2012-01-28

ちくま日本文学36 萩原朔太郎

『ちくま日本文学 36 萩原朔太郎』

 国語の副教材として与えられていた中央図書の『新編国語便覧』は今でも手元にあって、たまにぱらぱらと眺めたりしている。学生時代はこの便覧の中から気になる作家やタイトルを見つけては読了したものにマーカーで印をつけるのを楽しみにしていたのだが、今見ると印のついてる作品が少なくて笑ってしまう。

 学生時代、やはりこの便覧の中で目にした『月に吠える』『青猫』というタイトルにはただならぬものを感じて震えたのだけど、学校の授業では朔太郎の詩を読む機会はなく、その後も詩集というと何だか敷居が高くって読まぬままきてしまった。

 で、今になって読んでみた朔太郎の印象は、“饒舌な激情家”。

 
 自然の生命力とでもいうようなもの~あるいは野性的な力強さでぐんぐん萌え耀き、あるいは衰え萎み腐臭を放つその生命力を、いじらしく愛しいものと感じる一方で、その旺盛さを個の意志を飲み込むものとして恐れ、嫌悪し、しかしまた、その限りないやさしさ、安堵を与える温かさに誘惑され欲望を感じながら、自分がそこから疎外されていることに苦しみ、悩む。


 私が根かぎり精かぎり叫ぶ声を、多くの人は空耳にしかきいてくれない。

 自分の言ふ言葉の意味が、他人に解らないということはどんなに悲しいことであるか。
 「言はなければならない事」


 自己矛盾の苦しみや、どこにも“自分の言葉が通じる場所”~安住の地を見つけ得ない孤独の為に、彼は異様なまでに饒舌に沢山の言葉を語るが、その饒舌さは彼の言葉を聞かない人たちに向けて逆立てられたハリネズミの針のようで、耳を傾けようとしても針が刺さって痛い。また、妻や老母や馴染みの女達に身の回りの世話をやいてもらってるあたり、“孤独を問題にするんなら、自分の孤独くらい自分で守れよなぁ・・・”と思わないでもない。あ~ 何か、いつまでも心が中2の人・・・だったのか? 彼は。

 正直に言って、ここに収められた詩や散文に良い印象は持てなかったのだが、

私が『表現の秘訣』を握ったあかつきには、私は私の芸術を捨てることを躊躇しない。なんとなればそれ以上の芸術はどんな人にとっても必要以上のぜいたくである。
 「言はなければならない事」


 という、この言葉があるせいで、彼の言うこと全てを“OK!”としてしまいたいような気もする。彼が寂しかったこと、自分の言葉が通じて欲しいと思っていたことは本当なんだものな・・・。




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genre : 本・雑誌

2012-01-21

赫夜島 : 宇月原晴明

「赫夜島」 宇月原晴明『Fantasy Seller』収録)

 『竹取物語』暗黒の後日譚。

 月に帰るかぐや姫が時の帝に遺した不老長寿の霊薬。富士の山頂で焼かれたはずの霊薬が、何者かの手によって、富士の麓の湖に浮かぶ小島~瘴気に覆われ、生きて動くものの影とてない「赫夜島」に秘匿されているという。

 醍醐天皇の御世~菅原道真の怨霊に脅かされる宮廷。幾重にもめぐらせた几帳の内で、道真の崇りを恐れ、怯え、震える帝の心を安んじるため、かぐや姫の霊薬を献じるべく、藤原北家の公卿・仲平の命を受けて二人の侍が「赫夜島」へと放たれる。一の矢は将門、二の矢は純友。

 湖に白く漂う瘴気の中、眼前に姿を現す「赫夜島」~かぐや姫が五人の貴公子に求めた宝が斯くもおぞましいものに変じた人外境のありさまに瞠目する。

 闇に極彩色で描いた悪夢の絵巻の迫力には息をのむが、短篇であるせいか、歴史と幻想の物語の融合の弱さを感じるところもあり、展開の無理やり感を力技でねじ伏せたような印象が残るのも否めない。やはり、宇月原氏にはじわじわと世界を侵食していくような長大な物語を期待してしまう。




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2012-01-14

詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談 : 古舘春一

『詭弁学派、四ツ谷先輩の怪談。』 古舘春一

 これは、「10代の暗黒」の物語だなぁ・・・。


 誰もその姿を見たことはないが、学校の屋上に棲みつくという“幻の生徒”~ 怪談噺と引き換えに、怪奇事件を解決する四ツ谷先輩。タイトルの「詭弁学派」にくいついたモンとしては、四ツ谷先輩の超人的な「詭弁」を期待していたんだけど・・・彼は、詭弁で周囲を煙に巻くのではなく(怪談を愛するあまり言動におかしなとこはあるにせよ)、正統派の「怪談語り」であった。

