2011-05-28

短歌の友人 : 穂村弘

『短歌の友人』 穂村弘

 穂村氏が近・現代の短歌について考え綴った文章をまとめた歌論集。短歌という表現形式の特性、短歌という形式で発せられる言葉によって、そこに何が現れるのか・・・穂村氏の文章を通じて、これまでほとんど縁のなかった短歌の世界に触れる。

 引用された歌からも、それらについて思考する穂村氏の文章からも、喉元まで迫った叫びのようなものが・・・幻聴のように聞こえて来るような気がして苦しい。

 世界の中から其処此処に漂う目に見えぬもの、形を持たぬものを掴み出して、自らの言葉の内に捕らえる~不定形な世界に自分の言葉で形を与える。短歌という「世界」と「私」が直結するような言葉を選んだ人たちの、倣岸とも思えてしまうほどの心の強度、世界に対する執念はどこからくるのだろう?

 自分の発する言葉に対する強烈な自負、執念の一方で、穂村氏の文章からは、自分が摑みだそうとしているものへの怯えのようなものも感じるのだ。

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2011-05-25

浄土 : 町田康

『浄土』 町田康

 悪いこと続きで精神が危機的状態にあり、占い師にすがった挙句、占い師に予言された不吉なものを見てしまう男(「犬死」)

 町会費を六ヵ月分滞納するほどに超然としていたが為に、俗物的に心の捻じ曲がった町内の皆からつまはじきにされ、たばかられ、一人でどぶの中に佇む男の悲憤。(「どぶさらえ」)

 俺は俺であるということで既に素晴らしい。(「あぱぱ踊り」)

 『闇に向かっておもうさま本音を言ってこましたろうと思ったが、何も思いつかなかった。』(「本音街」)

 信じられないほど卑怯かつ狡猾かつぼんくらな男と、ありえないほど心が捻じ曲がった男と、その上司と同僚と・・・そんな職場で働く女。(「自分の群像」)


 どんなにはっきりと現実を捕らえていても、はたまた現実に背を向けた超現実の中に閉じこもっても・・・皆、駄目じゃん。駄目なんじゃん。

 無力感というか、虚脱感というか、疎外感というか・・・そんなものにとりつかれる。結局、孤独・・・なのか。

 ・・・私ゃ最近口を開けば孤独孤独ばっかり言ってて、もうちょっと開けた心持ちになれないもんかと、自分に言ってやりたいような気もするが。




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2011-05-21

若様組まいる : 畠中恵

『若様組まいる』 畠中恵

 『アイスクリン強し』のちょっと前にあたるお話。

 どうも、「若様」という言葉につられてしまう(苦笑)。まぁ結局、私にとってはこの若様たちの育ちの良さ(だけ?)がこのシリーズの魅力なんだけど。

 元幕臣の子息にとってはままならない明治の世。苦労を覚悟で巡査になる決意をした「若様」たちの奮闘。不正の匂いもプンプンの不利な採用試験を突破して、二ヶ月間の教習所生活に入った若様たち。

 若様たち、薩摩方の氏族、維新後も徳川家に付き従った者、平民たち入り混じっての寄宿舎生活。一癖ある教官たち、謎の発砲事件。反目し、競い合い、時に和解し、困難を通じて育まれる友情。ほろ苦く、甘じょっぱい青春物語。

 しかし、若様たち・・・洋々と拓けているわけではない己の境遇ゆえ、また頼ってくる家人たちの為、悲壮な覚悟を固めて巡査を目指した割には、教習所にはご法度の酒を持ち込んで酔っ払っているようでは、その覚悟の程が怪しまれるのだけど。


 

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2011-05-18

アイスクリン強し : 畠中恵

『アイスクリン強し』 畠中恵

 明治半ば。居留地育ちの西洋菓子店「風琴屋」店主・皆川真次郎とその友人~元旗本の若様で「若様組」を名乗る巡査たちに差出人不明の手紙が届く。『差出人が誰であるかを推測し、その一番に欲するものを持参せよ。』 手紙の到着と相前後して、様々な騒動が、真次郎と「若様組」の面々を襲う。

 ストーリーにはどこを目指しているのかわからない、何だかうまくスカされたようなモヤッと感というか、フワッと感が漂うのだが、真次郎や「若様組」の面々の爽やかでしたたかな漢ぶりの良さで何とか読める。(いや、キャラクターの良さというよりも、「若様組」というネーミングの良さで読んだ・・・と言えるかも。)

