2011-04-30

書林逍遙 : 久世光彦

『書林逍遙』 久世光彦

 『美の死―ぼくの感傷的読書』にしても、『花迷宮』にしても、久世光彦氏の語る読書体験は、幼い日の記憶、青年の繊細であったり怪物的であったりする自意識、時代の空気、幻視の光景などといったものたちと、夢とも現ともつかないほど分かちがたく絡まって、疼くように熱っぽい。

 失われていく時代への郷愁、美しさへの憧憬、少年の心にしまわれた後ろめたさと羞恥、死の匂い。

 じくじくと、甘い匂いと痛みの混ざった感傷にずぶずぶ巻き込まれて、生暖かい涙を流してみたくなる・・・不思議な心持ち。

  

FC2 Blog Ranking
スポンサーサイト

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

tag : 久世光彦 読書

2011-04-27

奇想の江戸挿絵 : 辻惟雄

『奇想の江戸挿絵』 辻惟雄

 江戸の読本などに描かれた挿絵の中から、デザイン性に優れ、驚きに満ち、現代のマンガ・アニメに通じる表現、視覚効果が見られるものを選りすぐり紹介したカタログ的な一冊。

 細部まで描きこまれた迫力ある画面を、もっと大判かつ良い印刷で見たいとも思うが、値段的にもサイズ的にもコンパクトな新書でなかったら、私自身手に取ったかどうか・・・と考えると、やはり新書で出して正解なのかもしれない。

 四方に放射する光、湧き上がる黒雲、荒れ狂う風雨、波濤。怨みをまとった幽霊やおどろおどろしい化け物・妖怪が跋扈する異界を、妖しく、怖ろしく、美しく、驚くべきイメージでドラマティックに一枚の絵に仕立てて見せた江戸の挿絵。

 枠線の外にはみ出して描かれた人物が画面に立体感、躍動感を与えていたり、化け物の出現に崩れ落ちる屋根瓦を描くスローモーションの表現、薄墨を使った重ね摺り(スクリーントーンを使った画面によく似ている)で現実の場面と幻視の情景を二重写しにしてみせる技法などは、確実に現代のマンガ表現にも通じている。
 
 この画面を木版で作り上げていた江戸のクリエイターたちの技術力、センス、探究心、エンターテイメントにかける意気、こだわり、プライド、遊び心と猛烈なサービス精神 ~ その仕事ぶりに圧倒される。

 こういう挿絵の存在を知ったからには、このぞくぞく、わくわく感をぜひ挿絵単体ではなく、複雑怪奇・奇想天外な物語と共に味わってみたいと思う。




FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

tag : 江戸 読本 挿絵

2011-04-23

フォトグラフール : 町田康

『フォトグラフール』 町田康

悲しい。せつない。何を信じていいのかわからない。
そんな世の中で私が唯一、信じられるのが写真である。


 うふふ。ゆる~っとした奇想天外。何か写真はトボけてるし、ズレてるし、言葉を操ることに巧みな人の繰り出す文章ってのは気持ちがよくて・・・ 体と気持ちが“ふぅわぁ~っ”とした良い塩梅になります。

 でもね、巻末を飾る「前半分黒で後ろ半分白いヤギ2匹」の写真は“いったいどういう加減でこんな柄に?!”と気になって気になって・・・。写真のパンチ力(というか自然の驚異?)が町田氏の言葉を凌いでるなぁ。




FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

tag : 町田康

2011-04-20

f植物園の巣穴 : 梨木香歩

『f植物園の巣穴』 梨木香歩

 主人公である植物園の園丁が尋常ならざる歯痛のためかかった歯医者で、薬を差し出す手がどうも人間のものとは思われず、小窓の奥を覗いてみると犬が忙しく立ち働いている。犬はこちらの視線に気付いて、「皆まで言わずともよし、忙しいのだから」と言わんばかり・・・ このくだりを読んで“ぞくぞくぅっ”とする。“あぁ、奇妙な世界が入り込んできた。”
 
 しかし、その異界は、私の予想に反して、主人公の日常に静かに穏やかに交わるものではなく、不穏なものを湛えて、主人公を形も記憶も定まらぬ薄闇の世界にひきずりこむ。

 流れ、滞る水の気配。そこに育つ植物。千代という名の複数の女の面影。家にまつわる記憶。

 そのようなものがゲル状に溶け合い、神々の名や、神話的なものをちりばめた世界を行くうち、主人公の自然科学的知識と常識は変容し、彼は新たな「感覚」を得る。

 主人公の胎内巡りのような旅を共にするうち、私もなんとも頼りない、あやしい心持ちになってくる。

 この私は本当に正しく私であるのか?

 
 主人公の異界めぐりの旅は穏やかな日常へと帰って行ったが、私の中ではまだ何も完結しない。

 小さなうろが開いたような気配がする。




FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2011-04-16

ウルトラバロック・デプログラマー : 浅田寅ヲ

『ウルトラバロック・デプログラマー』 浅田寅ヲ(原作:いとうせいこう『解体屋外伝』

 『暗示の外に出ろ。俺たちには未来がある。』

 言葉を武器に精神世界の戦場を行く、「解体屋」意識下の戦闘!


