2013-06-29

岸辺露伴 ルーヴルへ行く : 荒木飛呂彦

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 荒木飛呂彦

 「荒木飛呂彦氏の作品はすべて“素晴らしいっ!”と驚き賛美してしまいたい」という気持ちがあるのだけど・・・ この作品は「文句なしの傑作ぅぅぅぅぅ!」とは言いにくいような・・・

 荒木作品の魅力の一つは「驚異」だと思うのだけど、画面から“邪悪なもの”が這い出してくるシーンは、“何か、見たことあるな・・・”と思ってしまったし・・・


 10年前・・・17歳の岸辺露伴が謎の女に出会うところから、ルーヴル美術館地下倉庫の探索まで、不穏なものが満ちていて、その不穏さが次々とページを捲らせるのだが、ではその不穏さの源が何かと言うと・・・もちろん、「この世で最も黒い絵」という着想がその一つではあるんだけど、多くは「ルーヴル美術館の地下」というロマンに因るんじゃないだろうか? ラストの一言でこの作品自身がそのことを認めているようにも見えるし・・・。

 「大ルーヴル」への敬意に貫かれた作品。ルーヴルへの畏れの前に、岸辺露伴もおとなし目?


 とは言え、荒木飛呂彦のオールカラー作品というと、それだけで目にしてみたい、手元に所有しておきたいと思わせるパワーがある・・・のよねぇ。




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2013-06-22

完璧な涙 : 神林長平

『完璧な涙』 神林長平

 喜び、悲しみ、怒り・・・一切の感情を知らない少年・本海宥現(もとみひろみ)。長い彷徨の果てに流れる一筋の「完璧な涙」。


 かつての文明がすべて砂の海に没した後・・・地球を覆った広大な砂漠に点在する街は、「銀妖子」と呼ばれる正体不明の存在(街の住人達はそれを街を守る妖精と認識している)によって維持・管理されていた。「銀妖子」に守られた街で生きていることへの違和感を感じつづけ、また「感情」を理解しないが故に家族の中で孤立していた宥現は、街を出てひとり砂漠へと旅立つ。
 
 砂漠に埋まった遺跡から掘り出された黒く巨大な戦車の形をしたマシン。自分の脅威となるものを徹底的に攻撃し、破壊するようプログラムされたそのマシンは、宥現を脅威となる目標と定め、襲い掛かる。突然現れた圧倒的な破壊の力にさらされながら、宥現は砂漠で出会った女・魔姫と共に終わりの見えない逃走・闘争へとまきこまれる。


 「現実」とは無数の「過去」と無数の「未来」の接点に現れる無数の「現在」のひとつでしかない。「過去」と「未来」が浸食しあい「時間」と「現実」がゆれ動く世界で、どこまでも自分を追ってくる黒い戦車の気配を感じながら、次々と現れる奇妙な街(そのありさまは少年の不安定な内面世界のようでもある)~いくつもの「ここではない何処か」を彷徨う宥現。 

 以前読んだ『猶予(いざよい)の月』にも感じたのだが、これはSF的世界に場をかりた「自分探し」もしくは「通過儀礼」の物語か。

 全てが幻のように感じられる世界の中で、自分の命を狙い追ってくる黒い戦車だけが、唯一自分に感じられる現実だと思う宥現と、自らの探索能力の限りを尽くして、時間も空間も混沌とした世界の中から宥現の存在を探し当て、その標的が何者であるのかを知ろうとするマシン。何よりも恐ろしいものでありながら、何よりも強く求めあう・・・生き残るために互いを滅しようとしながら、分裂した半身のように強烈に引き合う二者。

 「自分に脅威をもたらすものに報復し破壊する」マシン・・・その不気味なまでに完璧な能力。圧倒的な恐怖そのものであるような黒い戦車が、その完璧さゆえに、敵が何者であるのか、そしてその敵に狙われる自分は何者であるのかという疑問に行き着く様は何か切ない。

 宥現の眼前に迫る黒い戦車。宥現は自分を脅かしつづけたものの名を呼ぶ。そこには「愛」が介在する。

 『猶予(いざよい)の月』にもたしか『時間も空間も消滅した世界に残るものが愛かもしれない』という登場人物の台詞があったが、作者は「愛」というものにとても大きな信頼と希望を寄せているのだなぁ・・・と思う。
 
 なぜ宥現があれほどに魔姫に惹かれ必要とするのか、ストーリーを追う中ではどうしてもピンとこなかったのだが(そもそも魔姫に関しては100年以上生きている女であるという以外、細かな人物描写がない。彼女はとても曖昧な女である。)、つまりは彼女が「愛」そのものであったからという・・・そういうことなのか。・・・で「愛」って一体何だろう?


