2013-07-27

世に棲む日日 : 司馬遼太郎

『世に棲む日日』 司馬遼太郎

 特に歴史小説好きでも、幕末好きというわけでもないのだけど、時々、幕末ものが読みたくなるのは、一つには10代の頃に読んだ『龍飛騰』『伊呂破丸』など、義澄了のマンガの影響があるのだろうなぁ。彼女の描く歴史の中の若者たちが、あまりに騒々しく、生き生きと駆け回っていたものだから・・・


 「長州の人間のことを書きたいと思う。」で始まるこの小説・・・松陰吉田寅次郎の尋常でない無邪気さ、明るさが印象的だ。幕末の長州に生まれた奇男子・吉田松陰の生涯と、彼の思想を受け継いだ若者たちが為したことは、これまで何となく目や耳にして知っていたことと大きく変わりはないのだけど、作者の慧眼によってあぶり出され、刻まれる一言によって、ひとつの物事に込められた質量、重力がズシリとその大きさ、密度、重みを増すように感じられる。

 思想とは本来、人間が考え出した最大の虚構―――大うそであろう。


 その「虚構」というべき自らの思想を論理化し、現実に実在するものとして昇華させるためだけに、彼の知力、行動力、生活のすべてが純粋に純粋に研ぎ澄まされ、その「虚構」の内に注ぎこまれていたのだとしたら・・・松陰の思念の強さはもちろん、その幼いまでの無邪気ささえそら恐ろしく思えてしまう。

 また、高杉晋作が口にしたという「赤根ごとき大島の土百姓に何がわかる!」という言ってはいけない一言の痛々しさが、こんなにヒリヒリと感じられるのも、高杉晋作という奇妙で複雑な男を知ろうとする作者の視線 ~ 誰にも増して長州藩と毛利家というものを愛し、強い忠誠心を持っていながら、同時に、長州藩を革命の劫火の中でつぶしてしまうこともやむなしという理論に立ち至っていた晋作の姿を見ていた作者の目のおかげ。その痛みは、晋作の『思想的激痛』であると作者は言う。


 この小説、中村橋之助の吉田松陰、野村萬斎の高杉晋作でドラマ化(『蒼天の夢~松陰と晋作・新世紀への挑戦』)されているのだそうだ(残念ながら観たことはない)。この小説に描かれる松陰の奇妙な無邪気さ、明るさに(無邪気さが過ぎて悲愴なところも)橋之助さんはぴったりかもしれない。






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2013-07-20

どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか : みうらじゅん リリー・フランキー

『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』 みうらじゅん リリー・フランキー

 男の人の男好きには何か根深いものがあるんだろうか?

 「人間関係」についてのお二人の会話を見ていると、男友達との関係への憧れ、信頼、執着・・・何かそういうものが強くて・・・。男の友達を間にはさんだ時の、相手の恋人なり、妻なりへの嫌悪というか、敵意のむき出しっぷりに、ちょっとひく。

 お二人にとって女って「自分とは違うもの」っていう一群で、その中の一人ひとりに対しては基本的に「具合の良い相手」と「それ以外」っていう差別化しかなされていないみたいだなぁ。現実には社会的マナーとしてもう少しデリケートな対応をされているのだとは思うけど。

 先日読んだ橋本治の『あなたの苦手な彼女について』に、『男にとっての「男女平等」とは「どうでもいい女」をどう位置づけるかということ』である、というような言葉があって、それを読んだときには正直いって「そういうもん?」と全然ピンときていなかったのだけど、みうらさん、リリーさんのおしゃべりを見ていると、にわかに橋本氏の言ってることが体温をもったリアルなものになった気がしたよ。


 リリーさんはともかく、みうらさんにはエッセーなどを読んで「こういう風にありたいなぁ」と憧れるところもあっただけに、女としては少し寂しく感じるものもあるんだけど・・・「女性のブラのカップみたいに男性のパンツに“数値による特徴の記号化”が起こったら、男の生き方がまったくかわっちゃう」とか、『ボーダーを着はじめると天才に近づく』なんて言葉は、居酒屋でのバカばなしのようでいて、潜在意識に刻まれていつか人生の糧になってくれそうな気がする、マジで。




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2013-07-13

あなたの苦手な彼女について : 橋本治

『あなたの苦手な彼女について』 橋本治

 「あなたの苦手な彼女」と言うからには、「あなた」の数だけ色んな「苦手な彼女」が出てくるのかと思ったが、橋本氏の話はやはりある種の「彼女」に照準を絞った上のことで・・・

