八雲、泉鏡花、夢野久作らの作品世界や、乱歩、海野十三、小栗虫太郎ら推理小説やSFと幻想怪奇的なものがないまぜになっていた時代の作家たちについての解説、「百物語」という怪異を生む、体験する「場」についての考察など。

 第二章はルイス・キャロル、H.G.ウェルズ、ガストン・ルルー、アルジャノン・ブラックウッド、アーサー・マッケン、サマセット・モーム、H.P.ラヴクラフトら海外の作家が生んだ幻想怪奇の作品空間についての分析 ~ その背景、成り立ち、特質。

 第三章に翻訳もの短篇を三作品収録。フリードリヒ・フーケ「ウンディーネ」、アルジャノン・ブラックウッド「とびら」、ウォルター・デ・ラ・メア「なぞ」。お伽噺のようだったり、SF的だったり、純然たる怪異だったりと味わいは異なるのだけど、やたらとデコデコ飾り立てず、さらりと描き出された怪異と不思議の感触は、岡本綺堂の怪談の肌触りにも似ているなぁと思った(まぁ、翻訳ものだから原文の味わいはまた別かもしれませんが)。

 んで、この夏、「怖いもの」は何を読もうか・・・ですが、本書にはまったく関係なく、上田秋成の『雨月物語』にしようかと。(この夏には無理かもだけど、本書で興味を持った海野十三「深夜の市長」もいずれは・・・) 



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2014-08-02

ジャージの二人 : 長嶋有

『ジャージの二人』 長嶋有

 以前、長嶋有氏のエッセイを読んだとき、「なんかこう、フラットな・・・感じだなぁ」と思ったのだ。気持ちを大きく浮上させるような凸も、深く沈ませるような凹も、こけおどしのような尖ったところもない。ただ、時々登場するやけに具体的な固有名詞(「サボテンとバントライン」とか、「パイロット HI-TEC-C」とか)が身に沁みて、〝ああ・・・”と身悶えしてしまったのだ。

 失業中かつ妻が他の男と恋愛中である息子と、3度目の結婚生活が危うい父が、夏の終わりを群馬の山荘でジャージ姿で過ごす『ジャージの二人』。『ジャージの二人』の翌年、またも山荘にやってきた父子+もう一人『ジャージの三人』。なんかこう・・・やっぱりフラットな感じ。状況はかなりドラマチックだと思うんだが、そんな書きぶりはちっともない。ともすると「ユルい」見かけにおおいつくされそうになる。

 ただやっぱり、時々登場するやけに具体的な名詞やあまりに身近すぎるモノ(「プリングルス」とか、「輸入物のビスケットに貼り付けてある日本語のシール」とか)によって、世界が急に生々しく迫ってくるのだ。あまりにも具体的すぎて、普段は存在していても見えない、意識にものぼらないモノの名前を改めてつきつけられて脳が活性化するんだろうな、きっと。

 大きな凸も凹もない。ただ、たくさんの色んなことがフラットに、並列に、ぼこぼこと生まれ、存在する。この感じ・・・あれだ、以前読んだエッセイのタイトル・・・『いろんな気持ちが本当の気持ち』




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