2013-02-23

戯史三國志 我が土は何を育む : 吉川永青

『戯史三國志 我が土は何を育む』 吉川永青

 九度目の北伐に向かう蜀軍を率いる姜維の陣に参じた老将・廖化(廖淳)の胸には、もはや終わりの見えた蜀の滅亡を受け入れるべしとの思いがあった。師・諸葛亮から託された国を保つために先の無い戦いを繰り返すしかない姜維は、劉備らとともにこの国をつくりながら、今、すすんで国を畳むことを説く廖化の心を質す。姜維にこたえて廖化が語る劉備らと共に駆け、戦った日々と、その中で育んできた想い。


 作者の、女性の・・・というか、男女の関係の描き方が苦手だ。大切な男の為に我が身を犠牲にする女。そうして身を犠牲にし心を狂わせた女を、殺すことで救ってやろうと思う男。これが男女逆だったとしても同じように嫌なんだが・・・。本作でも、主人公・廖淳が曹操軍の兵士に凌辱され気のふれた、愛する義姉を手にかけるシーンが冒頭に描かれていて、ちょっと・・・萎えた。

 ・・・とは言え、劉備一味のキャラクター造形が面白く(『蒼天航路』と似ているとの指摘もあるようだけど、私は読んだことがないのでよくわからない)、それをスパイスにしてストーリーを楽しむことができる。

 武侠の頭から計算高く周囲を利用してのし上がってた劉備は、侠気あふれるカリスマであるが、その実、智恵も武勇もない戦下手。圧倒的な武勇を誇るものの、傲慢で狭量、とてもじゃないが兵を預かり軍を動かす将の器じゃない関羽。人間味があり関羽よりはいくらかマシだが、やっぱり将としては物足らない張飛。四角四面な趙雲。怪物的な知能+元来のSっ気に加え、民を救おうとした叔父を民に殺された過去のいきさつにより心の壊れた、ある種の冷酷さを持つ(その冷酷さを自覚する故に、情に傾きがちな劉備にはできぬことを背負う覚悟のある)諸葛亮。

 黄巾の子として生まれ、戦乱の中で劉備に拾われた廖淳は、一味の中で成長し、戦に駆け周り、多くの人を、国を知り、そして想う・・・人は何によって生きるのか・・・。

 廖化の想いが、綺羅星のごとき英雄たちの去った後に残された劉禅の内に穏やかに結実したことを語るラストが、切なくほの温かい余韻を残す。




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2013-02-16

戯史三國志 我が槍は覇道の翼 : 吉川永青

『戯史三國志 我が槍は覇道の翼』 吉川永青 

 「戯史三国志」二作目の主人公は孫家三代を支えた武将・程普。第一作『我が糸は誰を操る』より格段に興奮度が高いのは、登場人物がアツい武闘派揃いだからか、作者の筆に強さと余裕が加わった為なのか、それとも程普が孫堅を好きすぎるせいなのか。

 程普と孫堅が黄巾と官軍の将としてまみえるところから赤壁の戦いまで・・・話は少し駆け足で進む。快男子・孫堅に惚れ、その大望の一翼たらんとして駆けまわった程普らアツい漢たちのストーリー。


 長沙の太守となった孫堅が勢力を拡大する手始めとして、自分を軽く見る荊州刺史・王叡への示威も兼ね、叛乱の首魁・区星を奇計を用いて討つくだり ~ 礼服を纏った孫堅と旗下の黄蓋、韓当、程普が、大剣、薙刀、槍、それぞれの得物を手に区星の軍勢に躍りこんでいく。

 ・・・これ、確信犯的なサービスシーンだよねぇ。「荒くれ男」+「礼装」+「ゴツい武器」というシチュエーションにモヤモヤと疼いてしまう・・・“そういう”人たちへの。孫堅たちの礼装は、刺史を迎える宴のためでもあろうし、乱戦の中で味方の弓兵に誤射されるのを避けるためだったとか、もっともらしく書いてあるけど・・・ねぇ。何だかニヤニヤしてしまうよ。

 サービスといえば、曹操の悪食も。「蟻の天日干し」「羊の脳の塩漬け」「蝉の煮つけ」など、好物のゲテモノが詰まった瓶を嬉しそうに持ち歩き、他人にウキウキと振る舞っては迷惑がられる曹操。これも、完璧すぎる感じのする曹操への愛すべきキャラづけ、なのかな。

 孫堅のことが大好きすぎて、なかなか孫策と思いがかみ合わない程普。周瑜との心情的な確執もあり、孫策時代には熱血度は少しトーンダウンするが、志半ばにたおれた孫策の跡を弟・孫権が継ぐと、己が非を悔い改めた程普が、老骨に鞭打ってまたも激しく燃える! 孫権ってどうも孫堅や孫策に比べて見劣りするってイメージがあったんだけど、本作では、老いて頑なになった程普をふるわせるほどの大器。切れ者であるだけでなく情にも篤く、歴戦の荒くれ武者たちを心服させ従えるのだ。孫権、いい役もらった。

