2012-05-26

西行花伝 : 辻邦生

『西行花伝』 辻邦生

 最近になって郷土愛みたいなものが芽生えてきたものか、もう十年以上も見ることのなかったNHKの大河ドラマを、今年は見ているのです。平清盛といえば我が故郷広島にもゆかりのある人ですから。でも、ドラマ序盤では主人公・平清盛よりむしろ、あのモテ男・佐藤義清=西行の方が気にかかったのです。いや、西行のことが気にかかっていたのは、実はもっともっと前 ~昔、『はいからさんが通る』を読んで、「願はくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」という歌を目にしたときからなのですが。

 
 弓、乗馬、蹴鞠、歌・・・宮廷の権力に近づくために必要な様々な技量に恵まれ、鳥羽院の北面の武士として、この世での強い力を持つことを望みうる立場にありながら、若くして出家し、仏と歌の道に身を捧げた西行。世の中のすべてをありのままに見つめ、慈しみ、抱いた仏教者としての姿と、歌に貫かれた西行の生涯を織り出す長編。

 西行を歌と仏の道に向かわせた、虚空に一人佇むような鳥羽院の孤独、慕わしい女院の哀しさと美しさ、崇徳院の懊悩、身近な者たちの死。そうしたものに深く傷つき、悩み、苦しみながらも、道の極みを目指して歩みを止めない西行の姿・・・

 この世の幸せも、悲しみも、苦しみも、善も、悪も、美も、醜も、生も、死も、この世の一部としてありのままに腕に抱き、花に、月に、雨に、山に、川に、日々の労働の中に溶け込む自分の命を感じ、この世に息づくすべてのものに共鳴し、同調し、物狂う仏教者の魂。

 仏教者の目で見たこの世を満たす美しさ~とどまることなく常に姿をかえ移ろうその美を、言葉の器にすくい取り、万物が生まれ、死に、一時もとどまることのない時の流れの中に、永遠に滅びることのない美~真実の世界を我が言葉の力によって現出せしめようという歌人のおそろしいほどに強い心。


 その厳しさ、激しさに慄いてしまうのです。 

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2012-05-19

陰獣 : 江戸川乱歩

『陰獣』 江戸川乱歩

 再読。初めて読んだのは中学生の頃か・・・? 記憶の中には、小山田邸のコンクリート塀に植えつけられた泥棒よけのガラス片と、静子夫人の背中に這う蚯蚓腫れしかなかったので、犯人と目される怪奇と幻想の探偵小説家・大江春泥をめぐる「私」=理知を愛する探偵作家・寒川の推理は、まったく初見のように読むことができた。


 上野の帝国博物館で出会った心惹かれる美しい女~実業家・小山田六郎の妻・静子と親しく手紙を交わすうち、恐ろしい秘密をうちあけられる「私」。静子のもとに届けられた、かつての恋人・平田一郎=行方知れずの探偵小説家・大江春泥からの脅迫状。静子の生活のすべてを監視する春泥の目。春泥のおそろしい情念を知る「私」は、静子に春泥探索を約束するが、春泥の行方は杳として知れぬまま、小山田六郎氏の死体が大川に浮かぶ。
 
 天井裏からの覗き見、変装、身代り、一人二役。春泥の行方を追い、事件の真相を探る「私」の推理の途上で露わにされる「陰」~温厚な紳士然とした小山田氏のサディスティックな性癖、青白い肌に秘めた静子の情欲。乱歩の匂いがムシムシと充満する。

 事件の意外な真相を明らかにするかと思われた「私」の理知による推理は破綻する。事件を覆う、姿なき大江春泥の影。そして、最後にそのおぞましさを露わにしたのは「私」の「陰」ではなかったか。

 この一連の陰惨な事件が、あの可哀そうな静子の、自分への恋ゆえに引き起こされたのではないかという疑いに慄き、苦悩すると同時に、どこか暗い愉悦を覚えているかのような「私」の告白。静子の魅力に溺れ、あのような結末の後でさえ、静子を妻とし、小山田氏の遺産を我がものとして暮らしたかもしれない自分の姿を夢想し、さらには事の一部始終を読者の目にさらそうとしている・・・それは、冒頭でことさらに理知的で、道徳的に敏感であることを主張した「私」の「陰」の姿ではないか。




