2014-02-22

聖なる怠け者の冒険 : 森見登美彦

『聖なる怠け者の冒険』 森見登美彦

 何だ? 何なんだ? この曖昧な噛み応え。

 何事もない静かな週末を愛する小和田君。充実した休日を過ごすことに血道をあげるその先輩カップル。世界一ぐうたらな探偵と、仕事熱心な助手であるアルバイトの週末探偵。アルパカそっくりの男。狸のお面に黒マントを纏った正義の怪人・ぽんぽこ仮面。彼らが巻き込まれた、ある土曜日の冒険。

 祇園祭の宵山。狸。テングブラン。入りくんだ路地。暗躍する謎の組織。迷宮化する京都の街。

 森見氏お得意の摩訶不思議な京都をしっかり味わおうと“ぎゅうっ”と噛みしめてみるんだけど、何やら曖昧な歯ごたえしか返ってこない。ん? 京都を舞台にした森見作品の魅力は、物語の背景である街自体が生き物のように生命力を持って息づいているところにあると思うのだけど、何だか今作は、その京都の街が息も絶え絶えであるように感じるのは気のせいか? 『宵山万華鏡』『有頂天家族』『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』などでこれまでに描かれた京都の街の蜃気楼を見ているような気にもなってくる。蜃気楼の中で、登場人物たちも何だかぼんやりして見える。

 結局、しっかりと噛みしめることができたのは、物語が終わるときの晴れ晴れとした物悲しさと、「孔雀の羽根が飾られた洋間(!)」だった。

 孔雀の羽根! あった! 私の記憶の中にも「昭和の風景」のひとつとして残っている! おばあちゃんの家の洋服ダンスの置いてある部屋に、こけしやフランス人形や達磨と一緒に、孔雀の羽根が数本花瓶に挿して飾られていたよ! うわ、何だこれ。記憶がものすごい生々しさで逆流してくる。あの薄暗い部屋の感じも、こもった空気の匂いも! うわぁぁぁぁぁ~!




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genre : 本・雑誌

2014-02-15

鳴いて血を吐く : 遠野潤子

『鳴いて血を吐く』 遠野潤子

 プライド、男気、母性、責任感、思いやり、自己犠牲、情愛・・・そういうものが、とても嫌なかたちで結びついた結果の凄絶な呪縛の物語。そして、それぞれの想いの交叉点に隠されていた嘘が次第に顕わになってゆくサスペンス。

 天上の声を持つ歌手・実菓子と、彼女を「外道」と呼ぶギタリスト・多聞~二人は古くからの因習が生きる村で共に育った。藤の花が一面に咲き乱れる山を背負った村の旧家・藤屋の次男である多聞、かつては藤屋と張り合う名家でありながら今は没落した斧屋の娘・実菓子。

 暴君のような藤屋当主である父、父の横暴に耐えひたすら家に尽くす母、身勝手な好奇心で注がれる村の人々の視線。その中で身を寄せ合うように育ってきた多聞と心優しい兄・不動、そして藤屋にひきとられた実菓子だが、歪な家族のつながりはどうしようもなくそれぞれを蝕んでゆく。
 
 藤屋の裏山に咲く紫の滝のような藤の花や、かつての栄華は見る影もなく生い茂る草に埋もれた廃屋となった斧屋といった道具立て、息づかいごと実菓子そのものを写し取ったかのような不動の描く絵、そして「鳴いて血を吐く迦陵頻伽」とまで言われる実菓子の声の印象の強烈さに比べ、藤屋と斧屋の確執のもとになった現実的な事件について語る言葉には圧がないというか、真実味と迫力に欠け(作者はそういうとこにはあまり興味がなかったのではないかとも思わせる)、とても息苦しい家族の物語が、どこか暗いファンタジーのように感じれらる。

 藤屋と斧屋、そしてその周囲の人々をスポイルし尽したものが、必ずしも悪意ではなかった・・・そのことにわずかに救われるラストだった。




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theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2014-02-08

魔少年ビーティー : 荒木飛呂彦

『魔少年ビーティー』 荒木飛呂彦

 「『バオー来訪者』連載時から、荒木飛呂彦は面白いって知ってた!」っていうのは、私の小さな自慢であるが、ある友人はジャンプ誌上で『魔少年ビーティー』の連載が始まった時から、その作者の奇抜なセンスと際立った個性を賞賛していたのだった。仲間内で、『くらわしてやらねばならん! しかるべき報いを!』とか言って、くすくす盛り上がったりもしたっけ。

 悪ガキのポケットにスズメバチをしのばせて『バーン』、アリの巣の側にアメ玉を置いて『バーーン』、わきの下からピンポン玉を取り出して『ドジャーン』・・・etc. とにかく効果音の凄いことに唖然としたり、ビーティーに目をつけた悪ガキの『ちくしょう! あいついつも耳をなでてるんだぜ! なまいきなヤツなんだぜ!』っていうセリフに虚を突かれたり。(主人公のキャラ付けに「いつも耳をなでてる」って。『バオー』の育郎くんの「バンジョーが弾ける」にしてもそうだけど、『山田のおじさんごっこ』的には「人物のリアリティとしてはギリギリ」だと思う。)

 連載当時はビーティーの「すごい眉毛」にばかり気を取られていたけど、今見るとかなりの美少年である。「精神的貴族」を自負するビーティー少年。プライドの高さといい、危機に陥ったって折れない探究心と好奇心といい、自分の探究心を満たすためには「社会的にはそれ犯罪でしょ」ってことにも罪悪感ゼロなとこといい、それでいて友人のことを大事に思っているとこといい、岸辺露伴に通じるとこがあるかも。


 ※山田のおじさんごっこ・・・中島らもの『こどもの一生』に登場するゲーム。架空の人物に思いつきでキャラ付けをし、あたかもその人物が実在するかのようにふるまうというごっこ遊び。




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theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2014-02-01

バオー来訪者 : 荒木飛呂彦

『バオー来訪者』 荒木飛呂彦

 連載時にリアルタイムで読んでいたんだけど、第1話に登場する秘密組織「ドレス」の女のハイヒールが今でもくっきりと印象に残っている。少年マンガで、あんなにきれいで何となくフェティシスティックな「女の靴」を見るのは初めてだったから。思えば、あの「ハイヒール」を見た時から、無意識のうちに「この作家は他の人とは何か違う」と感じていたのかもしれない。

 秘密組織「ドレス」の被験体として、驚異的な戦闘能力を持つ怪物となってしまった育郎少年。移送中の列車から脱走した育郎は、同じく被験体の少女スミレと共に組織からの逃亡を図るが、危険な怪物を野に放ってしまった組織は執拗に二人を狙う。

 連載中はとにかく大仰なナレーションに圧倒されながら読んだ。あまりにクセの強い絵柄に、最初は少し戸惑いもしたんだけど、徐々にそれも他にない魅力になって・・・。そして何より、怪物に変身してしまう哀しきヒーロー・育郎くんの健気さがたまらんかった。

 コミックスになった時には「これすごい面白い!」と友人に勧めてまわったんだが、連載は短命に終わってしまった。(が、長く続いてグダグダになっていく多くのジャンプ作品よりも幸福な作品だと思う。)

 連載期間は短かったけど、内包している物語はとても大きい・・・と、読み返して改めて思う。




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