 聖オーガスティン病院の特別室で、長らく記憶を失い、他者の言葉を垂れ流すばかりだった一人の男の意識が再び動きだした。男は「解体屋」・高沢秀人(二代目)。

 暗示~言葉で編まれたプログラムを他人の頭に埋め込む“洗脳”が巨大なビジネスとなった近未来。洗脳集団=「洗濯屋(ウォッシャー)」に対抗する洗脳外し=「解体」のプロとして「洗濯屋」の中から派生した「解体屋(デプログラマー)」。目覚めた高沢の周囲には、高沢の目覚めの鳥~タイ人の医学生ソラチャイ、聖オーガスティンの精神科医・知香、他人の声をコピーし、人を操る歌声を持つ少年・ノビル、ノビルを取り巻く謎の集団が・・・。

 原作小説からして、高速で溢れ出る言葉で編み上げられたビジュアルイメージの奔流!だったのだ。浅田寅ヲ氏はそこに、原作とはまた違った刺激的な画面を創り出した。

 次々と組み上がり積み重なり自分の内外に張り巡らされていく暗示を、絶えず自分を更新し続ける言葉で切り開き、解体する。

 徹底して「言葉」で構築されていた原作の世界が、「画面」で表現されることで、精神的な緊迫感は肉体的な高揚感に変換され、“他者のテクストに抗う自己の言葉”という、自己の存在を問う内なる闘いの色が濃かった洗脳vs.解体の闘いは、寅ヲ氏によって配された魅力的なオリジナルキャラクター ~洗脳企業サイキック・ワークの戦闘員?ルートとリシャート兄弟、高沢のスプリット・セルフたち~ の存在によって、「解体屋」高沢 対 「巨大洗脳組織」サイキック・ワークという局面がクローズアップされた形になった。

 「解体屋」のスプリット・セルフ・・・「解体」の技術として三つに分割された自己~外界で対象に向かい言葉や動作を発する「操作者」、精神世界の前線送りの「戦闘者」、「操作者」「戦闘者」双方からの情報を解析するコンピュータ役の「解析者」~ それらが完全な“技術”として無機的なCGのようなイメージで描かれる原作のクールさにも痺れるのだが、寅ヲ氏が新たに描いた、猛烈に愛すべきキャラクターを持った彼らにもまいってしまうのである。

 キュートな言語感覚を持つオウムの「解析者」と、大時代で装飾過多なハンサムながら、心配性で泣き虫、ガーデニングを愛し、ぬか漬けを常備し、暇ができると刺繍を刺す「戦闘者」。

 「ディアブロ(悪魔)」と「カラベラ(髑髏)」という名前までつけてもらった彼らの存在で、原作の世界が少し変わってしまったことは否めないのだが・・・じゃぁ、彼らに会えなくてもよかったのかと言われると、「いや! いや、いや! 君たちに会えて良かったぁ!」





FC2 Blog Ranking

theme : 漫画の感想
genre : 本・雑誌

tag : 浅田寅ヲ ウルトラバロック・デプログラマー 解体屋外伝

2011-04-13

城のなかの人 : 星新一

『城のなかの人』 星新一

 色々な作品のなかで様々に語られる豊臣秀頼。太閤の遺児・秀頼を星新一は「城のなかの人」と見た。

 世の中の富をすべて我が物にした太閤の待望の若君と、世に二つと無い豪奢な城。その二者の特権的かつ完全な調和の絢爛たる美しさ。愛するものと一体になる幸せな充足の内に、城の外の世界と少しずつずれ続ける哀しさ。

 「城のなかの人」という言葉に凝縮されたイメージが、想いが静かに広がっていく。


 その他、才覚を持った者達の、才能に見合った成功と、その皮肉な結末を淡々と描く歴史小説。

 幕臣小栗上野介の功績と、彼の目から維新を語る「はんぱもの維新」は、薩長や竜馬の維新に凝った頭をいい感じに揉み解してくれる。その揉まれ具合が絶妙に気持ちいい。

FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2011-04-09

春になったら苺を摘みに : 梨木香歩

『春になったら苺を摘みに』 梨木香歩

 『私は本当にはどう感じたのだったろうか。』

 わかりやすい言葉、表面的な感情に惑わされず、注意深く、しっかりと自分の内側に目を向ける。押し付けはしないけれど、主張する。そして、その同じ目で他者に向かう。自分のまわりにボーダーを引くのではなく、様々なグラデーションの中にいる自分を感じる。

 修行僧のように厳しく深い著者の精神。ときに苦しくなるようなその厳しさを、英国の景色と生活感、そこに満ちる空気が穏やかにつつむ。~学生時代、二週間だけ旅をした英国の風景と空気感を思い出しながら読む。記憶の中にある英国の風景は何かしらの手掛かりになってくれている気がするが、それは単なる気のせい・・・自己満足かもしれない。

 ウエスト夫人の営む下宿で暮らす実に様々な人たちと、彼らを驚くべき懐の深さで受け入れるウエスト夫人、そして町内に暮らす人々の交流。自分とは異質な人たちと共存するということ。
 
 私は、できるだけ小さな世界-なるべく似た価値観を持つ人のなかで、波風にさらされずに生きていきたいと思っている。そう願うことは良くないことだったろうか?



