2012-11-24

谷崎潤一郎犯罪小説集 : 谷崎潤一郎

『谷崎潤一郎犯罪小説集』 谷崎潤一郎

 「柳湯の事件」「途上」「私」「白昼鬼語」・・・犯罪そのものというよりも、犯罪を犯す人の姿、その異様な心理をねっとりと描いて見せる4つの短編。

 「柳湯の事件」は何と言っても、男が語るぬらぬらどろどろブルブルとしたものへの愛着と、その男が身を浸す銭湯の湯船の・・・あの皮膚感覚に参ってしまう。会社から帰宅する道々、ある男と探偵の間で交わされる男の妻の死をめぐる会話から、徐々に露わになる男のもう一つの姿がグロテスクな「途上」。神経衰弱気味の友人に誘われて、雨戸の節穴越しに殺人現場を覗いた男がその奇妙な体験を語る「白昼鬼後」は、いったい誰の言ってることがマトモで、いったい誰の頭が妄想に侵されているのかわからなくなってくる、そんなゆらゆらした迷宮感に酔う。

 主人公のこねる小理屈が、事件のオチとあいまっていっそ清々しい「私」以外は、短編ながらドスンと胃にきて、読むのにけっこう体力を消費する。

 ところで、ミステリーの楽しみ方に疎い私は、じくじくと描き出される犯罪者たちの異様な心理の方にばかり目が行ってしまって、巻末の解説を読むまで気が付かなかったのが、作品をミステリーに仕立てる話法を実に自在に谷崎潤一郎は操っているのだ。何かを隠したまま進行する語りがもたらす緊張感、焦燥感~その巧みな語りに手もなく翻弄されていたことを、改めて自覚した。

 それでも・・・読んでいて一番ざわざわとしたのは、「柳湯の事件」で、銭湯の湯の中で足に触れるぶよぶよぬらぬらした物の正体を「触覚にだけ感じられる女の幽霊だ」と思う男の、異様を通り越して奇抜な心理描写だったのだけど。




FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2012-11-17

悲歌-エレジー : 中山可穂

『悲歌- エレジー』 中山可穂

 「隅田川」「定家」「蝉丸」~能の演目をモチーフにした三篇。

 愛する娘を喪い、隅田川のほとりを彷徨う父。白いワイシャツに黒ズボン、ナイキのスニーカーを履いたその男が纏う真紅の薔薇の刺繍のついた黒いマント。“きわめて真面目らしいこのおじさんに、作者は何故こんなふざけた格好をさせたのだろう?”と奇異に思ったが、この異装は、「日常を去ったもの」~生死にかかわらず、すでにこの世のものではない者~のしるしだったのかもしれない。 

 深い嘆きに沈んだ男は、境界の向こう側から、川に身を投げた少女の姿を求めて隅田川の写真を撮り続ける「わたし」の前に姿を現わし、晴らされることのない妄執を語ったのだ。

 
 本作は、同じく能の演目をモチーフにした『弱法師』よりはっきりと能のドラマツルギーに依って書かれているのかもしれない。(能についてはあまり知らないのだけど。)

 奇妙な死を遂げた幻想の小説家の評伝を執筆する「わたし」が、嵐の夜、突然現れた男~亡くなった小説家の遺作を秘匿する出版社会長~の告白を聞く「定家」も、奇跡の声を持つ蝉丸と激情的なギタリスト・逆髪の姉弟を愛し、育てた博雅が、遂には蝉丸のために日常を捨てた旅を彷徨う「蝉丸」も、魂がこの世のものでなくなってもまだ残る、深く、激しく、悲しい愛、一つになろうとする強い強い思いを、能の世界を借り、此岸と彼岸の境界を越えて描いているのだ。


  

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2012-11-10

百鬼夜行 陽 : 京極夏彦

『定本 百鬼夜行 陽』 京極夏彦

 霞がかかったようにはっきりとしない記憶、想念、自分の内の過剰だったり足らなかったりするものに苛まれる者たち。京極堂シリーズのサイドストーリーともなる、事件関係者たちそれぞれの内なる物語。(・・・なのだが、先日読んだ『陰摩羅鬼の瑕』以前の本編ストーリーについては記憶の彼方であった。やっぱり読み直さなくては。)

 一応は現実の生活者である人たちが、奇妙に歪んだ内なる世界を淡々と語る。そんな話を10人分も続けて読めば、形も正体もわからないけれど、それが自分の中に居座っているとどうも苦しい・・・そんな妖怪様のものを内に持っているいうのは、ごくごく当たり前の、普通のことなのだという気がしてくる。だからこそ、この10人の人たちの、彼らの内なる妖怪を肥大させ、現実の生活の中に放たせてしまうことになった事件との遭遇が悲しく、恐ろしい。


 「目競」では、今では非常識で破壊的な探偵である榎木津礼二郎の、“ないものが見えてしまう”少年時代の健気な胸の内が見られる。こうなると、中禅寺の中にいるものも見せてほしくなるなぁ。 




FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2012-11-03

陰摩羅鬼の瑕 : 京極夏彦

『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦

 白樺湖畔に立つ「鳥の城」・・・旧華族由良家の館では婚礼の夜に花嫁の命が何者かに奪われる。5度目の婚礼を前に、花嫁を守るべく探偵・榎木津と関口が「鳥の城」を訪れるが・・・。

 最後まで訳のわからぬ謎と混乱する事態に翻弄されるような『塗仏の宴』までの京極堂シリーズとは違い、序章を読んでいる時点で大方の結末が予想できる。

 しかし、結末を予想した上でも、「鳥の城」の書斎に立つ漆黒の鶴の姿は美しくかつ不吉で、悲劇がいかにして醸成されたのかを語る中禅寺の言葉は悲しく、生きていることに怯える関口の混乱は私の神経をも苛む。


 ・・・でもやっぱり、いかに特殊な状況にあったとはいえ、由良伯爵のような死生観が身に付くものだろうか? とは思う。





追記

 この世には不思議なことなど何もない・・・のかもしれないけども、何か不思議な感じのする偶然というものはあるもので・・・。この『陰摩羅鬼~』を読んでる時にも、“あ・・・?”と思ったことが一つ。妖怪好きの柴くんと中禅寺が儒教談義をするくだりで、『「いき」の構造』の著者九鬼周造氏の名前が出てくるのだけど、その後『陰摩羅鬼~』を読む手を一旦止めて、たまたま手元にあった岩波文庫の冊子『古典のすすめ』を何気なくめくったちょうどそのページにあったのが、九鬼周造の『「いき」の構造』だったという・・・。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
10 | 2012/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