 とはいえ、「あなたの苦手は彼女」は「あなたの苦手な女というもの」ではなく、「あなた」は男かもしれないし、女であるかもしれず、「彼女」が存在するのは「あなた」の外かもしれないし、内なのかもしれない。さらには「彼女」は「女性」とも限らないかもしれない。

 「彼女」の在りよう、また「あなた」と「彼女」の関係はなぜこんなにこじれてしまったのか。その歴史的、社会的、心理的背景。自分がどこかに所属するという実感がない、または自分が所属する社会における責任を棚上げしたままに、あるいは被害者の立場をとり続けながらものを言う人の厄介さ・・・そういうものがどこに起因しているかというお話し。


 橋本氏の本としては読みやすい方なのではないかと思うが、相変わらず橋本氏の語るところの全体像は、なかなか私の視界にはおさまりきらない。広げられた問題の展開図が大きすぎるのだ。私の容量不足の脳ミソではその展開図を一度に俯瞰することはできず、部分的にちまちまと見ているうちに、自分がどこにいるのかわからなくなる。また「再読しなきゃいけない橋本治の本」が増えてしまった。

 全体像をスパッと見渡すことはできないものの、物事の本質とそれに絡みついて渾然一体となってしまっている本質以外のものを分離し、また、言葉はあるけど実態は存在しなくなっている(または実態が変質してしまっている)ものを腑分けしていく橋本氏の手並みは見事だと思う。まあ、そういうことをするから必然的に展開図が巨大になるのだけど・・・。

 ところで、「あなたの苦手な彼女」の問題の困難さについて、男が「男女平等」を考えなくてはいけない「女」が、男にとって「どうでもいい女」だからというところから話がスタートしているように思うのだけど、では、男にとってどうでもよくない女=「自分の恋愛の対象として存在する女」は今どういうことになっているんだろう?

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2013-07-06

女は何を欲望するか? : 内田樹

『女は何を欲望するか?』 内田樹

 内田樹氏が語る、フェミニストたちが行ってきた様々な思想的な試みと、彼らが犯した失敗について。

 第1部は「フェミニズム言語論」。女はどのような言葉でテクストを読み、どのような言葉で自らを語り得るか。第2部「フェミニズム映画論」では映画『エイリアン』シリーズを論じ、画面に映し出される、フェミニズム的な欲望を実現した女性の姿と、その反動のように現れる皮肉な状況を示す。


 以下、かなり私事です。


 私が「本を読んで、その感想をブログに書く」なんてことをしている理由の一つは、中学生の頃から今に至るまで解決できていない、「自分で自分がわからない」という問題を、「人の書いたものに、自分の『読む』ということをぶつけてみる。ぶつかって返ってくるものを観察する。観察したものをなるべく正確に言葉にしてみる。」という方法でどうにかできないだろうかと思うからであり、今でも数年おきに私を悩ます問題は、以前のエントリーでも書いているのだけど・・・

 「ず~っと女子校にこもってたおかげで、男性に『見られる』ということを意識することもなく、また男性の力をたいしてあてにすることもなく大人になり、就職する頃には、社会的にも女性が生きにくいっていう状況ではなく、一通りの社会生活は自分の力でどうにかできると思っていた。でも、欲望や願望は『~されたい』『~して欲しい』『“獲得したい”と思われる対象でありたい』という形で発動してしまうことが多くて面倒臭い。」

 というようなことだったりする。

 本書を読んで、そういうことがすでに多くの人たちによって問題にされ、論じられ、試行されつくしてきたことなんだなぁ~と気づく。『あるテクストから「何を読みだすか」によって自分が何ものであるかを知る』というような先人の言葉や、『知的には男で、性的には女』という問題を、知ってか知らずか、きっちり私もなぞっているのだなぁ・・・と。

 フェミニズムの歴史、思想には全く詳しくないのだが、本書で語られる、「フェミニストたちが問題にしたこと」「彼らがとろうとした方法」のいくつかは、私自身にもヒットすることであったので、ずいぶん「私の事情」に引き寄せた読み方をしてしまったかもしれない。

 「あとがき」までを読み終えて、このタイトルは「女(人)が本当に求めているものは何なのか、改めて冷静に、真摯に考えましょう。」という呼びかけであるように思えた。

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