2011-06-29

仏像のひみつ ・ 続仏像のひみつ : 山本勉

『仏像のひみつ』『続仏像のひみつ』 山本勉

 仏像界の組織、仏像のしぐさ、服装、体型、素材、仏像の体内について、『続~』では、もう少し踏み込んで仏様の周辺にいらっしゃる仏以外~人、神、動物などの像について、専門用語を使わず易しい言葉で語られる。

 仏像の姿からその仏様が組織のどのあたりに属しているのかがわかり、素材や体型の特徴からいつの時代に作られたのかが推測できる。仏像を見る上で基礎となる知識を少し持っていることで、その先にあるものへと興味をすすめることができる ~ 仏教の考え方だとか、仏像に込められた人の想いとか。

 衣服を脱いだ仏像の裸体を見せてしまうという奇抜なこともやりながら、語り口はとても易しくて抵抗なくのみ込めるのだけど、難しい漢字の並んだ仏の名やマントラを口にすることに快感を覚えたり、仏が結ぶ秘密めいた印相に興奮したりする向きにはもの足りないところもあるかもしれない。

 そういう私も、仏像そのものというよりも、『仏教という宗教がつくりだした、さまざまなお話のキャラクター』としての仏像に魅かれてしまう方なので、仏像単体のひみつよりも、彼らが属する物語の秘密の方を知りたいと思ってしまうのよね~。

 物語のキャラクターとしての仏像という見方をするなら・・・
こういうのもアリかもしれない→『The Quest For History 仏像イラストガイド』




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2011-06-25

写楽 閉じた国の幻 : 島田荘司

『写楽 閉じた国の幻』 島田荘司

 浮世絵の世界に突然現れ、わずか10ヶ月間の活動の後、忽然と姿を消した謎の浮世絵師・東洲斎写楽。作品の他には彼の存在の痕跡を記すものは何一つと言って良いほど残されていない。多くの人たちによって様々な説が展開されながらも、未だ決定的な答のでない写楽の正体を小説の形で追った大作。

 学会を追われ、家庭に多くの問題を抱え、さらに息子の事故死という悲劇に見舞われ、死すら考える最悪の状態にあった浮世絵研究家・佐藤が、手元にあった1枚の肉筆画を頼りに、息子の事故を通じて知り合った大学教授・片桐の助力を得て、写楽の正体に挑む。

 私は写楽の正体について、これといった持論や思い入れを持っていなかったので、作者が導き出した写楽の正体に、目からウロコが落ちたような衝撃を受けた!というわけではなく、割と淡々とその正体を受け入れたのだが、作者が立てた推論には、既存の権威に惑わされず自分に見えるものを見続ける爽快さがあり、その証明の過程にはゾワゾワと興奮する。何より私にとって魅力的なのは、写楽の正体をそのように考えることで、みるみる輝き出すドラマ ~写楽を世に出した蔦屋重三郎の出版人としての天才的眼力、洒落と反骨精神、写楽の絵や蔦重の振る舞いを許し難かった歌麿の誇り高い美意識~ があることだ。 

 写楽の正体を追う佐藤たちの足取りに添うように挿入される江戸編は、写楽の近くにいたはずの人々~蔦重、歌麿、京伝、北斎ら~を生き生きと描いて、推論を彩る物語として十分に魅力的なのだが、現代編で佐藤のプライベートな部分として描かれるドラマが、写楽の正体を追うストーリーにうまくからまず、作品の足を引っ張っている気がする。

 序盤のかなりの分量を費やして書かれる、主人公・佐藤の家庭の問題とか、佐藤の息子を死に至らしめた回転ドアの事故の事、佐藤が手に入れた肉筆画の事は宙ぶらりんなままであるし、片桐教授が時折見せる思わせぶりな表情についても、その後ストーリーの中で何か意味があったようには思えない。佐藤と片桐教授の出会いも何か唐突な感じが拭えないし、片桐教授が専門外である写楽研究に何故ああまで関わろうとしたのかもすんなりと納得し難い。

 いっそのこと現代編のドラマは大幅に削って、論文に近い形で書いた方がスリリングだったのではないだろうか?

 あとがきによると、作者もそのあたりの不完全さは承知のようで、裏のストーリーとして用意していたものを、諸々の事情で本作には盛り込めなかったことを語っている。そのあたりを補完する続編の執筆も計画されているようなのだが・・・、続編が出たとして、今と同じテンションで読めるかどうか・・・。




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2011-06-22

『吾輩は猫である』殺人事件 : 奥泉光

『『吾輩は猫である』殺人事件』 奥泉光

 麦酒に酔っ払い、水甕で溺れ死んだはずの吾輩は、気が付くと上海にいた。水甕で溺れてからこれまでの記憶もない。そして、見ず知らずの異国で生きるべく街を徘徊する吾輩の目に飛び込んできた「苦沙弥先生殺害さる!」の記事。

 シャム猫の伯爵、隻眼の黒猫将軍、地元猫の虎君、英国猫のホームズ、ワトソンたちが集う上海の猫サロンでの、吾輩の記憶喪失と苦沙弥先生殺害の謎をめぐる推理合戦と、港に停泊する怪しげな船上での大冒険。暗躍する迷亭、多々良、東風、独仙ら臥龍窟の面々の影。寒月博士の手によって遂に実施される世紀の大実験! いよいよ明かにされる事件の真相はいかに?! 

