2012-06-30

サンクチュアリ THE幕狼異新 : 野口賢・冲方丁

『サンクチュアリーTHE幕狼異新』 画:野口賢 作:冲方丁

 多分、打ち切り作品だったのだろう・・・ペース配分がおかしいというか、描き切れてないと思うところはたくさんあったけれど、面白かったです。読後しばらくしてからじわじわっとくるダークで切ない話。

 いきなり描かれるのは、サトリの力で先を読み、火炎をおこし、大気を凍らせ、鬼を操る新選組隊士たちのオカルティックな戦い。

 家康が手に入れ、幕府と朝廷の共栄のもとに封印された護国の秘法。幕末の動乱の中で、その秘法を守る『八卦の門派』は割れ、相争おうとしていた。新選組とは、秘法を奪おうとする勢力から『聖域』を守るべく、『八卦の門派』の一つ『巽』の流れを継ぐ近藤勇によって組織された異能の剣士集団だった。

 しかし、近藤亡きあと(近藤勇は池田屋で死んだという設定になっている)、会津藩主松平容保よりその事実を伝えられるのは、土方と沖田の二人だけで、他の隊士たちは守るべきものの正体も、自分たちの存在意義も知らない。

 隊士たちにとって、近藤によって与えられた『夢』、守るべき『聖域』とは何なのか、そもそもそこがはっきりしない。それは「国を守る秘法」なのか、「松平容保を通じて託された帝の勅命」か、それとも「侍たらんとする心」なのか。それは、連載打ち切りによって描けなかったことの一つなのか、それともあえて意図的に曖昧にしていたことなのか・・・。

 でもそれだけに、自分が何者であるかを知らぬまま、混沌とした戦いの中で、ぶつかるものすべてに牙を剥く異能の剣士たちの餓えが切ない。近藤の遺志を託された土方は土方で、隊士たちには秘されている近藤の死という餓えを抱え・・・。

 都に攻め入った長州軍を前に、餓えを満たそうとするかのように戦に臨む新選組。幕切れの、隊士たちの高揚した表情の切なさは、図らずも「打ち切り」がもたらした余韻なんだろうなぁ。


 

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tag : 新選組

2012-06-23

浮世でランチ : 山崎ナオコーラ

『浮世でランチ』 山崎ナオコーラ

 視線を下げると、ビルとビルの間に、五センチほどのブルーグレーの線が見える。あれは海だ、と思うのだけれど、三年も働いているのに、確かめたことがない。他の人と、海の話をしたことがない。


 ゴフッッ・・・。いきなり繰り出されてきたこのパンチが鳩尾あたりにきれいに入って、思わず膝をついてしまった。ゲフフッ。これは、身に覚えのある私には痛すぎる言葉。

 わかりあえる人とだけ話したいという願望。くだらない人にはすり寄りたくないというプライド。しかし、現実には話し合える人は一人もいない自分の不甲斐なさへの忸怩たる感情。でも、結局、それが自分だと、その孤独を、ぐいと顔を上げるように凛々しい言葉で語る主人公。

 いつも、ランチは公園で一人でとる25歳の私。
 他から自分を規定されることに苛立ち、常に自由、反体制でありたいと思っていた14歳の私。

 私の二つの時間が交互に進行する。

 小さい頃は、この世界に不慣れで、いつも不安だった。自分の周りにあるものが一体なんなのか、うまく認識できなかった。


 周囲のものに触って、その手触りを確かめ、覚えておく。誰かのルール、外の社会によって自分を規定されることを嫌い、自由でいたいと思う私は、自分や、周囲のものごとに関して、自覚的、意識的、意志的であるために、自分の形を、自分の周りのものの形を、常に自分の力で見極めておこうと努めたのだろう。14歳の時の友人との「宗教ごっこ」以来、何かに祈ること、自分の外の大きな力に何かをゆだねることを止めてからは特に。

 
 25歳の私は、ルーチンワークだけで時間がつぶされていく会社での仕事を辞め、タイ~マレーシア~ミャンマーと旅をする。旅の途中で、元同僚と、時折、手紙やメールを交わす。旧友との偶然の再会はあるものの、劇的な何かが起こるわけではないが・・・

 物事や自分の輪郭にピリピリしていた主人公が、自分と他との境界をほんの少し曖昧にしていく。あいかわらずランチは公園で一人でとる。でも、近くに入ってくる人とは、場所をわけあって一緒に座る。自分の力では線がひけない領域を、何か他のものにゆだねてみる。ほんの小さなその変化は、『私は、アジサイの花が一番好きなんですよ。空気との境目があいまいでしょう。』と言った、主人公たちの中学時代の担任・並木先生の言葉と、ゆるやかにつながっているようにも見える。


