2012-10-27

男は美人の嘘が好き―ひかりと影の平家物語 : 大塚ひかり

『男は美人の嘘が好き―ひかりと影の平家物語』 大塚ひかり

 私が読んだのは1999年に出版された旧Ver.ですが、大河ドラマ『平清盛』放映に便乗したものか、今年、加筆の上『女嫌いの平家物語』と改題して、ちくま文庫より出版されています。

 『平家物語』を読んだ時、確かに思ったんですよね。“『平家物語』って、美しい女もたくさん登場するのに、男女の関係はごくあっさりとしか描かれなくて、男同志の関係ばかりが惜しまれ、愛でられ、繰り返し繰り返し、言葉を尽くして語られるのね。”って。

 悲しく美しい男たちの物語に、女の現実がくい込んでこないというのは、私にとってはむしろウェルカムなことだったので、物語には語られなかった女たちの真の姿、生き様を詮索しようという気は起きなかったのだけど、著者にとっては『平家物語』の作り手である男たちの願望のために意志や個性を奪われ、都合よく歪められた女たちの姿は到底容認できるものではなかったようで・・・。

 貴族や女房たちの日記や『源平盛衰記』『吾妻鏡』の記述と比較しながら、平家一門の繁栄の礎となった建春門院、以仁王の養母・八条女院、高倉天皇の愛人・小督、木曽義仲に従う女武者・巴御前、安徳天皇を抱いて海に沈んだ二位の尼~『平家物語』の女性たちが本当はどんな女性だったのかを様々に想像する。

 女だって源平の時代をちゃんと生きた。物語から取りこぼされた女の生を思い、確認するというのは必要なことだし、本書には充分面白くそのことが書かれているのだけど、男の願望と女の現実の違いに、『女としては、そういうの、白けるだけなんだよね。もういい加減、女に幻想を抱くのは、やめにしてもらいたいよ。』と力まれると、“いや~ 『平家物語』の作者って、女に幻想抱いてるっていうより、単に女に興味がなかったんじゃないかしら?(『平家物語』読んでるとそんな気がする)”って言いたくなっちゃう。

 せっかく男たちの悲劇の物語がたっぷりに歌い上げられ、聴衆だってその悲しくも美しい男たちの姿に涙しているというのに、その脇で、言わずもがなな女の現実を言い立てることもないんじゃないかと・・・。興醒めするじゃない?

 でも、私がそう感じるのは、著者自身が「二位の尼」の項で『「子供のために」と称して嫌いな夫とも別れなかった一昔前の女に、彼女をそうさせた時代背景も顧みず、反感を覚える』と吐露しているのと似たようなことなのだろうなぁ。


 

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2012-10-20

星踊る綺羅の鳴く川 : 赤江瀑

『星踊る綺羅の鳴く川』 赤江瀑

 天蓋と旛とを上部に飾り、縄をかけられ中空に吊るされた棺の下、濃く深く垂れ込める暗闇の中に聞こえる密やかな音色。銀の小花を無数に飾った花櫛が闇に煌めき、涼やかな音をたてる。

 文化・文政の江戸、大南北の血みどろで凄惨な情念の世界を演じて江戸中を熱狂させた役者たち・・・舞台の上で演じ、演じられたものたちの魂と精が凝った妖しのものたちの住む櫓。この世のどこにあるとも知れぬ、剣の林、鬼火の森、地獄野の果ての闇の中の住まい。

 闇夜の空を泳ぐ鯉幟。満開の桜の精を吸い尽して立ち現れる宴の舞台に、闇の中から太夫たちが絢爛たるその姿をあらわし、戯れる。

 
 芝居に憑かれ、思いに思った一念の為とはいえ、時空を隔てたこの世の生身の女たちが、この妖しの精霊たちの住まいにたどりついたとは何て事!(なんと妬ましい) 凄艶な太夫たちの姿を見、言葉を交わした四人の女優たちは皆、この夢幻の闇に棲む美しい魔物の贄になればいい。




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2012-10-13

街場のマンガ論 : 内田樹

『街場のマンガ論』 内田樹

 「マンガ論」というよりも、長年のマンガ・リーダーである内田樹氏がさまざまな媒体で発表されたものの中から、マンガへの言及があるもの(直接の言及がなくても、マンガの存在が想定されているようなもの)を集めた一冊。・・・そういえば、内田樹氏の肩書が何であるのかよく知らない。大学で教えて、もの書いてる人。それから武道をやってる人。そういう認識でいいのかしらん? 