 ところで、真次郎や「若様組」の長瀬がよく見せる、口元をかすかに歪めたり、片眉や口の端をくいっと上げる表情は、女子には(一部の?)かなり魅力的なんだけども、あまり安売りすると価値が下がりますよ。

 ああ、それから・・・もひとつ残念なのは、お菓子が印象に残らないってことかなぁ。西洋菓子屋が主人公で、各章のタイトルにはお菓子の名前がつけられてるのというのに・・・“お、お、お、美味しそ~”と思わせる描写がない。ああ、香り良く、甘~い、文明開化の魅惑の西洋菓子をもっと堪能したい。




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2011-05-14

かくれさと苦界行 : 隆慶一郎

『かくれさと苦界行』 隆慶一郎

 神君家康公より吉原創設にあたって惣名主庄司甚右衛門に与えられた「神君御免状」をめぐる、吉原者と裏柳生の壮絶な闘いを描いた『吉原御免状』の後に続く物語。

 「御免状」に記された家康の秘密、中世の漂白の民~“無縁の徒”傀儡子族の“最後の砦”としての吉原という驚くべき道具立てを揃え、数奇な運命の下、吉原の未来を託されることとなった松永誠一郎の養父・宮本武蔵を継ぐ二天一流と、柳生義仙率いる裏柳生の暗殺剣の対決を描いた前作の一種の爽快さに比べ、本作にはかなり暗く陰惨な雰囲気が漂う。

 誠一郎との闘いに敗れ右腕を失い、復讐の鬼となった柳生義仙、「神君御免状」を奪わんと義仙を操り執拗に吉原を狙う老中酒井忠清と、吉原の惣名主となった誠一郎はじめ幻斎ら吉原者の果てしない暗闘に、柳生を守る怪物のごとき巨人・荒木又右衛門まで加わって、繰り返される闘いは、その意味さえ覚束ない、ただ無惨に多くの人が死ぬ泥沼の如きものとなる。

 そんな男たちの闘いを描く作者の言葉は、一つ一つがヘヴィメタルな肌触り。例えば、ズバンとストレートに使われる『身震いの出るような恐ろしさ』という言葉。その一撃が重い。その一言を叩きつけられると、本当に本の中から迫ってくる恐怖の感触に身震いがする。言葉の底に刻まれる、重機械が唸るような重く、強く、激しいリズムに、残酷な運命を美しく哀しく生きる女たちのドラマが絡む。

 私は、『花の慶次』を読んでいないのだが、隆慶一郎氏の小説が持つ感触に、原哲夫氏の絵はとてもよく合うのかもしれないと思った。


 前作を読んだ時、いくら人を斬っても曇らない野生の獣のような清々しさを保つ誠一郎を、未だ“人”にならない童子のようだと思ったのだが、本作では、“人”になっていく誠一郎の苦しみが胸を抉る。繰り返される戦闘の中で、一度は死んでしまう誠一郎の無垢な心。それでも、周囲の思いに守られながら、稀有な魂を持つ男として再生する誠一郎の姿に熱いものがこみ上げる。

 しかし、前作『吉原御免状』から、主人公・誠一郎以上に私の気にかかるのは裏柳生の総帥・義仙だったのだ。誠一郎の敵・仇として登場してしまったために、すべての悪を背負い、ことごとく貧乏くじを引かされた義仙が何か気の毒で、どうしても悪役として嫌うことができなかっただけに、誠一郎との長い闘いを経て義仙が到った境地に、そっと手を合わせたい気持ちになった。

『吉原御免状』感想 http://neconohitai.blog71.fc2.com/blog-entry-467.html


 

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2011-05-11

植物はヒトを操る : 竹下大学・いとうせいこう

『植物はヒトを操る』 竹下大学・いとうせいこう

 ある種の昆虫の雌の姿そっくりの花をつけて、雄の昆虫を招き寄せ、蜜を与えて花粉を運ばせる植物の恐るべき戦略! “良くできてるなぁ~”と感心してるばかりじゃない。人間も、その植物の能力の虜なのだとしたら?! 人間を意のままに操るために、植物はその美味しい実を、美しい花を人に与えているのだとしたら!