 幼女連続殺人に監禁事件、バラバラ殺人・・・事件解決の過程を眼目にしたサスペンスってわけじゃなさそう。起きてる事件の重大さ陰惨さの割に、外の社会の描写は少なく、語りは常に学校内で行われる。ああ、これは「学校の怪談」なんだな。四ツ谷先輩の「語り」は事件の真相を明かすのではなく、事件に関わる人の心の中の暗黒を「怪談」としてひきずり出す。

 学校という場で語られる様々な怪談。物語として形を与えられた暗黒。誰の目にも見えない、ずっと中2のままの“幻の生徒”でありながら、怪談を語ることで学校につながっていた四ツ谷先輩。


 それは「高校生になる」という明るい形でではあるけれども、7つの怪談ともう一つ「四ツ谷先輩」という物語を残して、彼は留まり続けた中学から姿を消し、本当の幻になった。“愛すべきものの消滅”を思わせる「物語」の終わりはやはり切ない。


 本編終了の後に、はじまりの物語~四ツ谷先輩が“幻の生徒”になるまでのお話しが付されているのも、構成的に何かニクイ。


  

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2012-01-07

歌舞伎-過剰なる記号の森 : 渡辺保

『歌舞伎―過剰なる記号の森』 渡辺保

 渡辺保氏と歌舞伎はしっぽりと深い仲なのである。歌舞伎は氏を虜にし、深い深いところにまで染みこんで、生々しく息づいている。氏が「口上」に言うとおり、氏が研究の対象とする歌舞伎は氏の内にあり、その『内なる歌舞伎』に目を凝らして本書は書かれている。

 自分の内へと向かうその視線が生む緊迫感は、著者による六代目歌右衛門論『女形の運命』にも感じたが、その視線の先で歌舞伎も艶やかなその身を一時やさしく任せるようで・・・ それはもう、密室で抱きあい濃密に目と目を見交わす二人。“ダンダンダンッ”「あなたたちっ! イヤラしいわよっ!」と心で叫んでみるが、私のヤキモチが割り込む隙間など無く・・・


 物語を宿らせる役者の身体、劇場という空間~それを形づくるシステム、そこを満たす音、戯曲に折り込まれる特徴的な場面・・・歌舞伎を構成するそれら一つ一つ~その精神、それがもたらすものについて語りながら、歌舞伎という芸能が立ち上がらせる世界に近づいていく。

 役者の身体、その動き、技術、戯曲、型、後見、ツケや柝、下座音楽など舞台上の音、道具、装置・・・すべてが、所謂リアルな事物、事象ではなく、見えないものを見せる~時間も空間も次元も自在に行き来する“うその中の真実”を見せるためにある。


 著者は自分の『内なる歌舞伎』に目を凝らすけれど、私はやはり私に見えている歌舞伎を見る。

 目には見えないはずの“何か”が“見える”。歌舞伎を観ていると稀にそういう瞬間を体験する。何がどう反応して“それ”が“見える”のか私には分らない。おそらくは役者の身体の中に、もしくは型といわれるものの中に、ものすごい圧力で圧縮された膨大な情報量が・・・瞬間、一気に弾け、目眩を感じるほどの勢いで渦を巻き流れ込んでくる。その瞬間の衝撃、陶酔感はいつまでも尾をひいて中毒のような症状をひきおこす。その感覚を味わいたくて劇場に足を運ぶものの、白塗りの顔での感情を顕わにした迫真の演技に、白けた気持ちにさせられることもままあり、そんな時には歌舞伎が持ち続けてきたらしい見えないものを見せるパワー・魔法は失われつつあるのかもしれないという不安、おそれを感じることもある。

 しかし、今現在の舞台に、江戸やそれぞれの時代の歌舞伎を見た人たちが目にしたであろう幻~超現実を出現させるために必要なのは、歌舞伎を生んだ『江戸の観念』や、明治、大正、昭和の名優たちの芸を単純に獲得、再現することではないのだろう。

 あまりに洗練され芸術的に磨きあげられたために、高尚なものとして受けとめられることが多いように思える、歌舞伎にたずさわる人たちの芸、技、その舞台。しかし、歌舞伎はせっかく研ぎ澄ましたその力を、どこに向かって振るうべきか、見失いかけているんじゃないだろうか。

 現実を超えた美しい嘘の中の真実に陶然としたい・・・そういう気持ちは現在の人たちの中にもある。その気持ちは、今、何に向けられているのか。歌舞伎はそこのところを狙いすましていかなくては。だって、歌舞伎って、もっと、もっと!もっと!!! 甘くて、荒々しくて、美しくて、危険なもののはず。すべてが奇跡的にかみあったときの歌舞伎の舞台って、3Dの映画よりも、ゲームや、マンガや、人気アーティストのライブよりも、よっぽど! よっぽど!!!


 渡辺氏には及ぶべくもないけれど、私だっていつか歌舞伎と深い仲になりたい。そのために、歌舞伎には私をもっとメロメロに翻弄して欲しいのよ~。


 

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