2014-05-31

武士道 : 新渡戸稲造 訳:奈良本辰也

『武士道』 新渡戸稲造 訳:奈良本辰也

 森博嗣『ヴォイド・シェイパ』の各章扉に引用されていた新渡戸稲造『武士道』の言葉に衝撃を受けたのだ。以来、いつか『武士道』を読もうと思っていた。

 「正しい行い」を為すための規範を外部の権威や宗教的な超越者に求めるのではなく、自分自身の内に確立せしめんとする「武士道」。西洋の思想とも照らし合わせつつ、その源にある思想、侍が自らに課す身体的、精神的鍛練、「武士道」が尊ぶ「義」「勇」「仁」「礼」「誠」について語り、長い時の流れの中で、形骸化し、堕落してしまった部分もある「武士道」の中からその本質を掘り起こす。

 ベルギーの法学者ラブレー氏の「宗教教育なしに、あなたがたはどうやって子孫に道徳教育を授けるのか」という問いに答えるため、新渡戸稲造氏は自分の中に残る「武士道」の痕跡を、一度徹底的に客観視し「言葉」で再構築されたのだろう。人への贈り物を「つまらないもの」と言ったり、道で顔見知りに会った時、帽子をとったり、日傘をおろしたりするような礼儀~現在のわたしたちの中では、ほとんど生理的な反応のようなものになっていて、その意味を深く考えもしない「武士道」の名残について、氏はそこに込められた精神をきちんと言葉で取り出してくれる。

 外国人には理解されにくい「切腹」や「仇討ち」について、それがいかに「正義」「秩序」の観念と結びついたものであるか、そしてその血なまぐさい制度に不可欠な「刀」がなぜ「武士の魂」であるのかを語るくだりは、新鮮な驚きであると同時に、すっと腑に落ちるものであった。

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2014-05-24

竜が最後に帰る場所 : 恒川光太郎

『竜が最後に帰る場所』 恒川光太郎

 『夜市』に収録されていた「風の古道」を読んで以来、恒川光太郎氏の描く異界の厳格さにざっくり傷つけられながらも惹きつけられずにいられない。この世の意味や価値とは無関係な、ただ純粋にこの世とは異なる理で運行される世界の物語に戸惑い、読後に残る何とも言えぬ不思議な感触をもてあます。

 この世の外にではなく、人の心の内に在る異界を見るような「風を放つ」「迷走のオルネラ」。冬の夜、闇の中から忍び寄ってくる微かな気配とざわめきが妙に生々しく、懐かしさに似た気持ちを呼び起こす「夜行の冬」。人間とはスケール感の異なる生命の存在を思わせる「竜が最後に帰る場所」

 それぞれに魅力的なファンタジーであったり、不思議な手触りの幻想譚であったが、この4編についてはまだ私の想像力・・・というか、「物語を読む」という想定の範囲内で対応できた。しかし、世の中に稀に発生する奇異な存在=「偽装集合体」と、それを「解放」する力を持つ青年の物語~「鸚鵡幻想曲」は、とても鮮やかな視覚的イメージと、どこかおとぎ話めいたのどかさと、日常を破壊する恐ろしい理不尽さで、現実的な拠りどころをとても曖昧なものにしてしまう。ふとあたりを見まわすと、これまであてにしていた現実的なルールが全て無効になっている・・・そんな戸惑いと驚異のただ中に放り出されてしまった。




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2014-05-17

黄金旅風 : 飯嶋和一

『黄金旅風』 飯嶋和一

わたくしごとき西海の海商人にとりましては、天と地と人との三界の他に、
海という水平の広がりを持つ異界がございます。


 作中、いちばん胸を突かれた台詞であると同時に、私のこの作品を読む資質の無さを感じさせられた言葉でもある。私はどうも「海」という厳しさと自由をはらんだ広がりに掻き立てられるものの少ない質の人間のようだ。『ワンピース』は好きだが、「海」に惹かれてるわけではないしな。そんな私が読んでも胸がアツくなったのだから、「海賊モノ」なんかが好きな人にはもっとたまらない、わくわくすると同時に少し切ない話なのではないだろうか。

 寛永年間、海洋貿易都市として栄える長崎に、不穏な空気が立ち込め始めていた。陰湿な切支丹狩り、貿易相手であるポルトガルやオランダなど外国勢力との軋轢、長崎奉行に着任した竹中采女正の横暴。その長崎の町で異彩を放つ二人の男~長崎の港湾を取仕切る大貿易家であり長崎代官をつとめる末次家の「不肖の息子」平左衛門と、かつて手の付けられない悪童で「南蛮人斬り」の異名で呼ばれた内町火消組惣領・平尾才介。