 読み終えてつぶやく・・・「・・・よくわからん」

 いや、漱石の文体を模写して語られる、猫たちの軽妙かつ何となく深い感じのこまっしゃくれたサロンの様子や、健気な吾輩の胸の内を楽しみながら読んだのは確かなのだけど、読後の感想は・・・しばらく口をぼんやりあけて・・・「なんなんだ?」なんである。

 結局これは・・・漱石の『吾輩~』を限りなくループする“終わらない物語”にする・・・ただその為の、随分きな臭くて、また随分ロマンチックな仕掛けの小説・・・なのか?




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2011-06-18

吾輩は猫である : 夏目漱石

『吾輩は猫である』 夏目漱石

 夏目漱石の小説って、『こころ』の他には子供向けの文学全集で『坊ちゃん』を読んだことがあるくらいで、さすがに日本文学史に輝く文豪の作品をもう少し読まなきゃいかんだろうとつねづね思ってはいたんだな。

 教師の家に拾われた猫が、主人の家にあつまる奇妙な人たちや、その人たちが暮らす人間社会というものを観察し批評する。教師の家に飼われるだけあって、そこいらの愚民などおよびもしない高い見識を誇り、人間顔負けの理屈をこね、人間には相当耳に痛い批評を加える猫だけれども、そこはやっぱり猫だけに、どこもまでもかわゆらしさがついてまわる。運動と称して垣根を渡ったり、虫をとったりするのにも、ひとくさり理屈をこねなきゃいけねいのねぇ、猫さん。

 終盤では、突然といってもいい感じで、自己の自覚~個人主義の問題が顔を出し、そこにおける西洋と東洋の文化の相克なんてものも語られる。話は自殺の流行・奨励なんてとこにいきついて、滑稽な中に暗鬱な気分が薄く漂う。ああ、漱石はそういうことに悩んだ人だと、学校の授業で習ったなぁ。

 終盤のうっすら暗い感じはさておいて、私がいちばん好きなのはこのくだり~ 他人の素行や評判を嗅ぎ回るような卑しい真似をする成金・金田の屋敷に乗り込もうと決意する猫。

 吾輩は猫だけれど ~ 略 ~ 此冒険を敢えてする位の義侠心はもとより尻尾の先に畳み込んである。


 猫の義侠心の在り処を「尻尾の先」とキメた漱石先生の素敵さに何だか参ってしまった。 




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2011-06-15

ワールドアトラス : いとうせいこう

『ワールドアトラス』 いとうせいこう

 いとうせいこう氏の過去の作品はすでに絶版になっているものもあり、入手するためには専ら古本屋やネットオークションをチェックすることになる。この『ワールドアトラス』も、古本屋(ブックオフ?)で探して買ったものだが、購入以来じっくり読むでもなく、かといって本棚にしまいこむでもなく、食卓のあたりに投げ出されたままになっているのを、時々ぺらぺらとめくっては「Varbalian(ヴァーバリアン)」=「言葉の野蛮人」たるいとう氏の文章を拾い読みしている。

 単行本版はもっと大掛かりなものだったようだが、私の買った幻冬社文庫版はコンパクトに編集しなおされていて、いとう氏得意の「意味・物語の書き換え」が辞典形式で展開される。この辞典で世界地図を読み直すと、自分が思っていたところとは全くちがうところに立っている、なんてこともある。一つの言葉に“意味”を結びつけるだけでなく、ついつい暴走気味に“イメージ”を飛躍させてしまういとう氏の感覚には毎度のことながら“こりゃ、私には皆無のセンスだなぁ”と降参してしまう。

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2011-06-11

チーズと塩と豆と : 角田光代・井上荒野・森絵都・江國香織

『チーズと塩と豆と』 角田光代・井上荒野・森絵都・江國香織

 NHK・BSの紀行番組と連動したアンソロジーだということは、読む前にちらっと目にしていたのだけど、それにしても、収録された4篇のうち3つまでもがとても似かよったトーンの作品になっているのはどういう訳だろう。

 スペイン・イタリア・フランス・ポルトガルの田舎を舞台に、その地に根付いて暮らす人々、土地の風土とそこにしみ込んだ「食」を描いた4つの短篇。

 何かを考え始める前から周囲にあり、その中で育ち、口にしてきたもの。身体と心の根幹を養ってくれた食べ物。深く刻み込まれた生まれ故郷の刻印。

 私もまた、広島の郊外で生まれ育ち、東京に出てやっと息をついたような開放感を味わい、九州で暮らしてその風土の違いを実感し・・・自分の中に、数年前まで意識することのなかった「お好み焼き愛」が芽生えているのに気付いて驚いたりしている。