 ところで、一本気な程普から見れば、まわりの色に合わせて自らの色を変えながら、じわじわと周囲を蝕む劉備は「毒蛙」。藤水名子の『赤壁の宴』で、周瑜が劉備を評して言った「戦場ゴロ」にはかなわないけど、これもかなり辛辣な劉備評。




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2013-02-09

戯史三國志 我が糸は誰を操る : 吉川永青

『戯史三國志 我が糸は誰を操る』 吉川永青

 董卓軍に攫われた少女・張鈴を救出しようと頑張る若き陳宮。救出はままならず、焦りばかりが募るある日、陳宮は張鈴と再会する。しかし、何者かとの情事の直後であるらしいしどけない姿の張鈴は、己の無力を詫びる陳宮を罵り、残酷な言葉を投げつける。変わり果てた張鈴に失望し、嫌悪を抱く陳宮。張鈴に抱いていた淡い想いは、一瞬にして深い怨みと殺意に変わる。

 ・・・それって要するに、

 「そりゃ、助けてあげられなかったけど、俺なりにものすごく頑張ったのに! その俺様を思いやることもできないのか! 少しは感謝しろよ、お前! ヒドイ! キ~ッ!」

 ってことよね? 相手は無理やり董卓の妾にされ、散々な苦痛と絶望を味わった少女ですよ。・・・う~ん。物語の序盤で見せつけられてしまった主人公・陳宮の、この「・・・サイアク・・・」としか言いようのない小物っぷりが、最後まで払拭できなかった。

 
 董卓が権力を振るう洛陽で、若き陳宮が曹操にその才能を見いだされ軍師となるところから呂布の死まで。曹操のもとで董卓を破滅させる策を練り、己では操りきれぬ曹操の大器を知るや、主を裏切って呂布のもとへと走り・・・主を変えながらも常に己が作り出すべき天下への意志を胸に抱く陳宮。乱世の大陸を舞台に繰り広げられる将たちの駆け引き、ダイナミックな戦いはもちろん面白い・・・「三国志」だから。

 その中で、覇道や王道を敷く名だたる武将たちではなく、詭道を操る一軍師の生き様を中心に据えたドラマは、ちょっとダークな刺激と色合いを帯び、「糸をひく者」として生きる陳宮の悲壮な背中には、“嗚呼、彼もまた乱世の将”とグッとくるものもある。でも・・・どうしても陳宮からは小物臭が消えないんだよなぁ。「俺」と「かつて(多分に独りよがりな)想いを寄せた少女」の問題が、「天下」の問題に直結しちゃってる気持ち悪さとか、陳宮の胸に在って、天下への思いを支えているのが、どうも自分に都合に良い妄想なんじゃないかってこととか。(だって、張鈴が命を捨ててまで伝えたかったことが「陳さん、頑張って」だけなわけないだろう。)

 己が思い描く天下のため、曹操を、呂布を操ろうとして操りきれず、全力をふり絞って策を練るも、結果的に数々の失敗と悔いを重ねてしまった陳宮の生き様を、ラスト数ページですごく清々しくまとめ上げてしまったのが、逆に残念な気がする。後悔を残し、汚れたままに終わらせてあげた方が、陳宮の男が上がったんじゃないかなぁ。





あ、文庫化されてる。 



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2013-02-02

泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部 : 酒見賢一

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第参部』 酒見賢一

 いよいよ「赤壁」! ついに「赤壁」! 美しきアニキ・周瑜とマッド軍師・諸葛孔明の激突! 何かもう・・・もう・・何かものすごいモノが炸裂するんじゃないかとワクワクしていたんだが・・・。炸裂したのは、呉国太をひと目で落とす劉備のどうでもいい中年男の色気だった・・・。

 作者は「赤壁の戦い」のアツい盛り上がりにせっせと水をかけるのである(呉軍団はあくまでもアツく男臭いが)。作者にとっての「赤壁」とは、「周瑜のオトコ気と孔明の知略が曹操の大軍を撃破するドラマティックな戦い」なんかじゃなかったのか! 「第参部」の語りのメインとなるのは、どうやら「赤壁の戦い」自体じゃなくて、その裏でめぐらされる孔明と劉備のあくどい策略と、曹操を敗走させた後の周瑜vs.孔明+劉備軍団の暗闘である。

 卑怯、そして下劣ではあるが、周瑜にとってはぐぅの音も出ない策を次々と繰り出し、まんまと成功させる孔明。不気味極まりない新型兵器。よくわかんないけど美味しい思いだけはしている劉備。怒りと屈辱に矢傷を破裂させ、血を吐いて昏倒する周瑜。

 最期までオトコらしい美周郎の死によって、その悪行と変態性が際立ってしまった孔明と劉備軍団。これからどうなる?!




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