2013-05-25

高杉晋作―青年志士の生涯と実像 : 古川薫

『高杉晋作―青年志士の生涯と実像』 古川薫

 最初は別に何とも思っていなかったはずなのだが・・・気が付くと、時々夢に出てくる程度に好きになっていた高杉晋作。

 江戸、京都、上海、長崎と駆け回り、爆ぜるような高杉晋作の生涯とその行動については、他の評伝でもすでに読んだことのあるとおり。ただ、本書では、関門海峡での外国船への砲撃や、池田屋事件、蛤御門の変など長州藩が関わった大きな事件のいくつかに彼が“不在”であったことが強調されている。

 高杉晋作といえば「暴発」というイメージがあるけれど、著者は、晋作がある場面ではあえて動かず「拙劣な死」を避け生き延びた男であることを繰り返し語る。自分が動くべき場面を冷静に見極める目が、為すべきことを為すときまで彼を生き延びさせ、動くべき時には素早く決断を下す胆力が、藩論を一転させた功山寺挙兵や四境戦争での奮戦といった偉業を彼に為させたのだと。

 偶々(?)獄中にいた等の事の成り行きもあるが、『拙者は御割拠も真の御割拠が得意也。進発も真の進発が得意也。ウハ(表面的な)の割拠不得意なり。』という言葉からは、ただ「暴発」していたのではない晋作の姿もうかがえ、彼が目指したことが何だったのか、もっと詳しく知りたくなる。
 

 ところで、晋作の妻マサについて、恋人であるおうのに注がれた愛情にくらべ、晋作のマサへの接し方はどこか堅苦しくぎこちないものだと著者は見ているようなのだが、・・・晋作はマサのことも妻として大切に大切に思っていたのだと思いたい。革命的な考えを持ち、過激に行動しながら、武士であることにこだわりつづけた晋作にとって、家を預けたマサは大切な女性だったと思うのだ。マサにあてた少し説教めいた手紙には、年若い妻への晋作の精一杯の気遣いと愛情が感じられる・・・と思うのだが。

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tag : 高杉晋作

2013-05-18

本屋さんで待ち合わせ : 三浦しをん

『本屋さんで待ち合わせ』 三浦しをん

 とにかく本や漫画を読んでばかりいるという三浦しをんさんの書評+本にまつわるエッセイ集。先に出たエッセイ集『お友だちからお願いします』と並んでちょっと「よそ行き仕様」か?

 しをんさんは『ちゃんとした評論ではなく「好きだー!」「おもしろいっ」という咆哮になっちゃってる』とおっしゃっているけれども、『シュミじゃないんだ』に充溢していたような、(良い意味で)見苦しいまでの情熱の迸りは少々抑え気味に(何せあれは、「逆に読者が引いてしまうのでは?」という危惧すら抱いてしまうほどだった)、しをんさんが感じたそれぞれの本、作品の美点、それらが私たちに伝えてくれることなどが、少しかしこまった調子で語られている(「ウン○を食べる話」の話に4ページが費やされていたりもするが)。

 でもやっぱり、かしこまった中にも抑えきれない情熱と興奮が「ボコッ、ボコッ」と噴き出して見えるところはあり・・・丸山健二の小説やエッセイ、浅生ハルミン『猫座の女の生活と意見』、吉田篤弘『圏外へ』が私の「読みたい本リスト」に加わった。それに太宰治『津軽』を読んで身もだえ、のたうちまわってみたい気もする。あと、橋本治の『双調平家物語』もやっぱり読まなきゃなぁ・・・。


 本書には『東海道四谷怪談』についての一章がある。『あやつられ文楽鑑賞』での、しをんさんの古典芸能に対するツッコミや洞察は鋭く深く、目からウロコの思いがしたのだけど、しをんさんはここでも驚きの考察を披露してくれる。お岩の顔を醜く恐ろしく変えてしまう伊藤家秘伝の「命を奪うことなく、面体だけ崩れさせる薬」について。「腹痛の薬」や「証拠の残らぬ暗殺用の薬」と違い、こんなに用途の特殊な、たいして需要もなさそうな薬を伊藤家の人々はなぜ代々伝わる秘方の薬として持っていたのか? しをんさんの推理が冴える!  もしも、お梅と伊右衛門がめでたく結婚したとして・・・伊右衛門もいずれ「面体崩るる秘薬」を盛られる運命か・・・ こんな風に骨の髄まで楽しんでもらえたら鶴屋南北も嬉しいだろう。





【過去記事】
『シュミじゃないんだ』・・・http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-188.html