 自由な気風に溢れていた町が暗雲に呑み込まれようとするとき、ついに「不肖の息子」平左衛門がその本性を顕す。

 広く世界を見る目と、自由と公平の精神、独立の気概をもって遥かにひらける海に臨む、平左衛門や才介はじめ、末次船船大将の彌兵衛ら長崎に生きる人々。大御所秀忠から将軍家光の時代へと、徳川家の支配体制が強まっていく中で、これから始まる息苦しい世の中を生きていく人々の心の中で輝き、吹き続けるであろう黄金の風のような勁くて清々しい男たちの生き様。




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2014-05-10

荒木飛呂彦論―マンガ・アート入門 : 加藤幹郎

『荒木飛呂彦論 マンガ・アート入門』 加藤幹郎

 『ジョジョ』の読者ならば多分みんな直観的に解っていることを、あえてことさらに解りにくい言い回しで語った本。

 多くの『ジョジョ』ファンがいちいち言語化していないことを、評論という形で言葉にしたということには意味があるかもしれない。だが、内容云々以前に、言わずもがなな修飾、形容詞の数々や、カッコ書きでの補足の多用、意図不明なひらがな表記の使用など、表記や文体の問題で非常に読みづらい。

 この読みにくい評論に書かれていることの中から私が読解できたのは、

 ・荒木飛呂彦の長編漫画『ジョジョの奇妙な冒険』は、
  パート毎に様々な変奏を奏でながら、ドラマ的にも、
  視覚的表現の上でも、例えば「波紋」などの共通
  する主題に貫かれている。
 ・『ジョジョ』に描かれるドラマは単純な二項対立を
  超えた、複雑で重層的なものである。
 ・ドラマの内容とも連関したコマ割り、人体の表現が、
  漫画史において革新的である。
  そして、その漫画表現は絵画、映画など他の芸術の
  潮流を踏まえたものである。
 ・だから、荒木飛呂彦は素晴らしい。

 という、荒木飛呂彦ファンなら皆解ってるであろうことだけだった。それにしたって、作品の解釈、論の展開は恣意的で、ただこれだけのことを語るための根拠や例証の提示さえ十分であるとは思えない。

 もしも、この評論を入試の読解問題に採用する学校があったら、私はその学校落ちるな・・・。

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2014-05-03

ふがいない僕は空を見た : 窪美澄

『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄

 もどかしい思いと様々な鬱屈を抱えてある町に暮らす男女の姿を、それぞれの視点から描いた短編連作。

 「ふがいない僕」たちにとって、世の中にはどうにもならないことや、怖いことがありすぎて、何だかちょっとホラーを読んでる気分になりかけてた上に、現実にも、第2編の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」を読んでいるあたりで、自分の不甲斐なさを痛感させられる出来事があり、しばらくそのダメージから回復できずにいた。

 ・・・・・・世のちゃんとした大人というものは、周囲への気配りと自己主張を良いバランスで両立させて、きちんと自分の立ち位置というものを築いているのですね。そうした「ちゃんとした大人」であるために、彼らは一歩社会に出たら何事にも気を抜かずに相対しているのだなぁ。それがかなりの努力を要するものであることは、堂々と、楽しそうにしている彼らの姿からも垣間見えたのだけど、大人である彼らの姿はカッコ良かった。それにひきかえ、周りに気をつかわせてばかりいる私の不甲斐なさよ・・・。

 ・・・話が横にそれた。そんなこともあって、再認識してしまった私自身の不甲斐なさ、立ち位置の不安定さを、うっかり登場人物たちの不安定さに重ねてしまうのが嫌で、先を読み進めることができなくなってしまった。特に、「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」の主人公は、ひととおりの理屈は捏ねてみるものの、なるたけものを考えずに済む楽な選択を繰り返した結果、とても危うい安穏の中にいる主婦で、家でだらだらとマンガを読んでいるその姿には私自身を投影する要素がたっぷりあったので。

 しばらく鬱々としていたが、何とか気をとりなおして、この小説も最後まで読んだ。世の中には「ふがいない僕」らの手にあまることがたくさんあるけれども、それでも、より良く生きていこうとは思うのだ。




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