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2012-06-16

時平の桜、菅公の梅 : 奥山景布子

『時平の桜、菅公の梅』 奥山景布子

 「なあ、松王。桜は、美しいな」

 散りかかる桜の下、牛牽きの松王丸におっとりと語りかける若君の姿は、私の中にあった、藤原時平=権勢欲にとりつかれ、菅原道真を怨霊にまでした悪人というイメージをふわりと吹きとばしてしまう。しかし、何気なく交わされる言葉は、この若君が将来歩む道を暗示する。

 「若君には、梅よりも桜をお好みと、拝察つかまつりまする」

 「梅も、確かに美しい。香も良く、品高きものだ。されどやはり、所詮は異国のものよ。」


 道真の学識と高潔な人柄を敬う時平と、国を思う時平のしなやかで瑞々しい心を認める道真。一時は、互いを理解し、共に良き政を目指すことをよろこびとした二人。しかし、桜と梅~二人の心には相容れない国の姿があり・・・。国の政における一の人として、また藤原一族の長として、強く、老獪にもなっていく時平は、一切の甘さを許さず、一直線に理想を実現しようとする道真との対立をいつしか深めてゆく。

 互いに理想を抱き、熱くぶつかりあった二人の殿上人の生き様を、都を彷徨う物の怪の姿や、帝位をめぐる愛憎、王朝の物語らしい恋模様をからめながら、ドラマティックに描く。

  
 
 それはそうと・・・ 孤高の秀才・道真公は他人に超キビしい。信念は、『能なき者は去れ』・・・天神様に甘ったれた合格祈願なんてしようものなら、かたっぱしから落とされそうだ。




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2012-06-09

死刑執行中脱獄進行中 : 荒木飛呂彦

『死刑執行中脱獄進行中』 荒木飛呂彦

 こういうのを「奇想」っていうんだろうなぁ。世界観も、シチュエーションも、キャラクターのセリフもポーズも、コスチュームも、アングルも、どれもが奇抜。長編も奇妙で独創的なアイデアに溢れた荒木氏だけど、これは短編だけにその奇抜さがバリッと剥き出し。

 言ってしまえば、「みんな変!」なんだけど、「変!」なままに大真面目で進行する世界のパワーと、グロさと狂気すれすれの感性を愛嬌に包んだキャラクターたちの活躍が、「変!」を「圧倒的で魅力的ィ~」に変えちゃう。

 「ジョジョ」第四部に登場した吉良吉影の幽霊が、いろんなルールに縛られながら、きちんと、より良く生きていこうとする「デッドマンズQ」なんて、思わず手に汗にぎって殺人鬼を応援してしまうよ。


 収録作 「死刑執行中脱獄進行中」「ドルチ」「岸辺露伴は動かない」「デッドマンズQ」




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2012-06-02

月桃夜 : 遠田潤子

『月桃夜』 遠田潤子 

 疼くような熱にじわじわと侵され、視界がぼうっと滲んでいく。安寿と厨子王の物語の中に人の心の闇を見せた遠田潤子氏の「水鏡の虜」は、ファンタジー短編のアンソロジー『Fantasy Seller』の中でも、その暗く燃える熱気が特異な存在感を放つ作品だった。


 櫂を失くしたカヤックで奄美の夜の海をひとり漂う茉莉香が海上を飛びつづける隻眼の大鷲に出会う「海のはなし」と、隻眼の鷲が茉莉香に語る「島のはなし」~遠い昔、薩摩支配下の奄美の島に生きた兄妹・フィエクサとサネンのはなし『月桃夜』も静かに滾る熱を帯びた物語だ。

 奴隷となり死ぬまでただ黍を育て、砂糖を作るフィエクサたちの汗と血にこもる熱。風が渡り、花は甘く匂い、緑濃い葉は爽やかに香る島を焼く陽射しの灼熱。島に射す眩い光と夜より暗い闇の、そして、フィエクサが魅せられる碁、サネンが憧れる針突(入墨)の黒白がなすコントラスト。人の世の情とは理を異にする神の世界と交わりながら、愛し、哀しみ、怨み、生きる、人の心の坩堝に滾る熱。命も身体も妹のために捧げた兄の、その兄のすべてを貪って生きると慟哭する妹の魂の熱。世界の終わりまで飛び続ける大鷲の隻眼に宿る熱。




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