『あやつられ文楽鑑賞』http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-213.html

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2013-05-11

お友だちからお願いします : 三浦しをん

『お友だちからお願いします』 三浦しをん

「はじめに」にある通り、ちょっとよそ行き仕様なエッセイ集。

 福山雅治の『東京にもあったんだ』について考察した「イメージと実態」において、しをんさんは、私が福山氏に感じているわだかまり(?)を見事に言葉にしてくれた。福山雅治さんって、いくつもの分野でアーティストとしての表現とポピュラリティの獲得を両立している、とても才能溢れる方だってことはもちろん納得している。それでも時に、“・・・なんで、そんなにまでスマートなんだ・・・?”と、何やらすんなり呑み込めず、ひっかかるものを感じることがあるのだ。その正体が何なのか、しをんさんはこのエッセイで解明してみせてくれたのだった。すっきりした。
 

 さて、収録されたエッセイのいくつかで、しをんさんは、美しいと感じるもの、幸福な記憶・情景・時間について書かれている。これは、彼女の小説『風が強く吹いている』を読んだときにも感じたことなのだけど・・・しをんさんが美しいものや幸福感について語るときには、いつもそばに切なさや寂しさが寄り添っている。そのことが・・・良いなぁ、素敵だなぁ、と思う。

【過去記事】 人はなぜ「美しい」がわかるのか : 橋本治 → 風が強く吹いている : 三浦しをん




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2013-05-04

舟を編む : 三浦しをん

『舟を編む』 三浦しをん

 ・・・主人公が荒木氏でなくて残念だ。

 若き日の荒木公平が、大学図書館の書架に清浄な光を放って並ぶ『日本国語大辞典』~十年以上の歳月をかけて編纂された全二十巻の大部の辞書~と対面するシーンは、荒木が『大渡海』編纂を託す運命の男・馬締を見出す場面よりも、馬締が早雲荘の物干台で大きな月を背に立つ香具矢に出会う場面よりも、はるかに美しく、感動的な「見染め」の場面だと思うのだ。こんな印象的な「見染め」の場を演じた荒木氏が脇役に回ってしまうのは何だか惜しい。

 荒木氏が脇に回ってしまったおかげで、何だかストーリーにずぶずぶとのめりこんで読むことができない。・・・となると、細かいことが気になってくる。

 その1・・・馬締の辞書編集者としての適性を示すエピソードとして、馬締の趣味が「エスカレーターに乗るひとを見ること」であり、電車を降りてホームに溢れた人波が整然と二列になってエスカレーターに吸い込まれていく様を「うつくしい情景」だと思っていることが語られるが・・・ 人が一時「モノ」となって整然と流されることにより実現されるスムーズな通行よりも、個々の人間としての我を通すことが優先されぶつかりあう博多駅では、ホームからエスカレーターに向かって動く人の群れは、美しいどころか「カオス」であると言える。確かに、東京の住人である馬締にとって、ホームからエスカレータに吸い込まれていく人波が「秩序だって美しい」ものであるというのは間違いではないけれど・・・「エスカレーターに乗るひとの流れが秩序だって美しい」のはすごく限定的な範囲でのことだろうと思う。

 その2・・・馬締と「(辞書の見出し語としての)男と女のことで揉めている」という辞書編集部員・岸辺が、『女』の語意について、例えば『男ではない方の性。または、そう自認しているもの』でもいいではないかと言う。では、“そうありたい”“そうである”と思いさえすれば、“そういうもの”として存在できるのか? 自称公務員、自称ウエスト56センチ、自称乳幼児・・・。

 その3・・・『あがる』と『のぼる』の違いについて考える馬締。『あがる』と『のぼる』の間に見出した法則にこだわりすぎて、すべての例を無理やりその法則に沿うようにこじつけていないか、馬締?

 その4・・・後楽園遊園地で観覧車に乗る馬締と香具矢。香具矢は観覧車を「楽しいけど、少しさびしい乗り物」だと言い、馬締は「少しさびしいけれど、静かに持続するエネルギーを秘めた」観覧車を遊園地の乗り物の中で一番好きだと言う。美しいシーンだ。だけど、美しいシーンであるだけに、観覧車は「少しさびしい乗り物」として固定されてしまい、それ以外の属性を失くしてしまう。


 ある事、物、言葉に何らかの意味を見出し、姿を与えた途端に、こぼれてしまうたくさんのもの(こと)がある。この小説は、刻々と姿を変え続ける広大な言葉の海に挑み、その海を渡る舟を編もうとする人たちの想いと願いと情熱を語ると同時に、そういうことをあらわにして(実践して)しまってもいるんじゃないだろうか?




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