 しかし、まだ故郷の町の窮屈さや、田舎の頑迷さを恐れる気持ちの方が強い私は、作中の主人公たちが、強い強い何かにひかれるように都会から生まれ育った田舎に戻っていく姿には、かすかな失望と反発を感じる。

 私が共感を覚えるのは、「アレンテージョ」の中のこんな言葉の方だった。

 僕は思うのだけれど、おなじものを見るというのは大事なことだ。べつべつの思考がべつべつの肉体に閉じ込められている二人のべつべつな人間が、それでもおなじ時に同じ場所にいて、おなじものものを見るということは。

 僕は思うのだけれど、おなじものをたべるというのは意味のあることだ。どんなに身体を重ねても別の人格であることは変えられない二人の人間が、日々、それでもおなじものを身体に収めるということは。

(「アレンテージョ」江國香織)





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2011-06-08

ちくま日本文学28 梶井基次郎

『梶井基次郎 ちくま日本文学 28』

「檸檬」
 当時兄は高校生くらいだったと思う。普段それほどおしゃべりではない兄が、「梶井基次郎の『檸檬』は凄いんで。檸檬で丸善を爆破するんよ。」と、私には訳のわからんことを少し興奮気味に話してきた。

 そんな兄の姿が何だか忘れられず、「檸檬」が収録された梶井基次郎の文庫を私が初めて読んだのはいつのことだったのだろう? 文中にははっきりと「私」が暮らしているのは京都の町であることが書かれているのに、私は今まで、それを東京の憂鬱な青年の話だったと記憶違いしており、お茶の水の丸善が檸檬の爆弾で爆破されるイメージをずっと持っていたのだ。

 しかし、「檸檬」を「凄い」と言ったあの頃の兄は、心にどんな憂鬱を抱えていたのだろう。

「鼠」
 「戯れに遁してやった鼠」に向かって語りかける「俺」の言葉が、どこまでも他人事で気楽な“戯れ”であるために、鼠の味わった絶望的な恐怖がとても黒々として見える。

「愛撫」
 猫の耳を「切符切り」でパチンとやってみたい・・・なんと言う危険な思いつき。

「Kの昇天」
 悲しくて、透明で、不吉な、現実を離れた美しさ。初めて梶井基次郎の文庫を読んだ時、一番印象に残った掌編だが、私はここでも妙な記憶違いをしていた。Kが月へ登っていった後の浜辺には、Kの義眼が残っていた・・・と、そういう風に覚えていたのだ。

「母親」
 『~そして恐らくはこの間まで私は母をおそれていた。どこまでも母は私をおさえつける人であった。』

 私の母への感情も概ねこのようなものであった。しかし、私は作中の「私」のように母を失望させることができなかった為に、そして作中の「母」のように、母が私を諦めることがない為に、私は、「私」とは違う形で母を裏切りながらも、母に詫びる気持ちにまだなれないでいる。

「奎吉」「大蒜」
 ダメさの限りを尽くした挙句に進退窮まり、遂にいたいけな弟の貯金を騙し取ろうとする兄の心。(「奎吉」)

 新任の柔道師範に「大蒜」という渾名をつけて得意になっていた少年が、だんだんと恐ろしい想像に取り付かれ・・・。(「大蒜」)

 非常に限定された場面を切り取り、ミニマムな世界の中で起こる感情の変化を克明に写し取るうちに、切迫した悲壮感が同時に滑稽にも見えてくる。何だか町田康の小説と似てると思った。


 その他、収録作の多くに「分身」の感覚が満ちている。風景の中に移植された感情。感情の中に棲む風景。幽霊のように、自分から抜け出た「分身」を自らの視界の中にくっきりと見る。いつしか分身と入れ替わった自分が、抜け殻になった自分を見つめ返す。




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2011-06-01

Dの魔王 : 霜月かよ子

『Dの魔王』 霜月かよ子


 スパイ養成機関として陸軍内に創設された通称“D機関”。魔王・結城中佐に育てられた“D機関”のスパイたちの活躍を描く連作。

 「死ぬな、殺すな、(心理的に)とらわれるな。」を掟とし、生涯を“影”として生きることを背負って任務につくスパイ。根拠のない精神論に染まった軍部の人間たちの中にあって、“D機関”のスパイたちのクールさ、異能ぶりが際だつ。“スパイ”という存在に込められたロマン満載。これって多分原作の隅々にまで満ちてた感じでもあるんだろうなぁ。原作は読んでいないんだけど、原作の内容を十分に練れた漫画なんだろうなって感触がする。

 ただ、「ミステリ」という感じがあまりしないのは、小説を読むのに比べて文字を追うことで生まれるジリジリ感がないからだろうか?

 魔王・結城中佐は陸軍内だけでなく“D機関”の中にあってさえ、もっととらえどころの無い異様な人物をイメージしていたんだけど、意外にいい人だったという印象。


  

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