2011-11-26

須永朝彦小説全集 : 須永朝彦

『須永朝彦小説全集』 須永朝彦

 10代の頃に出会えばよかった。今となっては、長い時を生き続ける美貌の吸血鬼や、長い睫の美少年などというものへの感受性なんてすっかり磨耗してしまっているよ・・・と茶化してみたが、読み始めた最初の夜の夢には吸血鬼が現れ、そういうものに触れて何やら平静でいられなくなるような何某かがまだ心の中にあることを認めざるを得なくなった。

 “10代の頃に出会えばよかった”というのは、吸血鬼や美少年など似合いはしない残念な自分を直視しないための言い訳だけども、それでもやはり、出会うのは10代の頃がよかった。あの独特の気配を発する本屋の奥まった場所にある棚で、函入りの吸血鬼小説集『就眠儀式』に出会ったのだったら、きっとそれはもっと特別なものになっていただろう。


 東欧の暗がりに住む吸血鬼、人を喰う天使、若い闘牛士の死、森の悪魔・・・怖ろしくも圧倒的に美しい異形のものたちへの傾倒と憧れを、繰り返し繰り返し書き綴った物語は、ありふれた人の生活を反転させるような危険なものであるにもかかわらず、暗黒や陰惨さを少しも感じさせず、ただただつよく、純粋な・・・美しい誘惑者への憧れ。

 物語を綴る青年はきっと、女嫌いで潔癖で自惚れ屋で、でも臆病で・・・。いつか彼のもとを黒衣に身を包んだ美貌の吸血鬼が訪れ、彼を攫ってあげればいいのに。




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2011-11-19

サヴァイヴ : 近藤史恵

『サヴァイヴ』 近藤史恵

 「生き残る」という言葉が感動的に刻まれる。

 サイクルロードレースの世界を舞台にしたサスペンス『サクリファイス』の外伝となる短篇をまとめた作品集。

 本編での主人公・白石誓の渡欧後を描いた「老ビプネンの腹の中」「トウラーダ」、石尾の後、オッジのエースとして走る伊庭の「スピードの果て」、そしてチームメイト赤城直輝の目を通して、オッジのエースとして存在感を増していく石尾豪の姿を描いた「プロトンの中の孤独」「レミング」「ゴールよりももっと遠く」

 「プロトンの中の孤独」、「レミング」、「ゴールよりももっと遠く」は、『Story Seller 1,2,3』ですでに読んでいたが、『サクリファイス』『エデン』の周囲にちりばめられたストーリーを続けて読むことで見えてくるものもある。


 「ツール・ド・フランスに行くんじゃないのか」(「ゴールよりももっと遠く」)


 「ゴールよりももっと遠く」単体で読んだ時には、うまく飲み込めなかったこの石尾の言葉が、改めて「プロトンの中の孤独」と並べて読むことで何かフッと腑に落ちた。

 「なあ、石尾。俺をツール・ド・フランスに連れてけ」(「プロトンの中の孤独」)


 赤城や石尾が見ているのは「ツール・ド・フランスに行く」というゴールではなく・・・

 「まだ、可能性はゼロじゃない」(「ゴールよりももっと遠く」)


 限りなくゼロに近い、でもゼロではない可能性の中でもがきつづける自分の姿か・・・。


 狂気さえはらむ猛スピードの集団。常に強いられる緊張。恐怖。美しく過酷な道のり~その中を走る。・・・その中で、足掻き、「生き残る」。


「プロトンの中の孤独」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-422.html
「レミング」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-477.html
「ゴールよりももっと遠く」感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-538.html


  

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2011-11-12

ゴールよりももっと遠く : 近藤史恵

「ゴールよりももっと遠く」 近藤史恵(『Story Seller 3』収録)

 サイクルロードレースの世界を舞台にした『サクリファイス』の外伝シリーズ。チーム・オッジのエースの座を不動のものにした石尾と、石尾のアシストを務めながら、ピークを越え現役選手としての限界を感じ始めている赤城。赤城の視点で語られる石尾。


 今あらためて思うと、『サクリファイス』を読んだときには、不気味なまでに圧倒的な“エース”としての存在感ゆえに、石尾の人としての内面にはあまり興味を持たなかったかもしれない。「プロトンの中の孤独」「レミング」と読んでいく中で、ロードレースという“団体競技”への違和感を口にしながらも、実は周囲の誰よりも競技そのものと一体化してしまう・・・そういう魔性が石尾にはあるのだと思った。その魔性に惹かれた。いかに彼が一人で、孤独に走ろうとも、彼の走りは他の競技者たちを巻き込んでいく。そういうことに彼が自覚的なのかそうでないのかはわからないけれど、多くの犠牲を求める残酷な競技の中で生きることを欲し、愛し、誇りにしているのだと・・・そう思ったのだけど・・・。

 競技の厳しさを知り尽くしているはずの石尾が、引退を考え始めている赤城に言う~「ツール・ド・フランスに行くんじゃないのか」「まだ、可能性はゼロじゃない」。信じていないこと、場を繕うだけのことを石尾が口にするとは思えない。ならば、その真意は? 石尾が“ゴールの先”に見つめるものな何なのか。ライバル達がみな力尽きてしまったレースで、なおアタックをかける石尾は何と闘っているのか。彼が求めたのは“勝つこと”ではないのか? また、石尾のことがわからなくなった。

 たぶん、彼はこうやってずっと走り続けるのだろう。アシストの力など必要とせずに。



 もう一度、『サクリファイス』を読み返したいと思った。



・・・しかし、赤城さん・・・石尾にハマりすぎ。


 

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2011-11-05

死ねばいいのに : 京極夏彦

『死ねばいいのに』 京極夏彦

 これも“憑き物落とし”のようなものなのかしらん。


 殺人事件の被害者・亜佐美と関わりのあった人たちのもとへ、素性のわからぬ若い男が訪れる~死んだ女のことを尋きたいと。

 見ず知らずの若者の訪問を訝しみ、その礼儀知らずで常識はずれな態度に苛立ち、邪険に追い払っても尚「アサミのことを尋きたい」という若者を前に、後ろ暗い心は怯え・・・心の中にじわじわと根をはり、いびつに凝り固まった思い~彼らの中の“憑き物”が頭をもたげる。

 だいたい、何でこの人たちは初対面のアヤしい男に、ベラベラと自分のことをしゃべるのだろう? と読みながら思ったのだけど、“憑き物”のせいといわれれば納得もできる。

 “憑き物”つきたちは、見ず知らずの男の前で語り続け、やがて、学歴も、定職も、礼儀も、常識もない男の口にする一言で・・・解体される。そして、まっさらで何も憑いていないかに見えていた男には、亜佐美が憑いていた・・・のか?

 結局、亜佐美については、ほとんど何も語られない。誰もが自分のことしか語らない。亜佐美のことを尋きたがっていた男さえ、本当に知りたかったのはおそらく亜佐美のことではなく・・・


人はどのくらい他人に関心を持っている(持てる)のか? やけに不安をあおられる。読後、妙に自分語りをしたくなる。




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