 井上雅彦が『SLAM DUNK』や『バガボンド』で描くテーマについて。武道家の目と身体と感性で読む『バガボンド』に見る井上雅彦の絵の到達点について。漢字(表意文字)とかな(表音文字)が混在する日本語をすらすらと読む日本人が、絵と文字という情報を同時に処理しながらマンガをさくさく読む能力にも長けていること。少女マンガが持つ複数のレベルの言語について、またそれを読み取るリテラシーについて。24年組のマンガ家たちが描いた「少年愛マンガ」の前史。『エースをねらえ!』に学んださまざまなこと。手塚治虫の作劇法。海賊版の存在・・・等々。

 マンガの好みというか、マンガ体験については、私、内田氏と重なるところがほとんどないかも。『鉄腕アトム』にわくわくしたことがないのはもちろんのこととして、内田氏が愛する少女マンガを、私は読むことができないし(ストーリー云々以前に絵に馴染めないことが多い)、私がハマった『BL』に関しては内田氏は全くの門外漢であるとおっしゃる。

 とは言え、マンガ好きな内田氏のマンガの「読み」には驚きもし、共感もし、嫉妬もし、楽しみながら読み終える。ただ、読んでいて違和感を感じたことが二つ。

 一つは、なぜ少女が『BL』を好むのかについて。氏は「男性同士の同性愛」が「非功利的」であることを主に「エロス」とからめて語っておられるが、『BL』好きは「性愛は社会的・人間的価値と結びついたものでなければいけない」という抑圧を離れた純粋な「エロス」にうっとりしているわけじゃなく、社会的価値云々に関わりなく求められる「関係」(“ただ一緒にいたい”とか)にうっとりしてるんじゃないかなぁ(あ、でもこういう関係も“純粋な「エロス」”と呼ぶんだろうか)。いつかは社会的価値に関与しなければいけない時が来て、(ある種の)BL的世界は終わるということを知っているから、その時が来るまでは『BL』にどっぷり浸るという。

 もう一つは、「物書き」がいかなるものかについて。物書きがものを書くのは「一人でも多くの読者に読んでもらうため」というのはいいとして、「一人でも多くの人に読んでもらうためなら金銭的リターンは無くても良い」という立場にいるご自身と(その立場をどんな苦労の末獲得したにせよ)、「商品」としてものを書く人たちを、「物書き」であるという共通項で「私たち」とくくってしまうのは乱暴なのではないだろうか。




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2012-10-06

欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差 : 堀あきこ

『欲望のコード―マンガにみるセクシュアリティの男女差』 堀あきこ

 「なんで『BL』なんだ?」 ・・・ 「なんで『ジャンプ』好きなんだ?」と並ぶ私の疑問。

 ず~っと女子校にこもってたおかげで、男性に「見られる」ということを意識することもなく、また男性の力をたいしてあてにすることもなく大人になり、就職する頃には、社会的にも女性が生きにくいっていう状況ではなく(男女間に格差がなかったわけではないが)、まあ一通りの社会生活は自分の力でどうにかできると思っていた。

 でも・・・欲望や願望は「~されたい」「~して欲しい」「『獲得したい』と思われる対象でありたい」という受け身の形で発動してしまうことが多くて面倒臭い。そういう形の欲望・願望があるくせに、そんな女性の願望が男性によって叶えられちゃうような物語を読むと虫酸が走る。

 そんなんだから、“まあ、「BL」にいっちゃうのが自然かなぁ”とは思いつつも何だかしっくりしないものがある。結局、私は何に(何を)満たされたいんだ?


 本書は「レディコミ」「TL(ティーンズラブ)」「BL(ボーイズラブ)」といったジャンルの「性的表現を含む女性向けコミック」を、「男性向けポルノコミック」との比較を交えながら読み解くことで、読者である女性のセクシュアリティ観を探るもの。

 「男性向けポルノコミック」「レディコミ」「TL」「BL」を比較・分析する中で、著者は「読者の視線」に注目している。男性キャラに同一化し女性キャラを見る「男性向けポルノコミック」の視線、女性キャラに同一化し女性キャラを見る「レディコミ」「TL」の視線、男性カップルという対の関係に向けられる「BL」の視線、「TL」「BL」に存在する俯瞰の視線・・・それらをたどることで、それぞれのジャンルの作品に読者が求めているものが抽出されている。(が、こと「BL」に関して論じられていることのいくらかは、本書にも引用されている三浦しをんさんのエッセイや、よしながふみさんの対談集ですでに語られていることでもある。)

 「性的表現を含む女性向けコミック」は既存の(男性中心の)『権力構造そのものの存在は不問にしたまま、その関係をズラしていこうとするものである』という(たとえば、身体的に支配される側が、精神的には支配する側として描かれたり、強姦まがいの関係が「過剰な愛情の発露」と読み替えられたり)。そういう仕組みを持つ作品世界が、この論考が出版された2009年以前の読者世代にとって気持ちの良いものであることは想像・納得できる。と同時に、こういうのが気持ちいい世代ってそろそろ終わりになってくるんじゃないか、それでは満足できない世代が生まれてきてるんじゃないかって気がする。




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