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2012-05-12

大槻ケンヂが語る江戸川乱歩-私のこだわり人物伝 : 大槻ケンヂ・江戸川乱歩

『大槻ケンヂが語る江戸川乱歩 私のこだわり人物伝』 大槻ケンヂ・江戸川乱歩

 『乱歩「東京地図」』を読んでいるうちに、数年前に放映されたNHK「私のこだわり人物伝」シリーズの、大槻ケンヂによる乱歩案内を反芻したくなり購入。しかし、「大槻ケンヂが語る乱歩」が正味60ページ(しかも、今時の文庫だから1ページあたりの文字数が少ない)というのは、なんだかなぁ。同時収録の「鏡地獄」「押絵と旅する男」「踊る一寸法師」「人でなしの恋」は確かに名作だし、好きな短編なんだけど、どれも他で何回か読んでるし・・・ 


 私の乱歩初体験(といっていいのかなぁ?)はクラスの学級文庫にあった高階良子さんのマンガ『ドクターGの島』(原作『孤島の鬼』)。小学校4年か5年の頃だったか・・・。つづいて、『パノラマ島奇談』をやはり高階良子さんのマンガ版で読んで(タイトル忘れてたんだけど『血とばらの悪魔』だったらしい)衝撃を受け、それから乱歩の小説を読むようになった。

 小学生ながら、「二十面相」シリーズには手をつけないまま、エロ・グロ・猟奇方面に突き進んでいったのだが、その頃、まだ私の心には主人公に共感するほどの暗黒は無く、描かれる世界の“普通じゃない”ことに、ただただ驚きあきれていたような気がする。

 青年期の自意識に手こずり、「うつし世は夢、夜の夢こそまこと」という言葉に胸をかきむしられるようになった頃、深夜ラジオで大槻ケンヂを知ったのだ。ラジオやエッセイでオーケンが語る乱歩の世界、犯罪でしか社会との接点を持てない『愛されたいけど世の中とうまく折り合えない』主人公たち姿は、もやもやする私の心に少しずつ形を与えて鎮めてくれるようだった。

 それ以来、私と乱歩の間には、ダメ人間の友・乱歩の紹介者として、また、乱歩の読み方指南者として大槻ケンヂがいる。

 ん? でも、それって・・・ 関係は薄いながら“直接の知り合い”だった乱歩が、親しみは増したものの、オーケンを介した“友達の友達”に変わったってことなんじゃないかって気がしてきた。 どうなの? それ? 


  

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2012-05-05

乱歩「東京地図」 : 冨田均

『乱歩「東京地図」』 冨田均

 変装、覗き見・・・『耽異の退屈者』たる憂鬱な青年たちが徘徊する浅草。「日常」と「非日常」の境界である上野。無惨な死体が浮かび、探偵と怪人が追いつ追われつの活劇を繰り広げる隅田川。繁華な街・銀座に“展示”されるバラバラ死体。行く人もなくどんよりとした夕方の、またはさびしい深夜のお屋敷街。茫々と広がる郊外の原っぱ~戸山ヶ原・代々木。都市の周縁・新宿の先の「人外境」荻窪。

 著者がつぶさに歩いた「現実の東京」に重なるようにして現れたかと思うと、ぐるりと異次元・異空間の迷宮のような姿を見せる「乱歩の東京」。孤独、夢、妄想、空想、ノスタルジー・・・一言では表せないものたちが詰め込まれて出来た、数々の猟奇事件、犯罪、悪夢の舞台。

 著者の主観が強くて読み辛く感じてしまうところもあるけど、「現実の東京」と「乱歩の東京」二つの街の間をゆれる、街歩きの秘密めいて麻薬的な楽しさに酔っ払って、頭も足元も何だかふらふらする。

 明智探偵-小林少年-文代、そして明智探偵-文代-二十面相の二つの三角形の中に見える明智小五郎の妻・文代さんの秘密についての言及もあり、面白いおまけを貰った気分。いくつかの乱歩作品に関してネタバレ有りなので、これから読もうと思っている乱歩作品のある方は、そのあたり要注意。




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