 『猶予(いざよい)の月』感想…http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-563.html




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2013-06-15

歳月なんてものは : 久世光彦

『歳月なんてものは』 久世光彦

 マレーネ・ディートリッヒ演じる女間諜の映画を見て、その安手の哀しいストーリーに声を忍んで泣き、そうして自分が泣いていることが嬉しかったという久世少年は、なんと大人びた、夢見がちでセンチメンタルな子供なんだろう。久世少年がディートリッヒの映画を見たという阿佐ヶ谷の木造平屋建の小さな映画館のことは、兄や姉、他の誰に訊いても知らないと言うのだそうだ。


 1章に「鮮やかな人たち」と題して、久世氏が関わった俳優たちの話、2章は本や映画や少年時代に見た光景の記憶「本と少年幻想」。

 久世氏のエッセイを読んでいると、はっとするような美しい言葉や、温度と湿度を持ってからみついてくる感傷的な言葉に出会う。

 『火灯しごろ』の銀座だとか、映画のラストシーンに『嫋々と』流れるウィンナ・ワルツの調べだとか、普段の生活では耳にも目にも口にもしないこれらの言葉に、瞬間、心が飛ぶ。私の知らないはずの風景や記憶を語るその言葉に、きゅうっと胸が痛く、切なくなる。

 そしてまた久世氏の言葉は、雑事にまぎれてちゃんとすくい取ることもしないままに忘れかけていた気持ちにすぅっと触れていくのだ。

どんなに哀しいだろうと思って、人は泣かない。どんなに嬉しかっただろうと、その気持ちを察して泣くのである。





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2013-06-08

ブラッド・スクーパ ― The Blood Scooper : 森博嗣

『ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper』 森博嗣

 「この感覚は何かに似ている」と思いながら読み、読み終えてしばらくしてから、「ああ、夢を見ているときの感じに似ているのだ。」と気が付いた。

 地上のどこにあるのかわからない、どこにつながっているのかわからない村。全体は曖昧であるのに、ある部分は妙に鮮明で生々しい。繰り広げられている情景をどこか俯瞰で眺めながらも、そこで交わされる感覚は自分のものとしてダイレクトに流入してくる。・・・そういう、夢の中のような感覚。


 立ち寄った村で、不老長寿が得られるという宝「竹の石」を守る家と、その宝を狙う盗賊との争いに関わることになったゼン。村で行き会った人たちと言葉を交わし、刀を交え、そのすべてについて思考する。

 無垢なゼンの思考は、知識や経験に阻害されないきれいな軌跡を描く。生死に直結する、その侍としての身体の動きは思考の結果としてある。

 ゼンが思考することによって、そして疑問を口にすることによって解かれていく世界の清新な姿には驚かされる。色々なものが、一瞬、クリアになったような気がする。


 でも・・・夢から覚めた後のように、小さな気がかりのようなものを残して、全ての感覚はまたぼんやりとした思考しない日常に紛れていく。常に目の前のものをクリアに見て、純粋に思考しつづけることは難しいのだ。ああ~




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2013-06-01

夢魂独り飛ぶ―小説高杉晋作 : 古川薫

『夢魂独り飛ぶ―小説高杉晋作』 古川薫

 維新の成った後、松下村塾時代の師・富永有隣、同志・堀真五郎、白石正一郎、伊藤博文、愛妾であった梅処尼が晋作の思い出話を語る短編連作。

 小説を読む前に高杉晋作の生涯をおさらいしておこうと思って、先に同じ著者による評伝『高杉晋作―青年志士の生涯と実像』を読んだのだけど、これはちょっと裏目に出たかも。何か、書いてあることほぼ同じなんだもん。

 『高杉晋作―青年志士の生涯と実像』の方では、晋作の遺した足跡や言葉から、激情のままに走るかにみえて多くの局面ではあえて動かなかったその胸の内や、思いも行動も完全には誰とも共にすることがなかった晋作の孤独を読み取るなど、小説的な要素が感じられた一方で、こちらの小説は、先の評伝で書かれていた内容を、晋作と同時代の人たちを語り手にしてなぞっているだけで、物語的な肉付けとかふくらみがあまり感じられない。評伝の方では、あまり感情的にのめりこみすぎないよう、意識的に同郷の晋作との距離をとりつつ執筆したと、あとがきに記されていたが、この小説についても、何だか人物への没入が感じられず、各思い出を語る人物、語られる晋作の人間味というか、キャラクターも何か薄い。同じものを2回読んじゃったみたいで、ちょっと損をした気分。

 同じく、亡き高杉の姿を関係者たちが偲び、語るという形の短編連作に、竹田真砂子の『三千世界の烏を殺し―高杉晋作と妻政子』というのがあるが、あれは・・・なんかもう、たまらなく切なかったなぁ。


『三千世界の烏を殺し―高杉晋作と妻政子』感想
 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-439.html

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