FC2 Blog Ranking

theme : 読書メモ
genre : 本・雑誌

2011-04-06

ファンシイダンス : 岡野玲子

『ファンシィダンス』 岡野玲子

 80年代・・・その頃やっと私は物心ついたと言ってもいい(もちろん実年齢の上での話しではなく)。その物心ついたばかりの私に、パラノイアックなまでに様式化されたお山の生活の美しさ~その理不尽さや過度な様式美に隠された合理性、若いお坊さんたちのスタイリッシュで色っぽい法衣姿・・・何か色んなものを強烈に刷り込んでいった漫画『ファンシイダンス』
 
 東京で一人暮らしを始めたばかりの私の目に、DCブランドに身を包み、都市文化を享受して、ディスコやライブハウス、オシャレなカフェで華やかに遊び暮らす陽平くんと仲間たちの姿がまぶしかった。

 私は陽平くんになりたかったの。

 優しくて、賢くて、お茶目で、したたかで、ハンサムで、真朱さんみたいなとびきり美人で面倒臭い女の子に恋し恋されながら、田舎のお寺の跡取り息子という重~い枷をものともせず、オシャレな都会暮らしも、浮世を離れたお山の厳しすぎる修行生活も、恥も迷いも苦悩もぜんぶ込みで、あ・かるくこなしちゃう。真朱さん曰く、『真面目で、正直で、善人だって立派な下地がありながら、悪趣味で悪食でやらしい』陽平くんに、私はなりたかった。

 お山での修行生活の中で、気の遠くなるような時間と空間の広がりや、宇宙規模の真実や、底なしの孤独を垣間見てしまった陽平くん。

 『散り乱れるも仏性さ!』と穏やかに微笑みながらも、陽平くんが、世の中にだけじゃなく自分の内にもある無理解や不寛容に傷ついていたことも今は少しだけわかる。

 20数年前、陽平くんのようになりたくて試みたあれやこれやが悉く恥ずかしい失敗に終わった後も、陽平くんはずぅっと私の憧れであり、指針でありつづけている。




FC2 Blog Ranking

theme : マンガ
genre : 本・雑誌

2011-04-02

三番町萩原屋の美人 : 西炯子

『三番町萩原屋の美人』 西炯子

 時は明治。三番町に店を構える萩原屋のご隠居は、離れに籠って惚れぬいた妻の面影を写したヒトガタ(ロボット)作りに精を出す、界隈でも評判の変人。

 ご隠居を師と仰ぐ工学少年・兼森とその親友の文学少年・島田、萩原屋の番頭・勘二さんに、当代店主の禅二郎さん、禅二郎の嫁きぬさん、ご町内の皆様や、兼森の学校の友人達、色街の姐さんたちや異人さん、やんごとなき方々まで巻き込んで萩原屋を騒がす事件の数々。

 最初の頃はホロ苦い程度だったお話が、終盤に向かってどんどん重くなっていくのにはちょっと参った。話がドラマチックになりすぎて、最初の頃と辻褄あってないような気もするし・・・。まぁ、その辺りには目をつむるけど。

 素っ気ないけれど、自分の身を捨てるほどの優しさで、傷つき、苦しみ、恨みや絶望の中にいる人たちを世の中の明るさの中に導いていくご隠居。どうもご隠居には、やはり西炯子さんがよく描いていたキャラクター ~私が若い頃大変な恋をした嶽野義人の姿がダブる。

 還暦をいくつか越えてるはずのご隠居は、着流しにした派手な着物姿も色っぽい、どう見ても妙齢の美青年。その若々しく美しい容姿、人生を楽しむ明るさや、素っ頓狂な振る舞いにすっぽりと覆い隠されてはいるけれど、ご隠居には死と別れの気配がうっすらと影のようにつきまとう。

 ご隠居に染みた死の気配は、私を不安に、悲しくさせるけれど、それは決して暗い影ではなくて、死と別れを刻みながらも変わらず流れていく時と、その中で生きる人の強さを思わせ、萩原屋のお話に清々しい切なさを添えている。



FC2 Blog Ranking

theme : マンガ
genre : 本・雑誌

プロフィール

やぶからねこ

Author:やぶからねこ

FC2ブログランキング

FC2ブログランキング

ブログランキング
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 漫画ブログへ
カテゴリー
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
検索フォーム
カレンダー
03 | 2011/04 | 05
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
魂に喰い込んでます
月別アーカイブ
Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