 条件の悪い土地でも強く繁るよう、より美味しく、より多くの実をつけるよう、より人の歓心を買う美しく珍しい花を咲かせるよう、人間の都合のいいように人は植物に手を加えているけれども、それも全て植物の計算のうち?! だって、そうやって植物が人間の役にたつものになればなるほど、人間は植物を絶やすことができなくなって、植物の繁栄に手を貸すのだもの。

 “あれっ?!”と、もしかしたら昆虫と同じかもしれない自分の立場を見直してみる。そして、人間とは全く異なる生命の形を持つ(何と言っても「タネ」という形で何年間も自分を保存する能力を持ってる。)植物の不思議に驚き、ちょっとした畏れを感じながら素直に頭を垂れる。

 しかし、対人間の場合、生命や種の維持・繁栄のレベルだけでなく、心の部分にまで食い込んできた植物の戦略?がニクい。互いに身勝手に利用しあいながら、やっぱり愛し愛されているともいえる植物と人の関係。お二人の会話の中に、一方で腐れ縁のようでもあり、また一方でつねに瑞々しくもある植物と人の関係が垣間見えるようだ。




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2011-05-07

フラワー・オブ・ライフ : よしながふみ

『フラワー・オブ・ライフ』 よしながふみ

 「胸が疼く」を通り越して「心臓が痛い」。おかげで、読み終えた晩は一睡もできなかった。動悸がおさまらない。翌日が休みで良かった。

 白血病治療の為1年1ヶ月遅れで高校生活をスタートした春太郎とクラスメイトたちの、普通だけど繊細に輝いて少々の痛みとともに過ぎていく日常。

 冒頭から数ページ、本好きな山根さんと相沢さんの会話に、“あ・・・”と目がとまる。

 『休み時間一人で本読んでる子見ると
       度胸あるなあって思ったわよ』

 ・・・ああ。

 あの頃は『こわいこと』が本当にたくさんあった。テストの点数が悪かった。友達の態度がいつもと違う。ちょっと離れたところから聞こえる、ひそひそ話や、クスクスと笑う声・・・大人になってみれば大した事ないと思えることや、それなりにやり過ごせることが、押し潰されそうなくらいの恐怖だったなぁ。好きなものを好きということにすら気を遣い、一生懸命周囲の空気読んでみたところで、完全に手足を伸ばしてくつろげる居場所を確保するのは、とても難しくて・・・。結局、高く築きあげた壁の中から、フツーの高校生活を楽しむクラスメイトたちに、心の中で“愚民”と毒を吐くことしかできなかったりってこともあるよなぁ。

 思い出すとチリチリと胸が痛むような高校生たちの日常に、自分が生の高校生だったときには考えおよびもしない・・・というか大して興味もなかった、教師や親たち~それはそれで大変な大人の世界が重ねられて・・・マンガだからこそ味わえるこの小宇宙。

 良くも悪くもゆるがないものだと思っていた大人たちが、結構至らないところだらけの存在であることにうっすら気付いてしまって傷つくこともある。それでも、誰もが“何とかしよう”と踏ん張って・・・。


 中間テストに期末テスト、放課後のお買い物、文化祭、クリスマス・・・クリアすべき、楽しくも怖ろしいイベント。友達との距離を測り、数々の失敗と上手くいった経験を積み重ね、周囲を恐る恐る手探りする。


 色んなことを少しずつ自分で受け止められるようになって、少しずつ怖いものが無くなって、少しずつ1年前とは違う自分になってゆく。それは少し気持ちが楽になっていくことではあるけれど、何かを無くしていく喪失感と無縁ではなくて。


 “9割方大丈夫だけど、1割の確率で来年や再来年にはいなくなってるかもしれない”ということを受け止めざるをえない ~ その為に、家族への嘘と友達への秘密を心の中に持たなければならなくなった春太郎。春太郎は以前のように皆の前で無邪気に本当のことを言うことを諦めたのだけど、それは重過ぎる現実を受け止めた上で家族や友達を愛していくために必要なことで・・・。

 ラストシーン ~ 寂しげだけど強い目を前に向ける春太郎の上に、はらはらと降りかかる桜の花びら。めぐり来る春の気配。何かを失くし、何かと出会う~少し苦くて不安で、そして新しい扉を開く慄きに満ちた青春の日の傍らにある春の気配。


  

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